イヴェ(→)←サン




今夜は久しぶりに本業の仕事があった。狙ったのは金持ちで有名な、とある男の家にある宝石数点。その男は裏でちょこちょこやっていることでも有名だったので、明日の新聞については俺たちが悪く言われる事はないだろう。悪徳商人、財宝をまんまと盗まれる。ざまぁ見ろ!、くらい書かれても可笑しくないほどの奴だったのだ。まあ俺たちも分かっててそういうやつばっかり狙ってるんだけどな。


「へましたな、ローランサン」

「してない」

「……」

獲物をすぐ某所へ隠し、安宿についてほっとしたのもつかの間。イヴェールが俺に詰め寄ってきた。笑いながら首を振ると、黒っぽい上着を脱ぎながら相方は俺を睨みつけてくる。形のいい眉毛と眉毛の間がだんだん深くなってくのを見て、俺は潔く誤魔化すのをあきらめた。俺がこの相方を誤魔化すなんて相当ありえない話だ。

「ごめんなさい俺が悪かったです。へましました…」

「見せろ」

言うより早く、イヴェールは俺の左腕を持ち上げて袖をまくる。そこには真新しくてまだ赤い痣と、中指くらいの長さの切り傷があった。


今回の仕事も、結果的に首尾よく成功した。いつもの配役で、俺は力仕事、相方が作戦・盗み出す担当。相方が宝箱を探っている間、俺はそこらへんにいる警備員をかき回して相方から遠ざける。今夜へましたのはその時だ。一瞬よろけた隙に、相手が斬りつけてきたのをよけきれなかった。咄嗟に利き腕と頭は守って、その代わりに左腕をやられてしまったのだ。もちろんその相手はぼっこぼこにしてやったけどな。その事をかいつまんで話すと、相方は俺の頭を一発殴って罵った。

「阿呆。お前、馬鹿を通り越して阿呆だ。この阿呆野郎」

「も、ちょっと手加減しろよ…。ていうか三回もあほって繰り返すなよ!!」

「そうか。言われ足りないんだな。じゃあ何回も言ってやる。むしろカラダに言い聞かせてやろうか…?」

「ひょえっ!!か、からだっ…!?」

相方の意地悪い笑い方が、きらめいた。
 え、え、体って、つまりお仕置き的なあんな事やそんな事…?こいつにだったらされても……って何考えてんだ俺!!という内心の葛藤もむなしく、俺は相方の次の言葉に一気にテンションダウンした。



「尻叩き百回」

「あ、そっち……いや、そっちも嫌だ!!」

慌てて言い直す。深く追求されて、相方に変な目で見られるのは本気で嫌だ。幸運にも、相方はあんまり気にしてないようで、残念だな。とのたまった。それに安心してほっと息をつくと、仕事中にはあまり意識しかった疲れが今になってのしかかってきた感じがする。ついでに言うと傷口も痛い。


「イヴェール…?ちょっくら消毒したいなぁって思うんだけど」

暗に手を離せと伝えたつもりなんだけど、相方はふーん、と頷くだけで取り合ってくれない。そして何を思ったのか腕に顔を近づけてきて、動けない俺の目の前で傷口の無い部分に噛みつく。

「い゛っ…!?」

「何か、すごいむしゃくしゃする」

ただでさえ切り傷で痛いのにこの仕打ち。じんじんしてきた左腕に涙目になっていると、イヴェールは更にわけのわからない事を言い出した。

「お前さ、これから誰にも傷つけられるなよ。むしろ誰からも触られるな」

「へ?さわられ、?」

「僕だけはその例外で」

「……何で?」

「何でだろう、僕にもわからない。だけど今度触られたら本当に尻叩きだからな?」

俺には相方が言ってる事がさっぱり分からない。俺が阿呆だからか?相方も相方で自己完結してさっぱりした顔で笑うから、逆らえない俺は首をかしげながら言われたままに約束することにする。





結局俺は、イヴェールが久しぶりに傷の手当てをやってくれた事に感激して、この約束を流してしまった。








お仕置きといったら、やっぱり尻叩きですよね←
ロラサンがよろけたのは、近くにあった置物につまずいたから。イヴェールはその事がわかってたので、ロラサンに阿呆阿呆言ってます。










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