ねこみみ。






目が覚めて、まず思ったこと。

赤と青のビー玉が、やたら近くにある。

「なんで…?」
「やっと起きたか」

ビー玉が喋った。と思いきや、近かったそれが
ゆっくり遠ざかって、見慣れた男の顔になる。

なんだ、ビー玉じゃなくてイヴェールか。

誤った情報を塗り替える声が、
足の先まで届いたところで俺は飛び起きた。

「っ、い、イヴェ!?」
「ん?」
「ん?、じゃなくて、」

何で俺の上にのっかてるんだ。
という疑問は、口までよじ登り一気に腹の底まで転落した。
俺をやけに熱心に見ている相方の目が、
何故か楽しそうに輝いていたから。
だけど、自分のじゃない体の重みだとか、
呼吸の音だとか、さっきよりは離れたけど普段よりも近い顔の距離だとか。
そんな諸々の事情が心臓を加速させていて、はやくどうにかしろ!と叫んでいる。

「何、やってるんだ…?」

ちょっとだけ相方から目線を外すことで、やっと声が戻ってきた。
滅多に見れない表情はとんでもない凶器になる。目の毒だ。
ましてや楽しい、嬉しいなどの正の感情からのものだったなら。
そんな俺の葛藤+努力を知ることもなく、相方はうんと呟いた。

「面白いな、と思って」
「は?」
「サンが気付いてないのも、爆笑モノだけど」

くすり。本当に珍しく、素直に笑った相方に
今度こそあごが外れるような衝撃を受けていると、
相方は手を俺の頭へ載せてきた。さらり、細くて綺麗な指先が
俺のごわついた癖毛をすく。普通ならそのまま何も起きずに、
髪を通り越した手は宙をつかむ筈だった。
しかし、今日の場合は普通じゃなかったらしい。

「うぎゃっ!?」

イヴェールの指が頭のてっぺんに近い所まで行くと、
突然悪寒とよく似ているしびれが背中に走った。
しかもあり得ないところにイヴェールの指の感触があったような。
当のイヴェールは俺の反応を予測済みだったみたいで、
わざとらしく溜息をついた。

「うぎゃって、悲鳴あげるんならもっと色っぽく上げろよ」
「ご、ごめん?ていうか、何、今のっ!?」
「あぁ、ほら」

あれ、何で謝る必要があるんだ?
はた、と思ったものの、それより何処からか
相方が取り出した手鏡を見て、思考が固まった。
額から下はいつもの俺。額から上は。


ぎぎ、と音をあげて目の前を向くと、
相方はいつものように口の端だけあげて
意地悪く笑った。
ああ、納得がいってしまった。やけに相方が
楽しそうにしてたのは、この所為か。しかも
犯人もお前か。

「今需要高いんだろ?猫耳」
「需要高ければいいってもんじゃねぇっ!!!」


どうせあの胡散臭い賢者と
何かしらの怪しい薬をつくったに違いない。
取りあえず俺は、相方の細い体から抜け出して、
これから始まるだろう"悪戯"から逃げないと、どうなるか分からない。

俺が最初に起きた時の心拍数を返せ!!






これから始まる(だろう)、半分猫と人間の、戯れ。











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