※ほんのりイドさん関係でNLちっくな表現があります。コル←イド前提ですが、苦手な方はご注意ください。









「ものども焼肉じゃああああ!!」

腐る前の肉、手近な所に無人島。その二つの条件の前に飢えた男たちの考えることは同じであった。ここ一週間帆を進めるにあたって良い風が吹いていたこともあり、航路は現在数日先の予定をなぞっている。

予定合わせの意味を含めて、船長のイドルフリートはその無人島に野郎どもを放り投げたのであった。

海の男だからと言って陸の幸が嫌いだということはない。手ごろな平地を瞬く間に発見してきた下っ端船員、潮風をあまり受けていない薪となる木の確保をしてきた地理に詳しい中堅の船員。酒や肉を運び出したコルテスとイドも、皆が皆、久しぶりの肉を目の前にして目をぎらつかせていた。体力とスタミナ勝負である船乗りに、栄養は欠かせない。しかもがっつり食いでがあり美味しいものときたら誰もが飛びついて当然だ。

「隊長!火の準備完了いたしましたッ!!」
「うむご苦労。それでは各々、精々風向きに気を付けて点火するがよい!」
「ラジャー!」

隊長とは無論“焼肉隊長”のことである。いつの間にか船長についた名誉あるあだ名だった。

料理が苦手そうな外見に漏れず料理が苦手なイドルフリートだが、こういった男らしい(?)サバイバル料理は何故か大の得意だ。コルテスは空きっ腹を抱えながら、船長の実に楽しそうなキラキラした表情を「あいつもこの船に毒されてきたなー」なんて思いながら仄々と見守っている。

上陸したのは昼間だが、あれやこれや準備の内に陽が沈み始めた。流石に全員で同じ火を囲むことはできず、数か所に渡ってグループが作られている。その内火がつかないと騒ぐ輪を飛び回っていたイドがコルテスの隣に落ち着いた頃には、お互いの顔を照らす光源は明々と燃える火のみとなっていた。

「鋼鉄製の胃腸を持っているのなら生肉をお勧めするが、そうでない者は火を確実に通してからだぞ!」
「それなら将軍は生肉でも大丈夫だな」
「カビでもゲテでも平気で食べるもんな」
「おいこら聞こえてっぞそこ!!」

ギッと後ろの輪を睨みつけたコルテスに周囲はどっとわいた。男たちの白い歯が、炎に照らされて暗闇にざわざわ浮かび上がる。何はともあれ将軍の怒鳴り声で、肉と酒だけのシンプルな宴の音頭は取られたのであった。



それぞれの輪で、時折全員巻き込まれながら笑いの渦が絶えなかった。中には囃し立てられた酔っ払いが、故郷の歌や踊りを披露して場を盛り上げた。

そんな中、コルテスは一人眉をしかめていた。

「おいイド」
「なんだ」

はっきりと意思のある声で瞬時に返事が返ってきたことにコルテスは逡巡する。金髪の青年は先ほどから、極東の文化ナベブギョウの如く肉の焼き加減に気を付け、適当に切り取って輪の中に配ってばかりいる。その手元にアルコール類は一切ない。

「……楽しいか?」

イドに手渡された肉を頬張りながら尋ねる。あるものの中から使えるものだけで味付けされたそれは美味しいもへったくれもなかったが、空腹が一番の調味料とはよく言ったもので、凄いスピードで偶のご馳走は消費されていた。その様子を満足気に眺めてから、イドルフリートは短く肯定する。

「焼肉だけは、」
「ん?」
「あの子が褒めてくれたからね。家事は何も出来なかったけれど、これだけは」

そう言って薪を一本足したイドルフリートの目は、どこか遠い所を懐かしむような翡翠色をしていた。それは年下の今では同僚であるイドが公私ともに一番幸せであった頃のような色だった。昔ある所に幸せに暮らしていた一つの家族をコルテスも思い出す。その家族が家族であった期間はあまり長くはなかったが、家長と昔馴染みということで時折その輪の中にお邪魔していた将軍も失われた時間を思って胸が痛んだ。

コルテスはイドルフリートの癖のない金髪をわしゃわしゃ乱暴に撫で、肩を強く叩く。コルテスは海の男なので人間の気持ちを言葉でうまく持ち上げることができない。それは青年も同じで、だからこそごつい掌に込められた意図も気が付けるのだろう。イドは照れ臭そうにコルテスの手を振り払った。

「おおー船長と将軍がイチャイチャしてんぞ」
「しーっ!お前良い所を邪魔すんな」
「そうだぞお前、ほらあれだ、人の恋路を邪魔するやつは馬に蹴られて豆腐の角に不時着成功って言うだろ!」

しかし仄々とした二人のやりとりはいつの間にこちらへ集まっていた視線とこそこそ話で打ち切られる。コルテスは米神をひくひくさせてゆらりと立ち上がった。

「てめぇら言わせておけば適当なことを……っ」
「そうだぞ。正しくは人の恋路を邪魔する奴は馬に蹴られる前に豆腐責めで窒息死、だ」

満場一致の拍手と歓声に片手を挙げて応えるイドルフリートはにやりと口の端を上げ、痛む頭を抱えたコルテスの顎をぐいと引いた。どこからか甲高い口笛が囃し立てる。状況に追い付けないコルテスが思考を停止している間を見計らって、イドルフリートは周囲に聞こえないように顔を寄せて小さく呟き、無精ひげが逞しい将軍の頬にキスを送った。

『今はコルテス達が褒めてくれるから、楽しいよ』

勿論その後はキレた将軍と酔ってもいないのに顔を赤くして爆笑するイドルフリートの喧嘩騒ぎが、船乗りの丁度いい酒の肴となったのであった。










※塩分を含んでいる木材を燃やすと有害なので真似しないでくださいね!あと岡谷は野外調理に全然明るくありませんので、そこらへん含めて生肉とか潮風にあたってない材木とか実際の航海上無茶苦茶なことを書きましたが、全部捏造です。


以下どうでもいいイドさん設定↓


文中のあの子は井戸子ちゃんでも奥さんでもどちらでも可。イドさんの奥さんは病死設定です。イドとコルテスが知り合った後にイドさんは普通に恋愛して結婚。そいで奥さん亡くなって井戸子ちゃんを再婚相手に預けてコルテスさんと海の上なうです。コルテスさんに今更の二度目の恋とか何それ美味しいと滾った故の設定でした。











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