エックスデー
クリスマスパーティ。こちらにある習慣を強要するのはどうかなあと思いつつも、仲間はずれにするのは良くないので誘ってみた。玉狛支部のクリスマスはそれぞれが簡単なプレゼントを持ち寄って、くじ引きで交換するというありがちなもの。遊真くんはお金を沢山持っているので(公にはされていないが)何を買うか迷っていたけど、結局修くんと相談しながら妥当なお菓子の詰め合わせにしたようだ。
適度に盛り上がったパーティの途中、ふと遊真くんの姿が無いことに気付いた。やっぱりこういうのは苦手だったろうか。トランプゲームの区切りがいいところでトイレを言い訳に抜け出し、私も静かな屋上に繰り出すこととした。なぜ彼が屋上に居ると確信していたのかは、自分でも分からない。
「なかなかいいもんですな。くりすます」
彼は背中にも目を持っている、あるいは私があまりにも気配を消すのが下手くそだったか、遊真くんは私に背を向けたままで言った。
「やっぱりこういう習慣はなかったんだ」
「ないね。少なくともおれの周りでは」
遊真くんの言葉には何の他意も無かっただろう。けど、もしかして触れないほうが良かったかもしれないと思えた。例えクリスマスの概念があったとしても、彼の生きた十五年間では、それをわいわい楽しむ余裕なんて無かったのでは。
しかし、遊真くんは自分の引いたプレゼントの中身(どうやらジグソーパズル)を眺めて感心していた。
「プレゼントをみんなで贈り合うっていうのも斬新だ。誕生日でもないのに」
「誕生日を祝う習慣はあるの?」
「そりゃあね。特別な日だから」
特別な日、と詠うように言う彼の目は細められていて、笑っているのか遠くを見ているのか分からない。それでも特別ななにかを祝うのが、私たちと遊真くんとで同じ感覚なんだと思うと嬉しかった。なぜなら深い赤色の眼を持つ彼に、私は特別な感情を抱いているからだ。
「クリスマスは特別なひとにプレゼントを贈ることもあるんだよ」
「ふむ」
「遊真くんなら誰に何をあげる?」
試そうと思ったわけじゃない。なんとなく聞いてみようというのを装ってみたつもり、なのだけど。目が合った瞬間に間違いだと気付いた。
「それ聞いてどうするつもり?」
「え、」
間違いというよりも思い上がり、自意識過剰で図に乗った質問。遊真くんの眉は上がりもせず下がりもせず、瞳は潤いもせず渇きもせずに私を捉える。怒らせた? 分からない。気を悪くしたかも。一気に心拍が上昇して、舌が回らなくなった。
「……どう、とかは……無いけど……ただ気になっただけでございまして」
「ほう」
「答えたくなかったら答えなくていいよ」
「いいや、そんなんじゃない」
遊真くんは首を振ると、言葉を選ぶようにちいさく唸った。こういう時に実感する。彼の年齢が見た目どおりではないことを。
「ただ、もしおれが誰か特別なひとに何かを渡しちゃったら……」
それが誰で、何とは言わずに遊真くんは続けた。
「そのひとは、おれを忘れられなくなる」
特定の誰かを思い浮かべているのか、もしくは未知の人物か。分からないのに、もしかして私の心を見透かしているのではと思えた。遊真くんの赤い世界に、はっきりと私の姿が映しだされていたから。
「だから渡さないかな。たぶん。渡したいひとが居たとしても」
ばっちり目が合っているのに気付いたのはその時だった。はっとして顔をそむけた私を追いかけるように遊真くんの瞳も動く。私の横顔は髪に隠れて見えないはずなのに、それも全部透かして見られているかのよう。喉の奥で静かに笑うのが聞こえ、座っていたはずのシルエットは縦に伸びた。
「残念そうな顔」
「ち、違う」
「何か欲しかったとか?」
「ちが」
「がめついですな」
「がっ……」
どこで覚えたのそんな言葉。かろうじて出てきた突っ込みに救われて、その話ははぐらかすことに成功した。
何かが欲しいなんてとんでもない。今夜のプレゼントはひとりひとつだし、私もそれ以上用意していないし。恐ろしくて考えたくもない。誰かを忘れられなくなる日が来ることを。
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -