女A









ぼけっと過ごした日は三日、息をつく間もなしに働き続けたのは四日。合わせて一週間。どうあがいても無駄だと、結局一週間もかけて気付かされて愕然とした。
 考えないようにしても、想ってしまう。最後に見た、凍りつく色違いの綺麗な双眸を。


「ローランサン!」

「シエル、?」


イヴェールをふってから今日でちょうど一週間。俺が路地で足と思考をぶらぶらさせてると、聞きなれた声が後ろから俺の耳を引き留めた。振り返ると予想通りに、長い髪を揺らして幼馴染のシエルが息を切らせて走ってくる。


「何かあったのか?」

「ううん、サンが見えたから声かけちゃた!」

「見えたからって、」


俺の前に立ったシエルは、またズボンはいて…と俺の全身を上下に見て溜息をついた。シエルは時々、俺を着飾ろうと目を光らせているのだ。こんな男っぽい俺を人形みたいに遊んでどこが楽しいのか、未だによくわからない。スカートとかドレスとか、あんな頼りないヒラヒラな格好、俺には無理だ。絶対無理。すーすーする。


「そうだ。時間があれば近くの公園でお喋りしましょ?最近会えなかったし…」


シエルはにっこり、有無を言わせぬ表情で同意を求めた。元より、俺は彼女の願いは断れない。気分転換になるかもと思った所でまた銀色が過ぎり、俺はそれを掻き消さんと首を縦に揺らした。






「そういえば、」


シエルの言うとおり、そう離れてない公園へ向かう途中シエルは器用に人ごみを抜けながら話しかけてきた。


「サン、あなた、女の子らしくなってきたわね」

「……はぁ!?」

「ふふ、私の目はごまかせないわよ。元から可愛かったのに、更に磨きかけちゃって」

「可愛くない!磨きもかけてないっ」


何をいきなり言い出すんだろう。俺が混乱して首をぶんぶん横に振ると、シエルは真剣な顔で首だけこっちを向く。その口が紡いだ言葉に、俺は盛大に焦る。


「だって胸、前に会った時よりも大きくなってるわ」

「なな何でシエルがその事!」


彼女がにやりと笑った瞬間、ああカマをかけられたなと直感で悟った。というか、こんな人が多い通りで堂々と胸の話をするシエルに、俺が勝てるはずがない。何があったか話しなさいオーラを纏う彼女に、俺は渋々白旗をあげた。


「……し、失恋?した」

「何で疑問形なのよ」

「俺が、ふったから」

「ふったなら失恋とは言わないわよ」

「う…」

「まず、サン、恋人できてたのね。どんな人?」


来た。この質問は絶対来ると思った。俺は意識して腹筋に力を入れて、ぽつりぽつりと特徴を言っていく。いつの間にかゆっくりになった歩調で、俺たちは午後の風を横切る。


「女顔で、容姿はすごかった」
「頭もすごかった」
「性格は最悪で、優しくて、」
「婚約者持ちの金持ちだったんだよ、畜生」


「婚約者、の件は本人から聞いたの?」


シエルは、他のどれにも聞き返すこともなく、それだけ俺に尋ねた。俺は違う、と答える。


「噂が、すごかったんだ。隣町に仕事で出かけた時」

「うん」

「その町の有名な家の娘が、結婚する。お相手の名前がそいつだった」

「ちゃんと言い訳聞いてあげた?」

「聞く前にふった」


イヴェールが俺に黙っていたことも十分衝撃を与えるもので、とにかく俺は離れたかったのかもしれない。あいつの前で泣いて縋るなんてことみっともないこと、出来ないだろ。シエルはさっきより長く溜息をついて馬鹿ねぇ、と額に手を当てた。


「馬鹿ね、本当にあなたたち、馬鹿だわ。サンはともかくその人が頭いいなんて嘘でしょう」


心底呆れた目で、シエルは俺の頭を撫でた。昔よくやったように、こつんと額同士を合わせる。変わらない暖かさに、ふと張りつめていた涙腺が緩みそうになって焦った。そういや、いつの間に公園の入口まで来ていたんだろう。動いてた足は止まっている。


「まず、」

「ま ず?」

「サンは可愛いわ。私が保証する」

「は!?」

「良いわね?」

「あ、え、はい…」

「よし。なら、そんな真っ赤な顔でその人のことを語るんだったら、最初から振らなければいいじゃない」

「はい?」

「まだ好きなんでしょ。好きなら好きで良し!大丈夫、あなたたち、馬鹿同士お似合いよ」


シエルは俺の肩をぱん、と強くたたいた。そして無理矢理ぐい、公園の中へと俺の背中を押し出す。


「へ?え?お似合い?」

「あなたは昔から一人で暴走することがあるから、皆心配してるってこと。さ、腹をくくって話し合ってきなさい」

「!?」


シエルをもう一度振り返って、どういうことだと詰め寄りたかったが、遠くに見えたベンチの前に立つ人影に言葉じゃなくて息をのみ込む。そっと離れた柔らかな手は、頑張ってね、素直になりなさいよ、と伝えて遠ざかった。人影、忘れたかった男は複雑そうな表情のイヴェールだった。





まさかの続く!シエルちゃん出そうと欲張ったら小話じゃなくなったorz
つまりシエルちゃんとイヴェはいつの間にか共犯です←






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