生涯最上のDecemberV


[side:PURPLE]




「うっわ〜美味しそ〜!」




ある日曜日、俺は仲良しのパティシエさんがやっているケーキ屋を訪ねた。
目的は、勿論。赤ちんの誕生日ケーキを選ぶため。




「ねぇ、これ、苺もっと乗せられる?」
「勿論です」
「それで、もっと大きくして、二倍くらい!」




笑って頷くパティシエさんにつられるように、俺も笑った。
黒ちんが細々と言っていたことは、頭の中からすっぽり抜け落ちている。
(仕方がないと、思う。だって大事な赤ちんの誕生日なんだから。)




「去年もこの時期でしたよね」
「んー?」
「大きなケーキを注文されたの」
「ああ、そだねー」
「恋人の誕生日ですか?」




俺は赤ちんやミドチンみたいにたくさんの言葉を知らないから、なかなか言葉じゃ上手く伝えられない。
どれだけ感謝をしているか、どれだけ大切に思っているか、どれだけ救われているのか。
だから、ケーキの大きさや、フルーツの豪華さで伝える。お菓子がくれる幸福は、いつも澄ましてる赤ちんの心だって、満たしてくれるはずだから。




「ちげーし。でも、大事な人の誕生日って意味では当たってる、かな」
「家族とか?」
「っふふ、秘密ー」




(秘密だよ。誰にも教えない。この気持ちはケーキの中に真空パックして、そのまま赤ちんに食べてもらうの。)
そうしたら、きっと笑ってくれる。ありがとう敦って言ってくれる。そう信じているから。




「乗せられるだけ苺乗せてね。真っ赤にしたいの」
「わかりました。赤がお好きな方なんですね」
「んー?どうなんだろ」
「え?」
「赤がすきなのは、俺、かなぁ?」




真っ赤な苺を敷き詰めたケーキは、何よりも幸福なプレゼント。
(だけど、)
赤ちんを象徴するようなそのケーキを、自分で食べられることも楽しみにしているのは、赤ちんにも黒ちんにも、誰にも内緒。








[side:BLUE&PINK]




12月のこの時期。多くの人間がプレゼントを買ったりするものだろう。
その中で一番頭を悩ませているのは、多分、きっと、いや絶対にこの俺だ。




「今年は何あげるの?」




部活のない休日、さつきを誘って街に出掛けてきた。
赤司の誕生日はもう来週。今日中にプレゼントを用意しないと、いい加減やばい。




「…決めてねぇ」
「去年もそうだったね、大ちゃん」
「仕方ねぇだろ、だって、」
「まあわかるけど、赤司くんだもんね」




喫茶店で、正面に座ったさつきは同情したように笑いながら、コーヒーカップに口をつける。
(そうだよ、相手が問題なんだ。)
俺だって、テツや黄瀬や紫原や緑間…いや、緑間はちょっときついかも知れないが、他の奴らが相手だったらもっとスムーズに決められる。
だが残念、来週は、この世の全てを手にしたような天帝様の誕生日なのだ。




「赤司くんって、なんでも持ってるもんね。この間はノートパソコンを最新のに新調してた」




そうなのだ。あいつはなんでも持っている。
頭脳、家柄、才能、人望、更に外見だって悪くない。いや、悪くないどころじゃない、とても綺麗だ。
いつも澄ました顔で、ひとりで何もかも充足しているような顔で笑っている赤司に、一体何を贈れば。




「あー…出来ることなら身長くれてやりてぇな…」
「あはは、そんなことしたら刺されそうだけど」
「さつきは?」
「あたしはマフラーにしたよ。ありきたりだけど、ね」
「…ここはひとつ連名で」
「だーめ!もう、去年もそんなこと言ってたでしょ」




プレゼントは気持ちだよ!とさつきがくどくど説教をしてくる。
(気持ちだと?それなら身長以上に腐るほど持ってるよ。)
感謝なんて、自分でも引くくらいにしている。この気持ちを可視化してリボンをかけたなら、多分体の小さなあいつの両手には抱えられないだろう。





『大輝の成長は留まることを知らないな』




赤司はそう言っていた。何もかも見透かしたようなオッドアイで。
実際あいつは、どんどん情熱が乾いていく俺の心を、見透かしていたんだと思う。




『もっともっと高く跳べばいい。僕が見ていてあげるから』




意図とは裏腹に、どんどん空っぽになっていく心。重たく圧し掛かる青。近くなりすぎた空は暗くて、手を伸ばしてみても、最早なんの感動も覚えない。
そんな俺に対しても、あいつは変わらなかった。出会った時から、ずっと。




『お前の成長は僕の誇りだ。孤独だなんて、思うことはないよ』




僕が見ていてあげるから。
小さな体から発せられたその言葉に、どれだけ胸を打たれたのか。
俺は未だに言えていないし、これからいくら時間が経っても、言える気などしないのだけど。
(この気持ちだけは、きっと永遠に乾きはしない。お前が側で見ていてくれる限り。)





「難しく考えないで、大ちゃんらしいものをあげればいいんだよ」
「俺らしい、ねェ」




俺を誇りだと思ってくれるなら、お前の言葉は星だった。
暗い空の下でも、俺を導いてくれる真っ赤な一等星。
そしてその星を出会うことが出来たのは、あの体育館のコートの真ん中。出来ることなら、いつまでもあそこで、お前とボールを追いかけていたい。




「っしゃ!よし、行くかさつき」
「え?決めたの?」
「決めてねーけど、適当に歩いてみる。気持ちでいいんだろ?」




(いつまでも、一緒に。)
真っ赤な光で俺を導いてくれるなら、俺は乾かないまま歩いていける。
だからずっと、繋がっていてくれ。
バスケという、細い細い繋がりだけだとしても。








続→


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