大きくなったロラサンとイヴェールの油断




内心、ほっとした。
いくら外見がでかくなろうが、中身がそれに伴わないなら問題ない。ローランサンは僕の良く知るローランサンで、いつも通りの馬鹿で音痴でやたら家庭的な、僕の相方のローランサンだった。


「イヴェールー、飯ー!」

「あぁ、今行く」


身体が縮んでいた間の習慣は、どうやら戻ってからでも有効なようで。きっちり時間通りに空腹を覚えるようになったことに、喜んでいいのやら悪いのやら複雑な心境になる。もちろん健康的には良いことなんだろうが、ローランサンの策略?にがっちり嵌ってしまったことが気にくわない。


「なぁ、今俺たち身長差どのくらい?」

「…同じくらい」


本当は、ほんの僅かに、心なしかローランサンの方が高いのだが、言葉を素直に受け取った単純馬鹿は小躍りをやめない。一週間とちょっと前なら顎くらいにあったはずの頭を、丸めた新聞紙で容赦なく叩いて黙らせた。小気味よく響いた音と共に、頭が食卓に落ちる。これで元から少ない脳細胞が、少なくない数消えてなくなっただろう。ざまあみやがれ。



ローランサンが元に戻るまで、あと数日。まあ、僕が縮んでた時よりかはましか、と思っていた僕は、確実に油断していた。






「い、イヴェール」

「だめ、絶対だめだからな」

「でも、折角なんだし…この機会逃したらあと十年待たなくちゃいけないんだぞ!?」

「たかが数日だけのために大金使ってたまるか!」

「ぐっ!…あー、残飯貯金もこの前チーズケーキに変わっちゃったし…。とっておけばよかった」

「自業自得だ馬鹿野郎」

「……な、イヴェ」

「っ、何」

「ちょーっとだけ。ちょっとだけ試してきていいか?触るだけだから!」

「触ると余計欲しくなるだろうがっ!ほら、もう行くぞ!!」

「えぇー!」

「そのなりで駄駄こねるな。気持ち悪い」

「…ひど…」

「数日間の我儘だけに生活費圧迫させようとしてるお前も、十分酷いと思うんだけど」

「…んー、まぁそうかもな。俺は酷くてイヴェールはケチだもんな」

「……この前中古で見つけた本、すごく分厚くてさ。文庫本の二倍はあるから、表紙とかものすごく硬いんだ。偶然今日は手元にあr」

「ごめんなさいもうわがままいいませんだからそれで打つのはやめてください…!」

「よろしい。…全く。剣なんて、今使ってるので問題ないだろ」

「全然違うって。こんくらいならもっと長いの持てるし、重さもつけれるから試してみたかった…」

「ふーん。でも仕事柄、短剣で間に合うんじゃ、」

「それは、大きい方が楽しいから!」

「……はぁ」


油断一、普段の買い物に余計な体力を使ってしまうということ。








「久しぶりの仕事だな」

「……」

「何かこの緊張感、不謹慎だけど気持ちいいかも」

「………」

「この後は、ダンスホールを抜けて、バルコニーから上の部屋に…」

「そこは下の部屋だ阿呆」

「イヴェ、声」

「…そこは、下の階に降りるのではなかったかしら。おほほ」

「そうだっけ。あ、そんな気がしてきた。…じゃ、確認終わりだな。俺は数人引っかけて情報引き出してくるから、イヴェは壁の花で大人しくしてろよ?」

「分かりました、お気をつけて」



油断二、仕事の関係で女装せざるを得ない時、衣装が合わなくなったことで強制的に自分がやるようになってしまったこと。



「イヴェ!」

「、あ、それでは…」

「…お前、もてもてじゃん」

「お前に言われたくない」

「え?何で」

「(こいつ、何人も女の子寄りつかせてたくせに、無自覚…?)」

「?」

「いや、何でもない。次の行動移すぞ」

「おう!」








油断三、身長が伸びた故に、服やら間取りやらで不都合が生じること。



「おい、ローランサン。着れたか?」

「ああ、何とか」

「っ…、丈あってないし…」

「笑うなよ!しょうがないじゃん…、小さくてもイヴェの服着なきゃいけないんだから」

「大きくなる前は、ぶかぶかだろうな」

「……そうだけどさー。ああどうせ、そうだよ。でも成長期終わったらこんだけでかくなるんだぜ!?その時はイヴェール見下ろしてるってことだろ」

「(…さらっと、十年越しても一緒にいる的な事を言ったな…)僕も身長伸びないとは言えないんだけど」

「この前、成長期が終わって俺よりも大人なんだから、もっと敬えって言ってなかったっけ」

「………」

「……」

「あ、ローランサン。今日の夕飯のリクエストなんだけど、」

「……えっ!万年欠食大人なイヴェールが夕食のリクエスト…!何、何が良い?お子様、じゃないから大人定食?それとも赤飯炊いた方がいいか?!」

「(ちょろい) 何なんだよ、大人定食…。それに赤飯は炊かないでいい!ここ一応フランスのつもりなんだから!」

「そ、それもそうだな…」

「…一昨日の、」

「一昨日の、?」

「夜に食べたスープが良い」

「!!分かった!今すぐ作ってくるっ」

「あ、ちょ、待てローランサン!さっき昼飯食べたばっかりだろ!!」

がんっ

「…ん?今、何か非常に痛くて悲しい音が、」

「っっっ!?い、痛い…!」

「おい、大丈夫か?」

「扉の上…かがみ忘れて、でこ打った…」

「……阿呆」









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