おまけ




どたどたどた、と走ってくる足音が空気を揺らす。いつもならもっと軽やかに響くはずの音に軽く目を見張りながら、僕は扉が開くまでの数秒間を本を閉じて待った。


「イヴェール!」


ばたん。
予想より派手な音を立てながら、音の主が飛び込んできた。よっぽど焦って走ってきたのか息が荒く、何故か喜びを満面に湛えている。とりあえず、先日の思いつめていたような色はかなり払拭されているようなので、一安心。


「どうしたんだ、そんなに慌てて」

「どうしたもこうしたもっ…、聞いてくれよイヴェール!」

「はいはい、落ち着いて」


しかし、深呼吸して落ち着いたローランサンの次に、落ち着かなくなったのは僕の方だった。


「子供が産まれた!」






普通、子供とは十月十日かけて母親の胎内で成長し、周囲の家族と数々の苦難を乗り越えて産まれてくるものだ。
僕の脳は一瞬にして凍らされて、ローランサンのいつもよりあどけない笑顔で徐々に解凍していく。その間にぎぎと軋みそうな首を動かして、彼女の柔らかくはあれど薄い腹と、知識の中にある妊婦とを対比した。


「子供、?」

「そ!子供。小さくてな、赤くてな、可愛いんだっ」

「こど、も…?」

「ああ、目の色なんかはイヴェールにそっくりだぜ!」

「…そっくり!?」


いけない、声が裏返った。自分でもはっきり自覚して動揺している。

確かに、僕とローランサンの間には子供ができてもおかしくない。恋人同士でもあるわけだし、指輪も贈った。それでも…いや、嬉しくないはずじゃない。むしろ諸手を上げ、ローランサンをよくやった!と抱きしめてやりたいし、僕にそっくりなら僕の子だ。愛しいに決まっている。

それでも…、それでもおかしくないか。おかしくないというのなら、僕は十月十日分だけ記憶喪失になってしまったのだろうか。僕の記憶には、昨夜腹を出してすやすや眠るローランサンの姿がある。

早速見に行こうと言われ、ごくりと唾を嚥下しつつ。僕は相当の覚悟を決めてローランサンの手を取った。






「…子供?」

「子供!」

「子供って…これか…?」

「うん!可愛いだろー、仔猫!近所の飼い猫が産んだの、教えてもらったんだ」

「僕の目にそっくり…」

「ん?あ、そうそう。ほら、よく見てみろよ、綺麗なオッドアイ」

「……ローランサン」

「い、イヴェール…。ちょっと尋常じゃない気配をお前から感じるんだけど」

「今晩覚悟しとけよ?」

「え、ええ、何で?!ちょ、…今日は駄目!最近すごく体調悪いから!」

「問答無用」

「ほんとだってばっ!やたら気持ち悪いし…。味覚もなんだか…?」

「は?」

「分かんない。肉よりすっぱいものが食べたくなったんだ、突然。何でだろ」

「……お前、」










ここで終了です!ぶつぎれでごめんなさい…。しかしべただなぁ。






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