04
なんだかんだ言ったって剥がれる鱗
レポート作成のペアが決まってからというもの、私はどんなふうに三輪くんと協力するかを悩みに悩んだ。
しかし答えは見つからなくて、と言うかいつも三輪くんは空き時間があると一人でどこかに行ってしまうのだ。ボーダーの中でも仲のいい人と休憩を過ごしている、あるいはたった一人で過ごしているかもしれない。
更に彼は毎日学校に来るわけでもなく、ボーダーとしての仕事が山積みの様子。声を掛けようとしても避けられている気がして結構ショックだ。でも、だんだんと私にも意地が出てきた。三輪くんがそう来るなら、私は私で好きにやらせてもらおう。そういえばまだ、助けてもらったお礼だって済んでいないのだ。
「……というわけだから!レポートは私が作ろうと思うし、三輪くんは仕事に集中してください」
帰り際の三輪くんの前に立ちはだかり、無理やり引き止めた形となった私は正面からそう伝えた。三輪くんは少年らしくぽかんとした様子で私を見下ろしたけど、すぐに眉を寄せた。
「……どういう風の吹き回しだ」
「風も何も」
「一人でやるつもりか?」
「ま、まあ……」
三輪くんに勢いよく宣言してやろうと思っていたのに、いざ彼を前にすると私の声はしぼんでいった。だけど「一人でやるつもりか」って、今更そんなの気にされたって困る。三輪くんは忙しそうだし、私と時間が合わないのだから。やってやると言ってるんだから素直に礼なり何なり言って欲しい。
……けど、そんなことやっぱり言えるはずもなく。今のところお礼を言うべきなのは私だから。まあ、何度も礼を言っているのに受け入れてくれないのは三輪くんのほうなのだけど。こうなれば恩着せがましい真似をしまくって、三輪くんに同等の感謝の気持ちを持たせてやろうではないか。
「……あ。あとホラ、三輪くん昨日の授業来てなかったよね。ノート見る?」
私は鞄の中から英語のノートを取り出した。英語以外にも数学とか保健体育とか、色んな授業が受けられずに居るはずだ。ノートを突き出されて更に顔をしかめる三輪くんだったけど、私は構わず続けた。
「そっそれに!いつも授業飛び飛びだよね? 分からないとこない!? 私で分かるところならいくらでも、」
自分でも驚くほど偽善っぽい台詞が続いたけれど、本心半分、当てつけ半分といったところ。三輪くんが私のノートを押し返してくれなければ、まだまだ言葉が出ていたかも。
「……どうしてそんなことを聞く」
溜息交じりに三輪くんが言った。怒っていると言うよりも呆れているらしい。
「どうしてって……言われると……」
そりゃあ三輪くんの役に立ちたいから。っていうか三輪くんへの感謝の気持ちを何とか受け取って欲しいから。「ありがとう」を言っても素直に受け止めてくれないのだから、別の方法で伝えるしかないのである。
「三輪くん、前に助けてくれたから。少しでもお礼ができればと」
前回とは違う言い方で同じようなことを伝えてみたけれど、三輪くんはやっぱり肩を落とした。
「何度言わせれば気が済むんだ」
「えっ」
「助けたんじゃない。任務を全うしただけだって言ったろ」
それは何回も言われた。最初は謙遜なのかなと思ったけれど違う。しかも頑なに拒否をする。おまけに言い方は辛辣だ。
「そのくらいで、そんな世話焼いていらない」
そこまで言われて私もカチンと来てしまった。そんなふうに言わなくたっていいじゃないか。自分は感謝されてしかるべきだと胸を張っておけばいいものを。市民のお礼の言葉を突っぱねるのはボーダー本部の教えなのか? いや絶対に違う。私は大きく息を吸った。
「……あのね!!」
いきなり廊下で出した大声には私自身もビックリしたし、三輪くんもギョッとしていた。周りの生徒もチラチラとこちらを見ていたけれど気にしない。三輪くんに文句をつけてやりたい気持ちのほうが大きいから。
「私は世話を焼いてるつもりじゃない! 感謝してるだけだから!」
三輪くんの「助けたわけじゃない」という言い方をそっくり真似て言ってやった。どうだこの野郎。自分でも少々おかしな事をぶつけているとは思うけど。
「……くだらない。勝手にしろ」
「えっ」
意外にも三輪くんは言い返して来なくて、もはや諦めた様子で言った。こんなにアッサリと引かれるなんて思わなくて拍子抜けだ。怒らせちゃうかと思ったのに。
立ちはだかる私の横をすり抜けて三輪くんが再びすたすたと歩き始めたので、私もそれを追いかけた。
「勝手にしていいの?」
「しつこい」
「私、レポート作っとくからね」
「好きにしろって言ってるだろ」
「後でダメ出ししないでよ」
「誰がするか」
「三輪くんっ」
「何だよ!」
三輪くんはとうとうイライラした様子で振り向いた。ネイバーに向かっていく時ほどではないものの、鋭い眼を光らせて。だけどこれまでほとんど無視されていた私はそれすらも新鮮で、少し嬉しくなってしまった。
「いやあ……なんか初めて普通に会話したね。私たち」
思わずへらへらと口にした私を見て、三輪くんは顔が引きつっていたが。「普通には会話してないだろ」と言い捨てると、早足で逃げるように去って行った。
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