奥の部屋は、数十人入っても余裕な程の広さを持っていた。予想通り入口近くに、半永久式で稼働が可能な装置があり、今も何の問題もなく動いていた。ローランサンはメットだけ外し、きょろきょろ首を動かす。しかしローランサンの興味を最も惹きつけたのは、更にその向こう側にあった。たん、と床を蹴り一気にそこまで近づく。


(これは……)

それは、楕円形のちょうど人間が一人入りそうなポッドだった。半透明のカバーに覆われていて、中身は見えない。ローランサンは、いつの間にか酷く乾いていた喉を鳴らした。手を握りしめて、流れ出る冷や汗をやりすごす。

勘違いでもなければ、ローランサンはこのポッドの正体を知っている。これは、医療機関が重症患者や金持ちの生命を維持させるための、コールドスリープ専用の容器だ。型は流石に見たこともないくらいに古いけれど、この部屋にだけ空気が残っているのも、この機械のためというなら納得がいく。

――今自分はとんでもないことに関わろうとしているんじゃないか。足元から湧いてくる空恐ろしさに自然と腰が引けた。本当に、もし本当にこれがローランサンの予想通りの代物で、万が一この“船”の関係者が眠っているのだとしたら。

「明日の新聞端末の一面に、俺の顔が載るぞ……」

口元を引きつらせながらも、側面に開閉ボタンらしきものを見つけたので、ええいままよとひと思いに指先へ力を込めた。ここまできたら、この遠い国に住む眠り姫を見なかったふりして放置するなぞ、男が廃るというもの。死んで腐って骨になっている可能性もあったが、この場合その方が心臓に優しいと思う。そして、事態はローランサンに優しい方へと流れてはくれないのだった。

まるで時の流れを感じさせないコールドスリーパーは、スイッチの命令に律義に従い、カバーをゆっくりスライドさせた。同時に漏れ出た冷気がローランサンの足元まで襲いかかる。横三分の一まで来たところで、ローランサンはぎょっとした。鮮烈な“あか”が目に飛び込んだからだ。しかしどうやらそれは眠り姫の持ち物らしかった。大きくて赤い宝石が、血の気のない手の中に包まれている。

「手っ!」

悲鳴に近い声をあげて、ローランサンは尻もちをつく。どすん、これまで静かだった室内に間抜けな音が響いた。そう、手だ。手が確かにこの容器から覗いている。ローランサンは息を止めて、そろそろ全開になったカバーを横目で確認し、視線を手の主に映した。

まず目に入ったのは、波打つ銀色。緩く結んで肩に流してある銀の束が、ローランサンの持つライトに反射して輝いている。そして肝心の眠り姫は、まさに物語もかくやといったそれはそれは美しい……同じ歳くらいの男だった。

凄い発見なことには変わらず、それでも女性にしては逞しい顔立ちは、背筋が凍るほど整ってはいたが、絶対男のものだった。一気に脱力して、ローランサンは暫く呆然と宙を見つめる。ここで見つけたのが美しい女性だったら、新聞の出だしを華々しく飾る甲斐があったのに。運命は何て残酷なんだろう。

余所見さえしていたローランサンは気づくわけもなかった。人知の及ばない所で、たおやかな糸の紡ぎ手がページを捲り、本来なら繋がる筈のない二つの人生を交錯させたこと。眠り姫の瞼が微かに動いたことを。後になって思い返すと、ローランサンの人生の予定が大きくねじ曲がったのはこの時だった。

「……っと、いつまでもここに居る時間はないんだった」

ローランサンは頬を人差し指で掻いて、もう一度よく確認してみようと眠り姫に視線を合わると、途端に声のない悲鳴を上げた。

赤と青の二色が、ぼんやりとだが確かにこちらを見つめている。なんてことだ、キスもしていないのに目覚めてしまった、ではなくて。

(い、生きてる!?)

今は珍しくもないオッドアイ、しかし銀色のまつ毛に包まれたそれは何だか特別のような気がした。ローランサンが口をあんぐりと開けて固まっていると、長い間眠りについていた青年は、とてもぎこちない仕草で口を開く。

「*※○&…×¢+k?」
「え?」

弱弱しく呟きが漏れて、ローランサンは思わず近寄って耳をそばだてた。何度も繰り返される同じ意味だろう単語は、残念ながらローランサンの耳になじみのない響きだった。

「悪い、俺、お前の言葉分からないみたいだ」
「¥*%$、#※……」

青年は意識が朦朧としている様子で、ローランサンに言葉が通じないことが理解できていないのか、必死に呟き続ける。ローランサンはどうすることもできずに、青年のその様子を固唾を飲んで見守った。

「*※○&……maman…」

ふと最後に、青年の手に力がこめられ、赤い宝石をぎゅっと握ったかと思うとすうっと二つの色が瞼に沈んだ。待ったを言う間もなく青年は眠りにつき、再び室内に取り残された気持ちになったローランサンは、急いで彼の呼吸を確かめる。

(息はしてるけど、大分弱いな)

言葉が通じないことは、彼がやはりこの時代の者ではない可能性が高いことを示していた。広い世界に居を構えて長い人間は、いつしか標準語意外の言語を忘れてしまったのだ。元々一つの惑星に留まっていた頃はいくつもの言語が飛び交っていたらしいが、それを詳しく知っているのはかなり高齢の学者くらいだろう。

ならば、この青年が息をしているのは奇跡だ。このまま眠りについたままのほうが、時間に取り残された青年にとって良いかもしれないけれど、生憎ローランサンは、人間とは息して働いて食べて寝る動物というものだと思っているので、人間である彼は見捨てて帰れない。

――自分の“船”に、予備のスーツを詰め込んでおいて良かった。ローランサンは一度外に出るために、一度青年の頬を撫でて、元来た道へ戻るために立ち上がった。













イヴェールは地球に住んでた良い所のお坊ちゃん。でも宇宙移住が叫ばれてる時に重い病気に罹って、ミシェルママンに無理矢理氷漬けされちゃいます。で、運悪くイヴェールさんの載っているお船が何らかの事故か襲撃にあって宇宙を漂うことに。イヴェは深窓の令嬢(笑)だったので、コンソールの下に隠れたスイッチ押さなきゃ入口が開かない部屋で眠っていたのですが、それが災いしてお船と一緒にずーっと彷徨います。そしてずーっと経ったあと、ローランサンが来て、起こされて、お持ち帰りされちゃいました。という話。

この後はロラサン知り合いの医者に面倒を見てもらい、復活したイヴェ君の戦いが始まります。まず、何らかのショックによる記憶喪失で、眠りにつく前のことが分からない。ロラサンの言ってることがわからない。ここが何処だかわからない。けれどここはロラサンが頑張って、イヴェールの言った単語を拾ってでっかい学校のデータバンクに忍び込んでそれがフランス語だと検討つけちゃいます。わーなんだかこのロラサン頭よさそう←

で、ロラサンのご先祖様もフランス系だったということで、壮大な先祖と子孫の共同生活が始まるのであった――。

っていう設定の長編が読みたいですはぁはぁ。













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