*柳/原/望さん原作、
*『お伽話がはじまる』って漫画の
*盗賊パラレルです。
*どんな盗賊でもおkな方は、
*どうぞ!










弱小と言っていいこの地方の特産品は、金である。固い地盤と軟らかい地盤が複雑に入り混じった地形は、専門の技術者以外にその手を伸ばすことを拒んでおり、穏やかな領主のお陰もあって小さいながらもささやかな繁栄を築いてきた。しかし、国同士が侵略し侵略されるこの時勢、広大な懐を潤す地脈と人材は、どこの国も垂涎もの、喉から手が出るほど欲する所であって、大国に呑まれる運命にあるのではないか、という不安は領民たちに薄幕のような不安を与え続けている。

「本当にここ、登れるのか…?」

杉くらいの高さもある崖を見上げて、少年達は呆然とした。それにあっさり肯定したのも、彼らと同じ年、いやそれよりも僅かに下回る者だった。

「今回の輸送路はこれの向こう側が一番狙われやすい。ここの頂上で待ち伏せするって決めなかったか?」

無感情に首を傾げれば、さらりと首筋から銀糸が流れる。少年はそれでも不安を隠せずぐちぐち零す周囲に溜息をついた。ふとその時、ざわついてる中から、すっと崖の斜面に手を伸ばす年上の少年が現れた。

「先行く」
「ローランサン」

慌ててその少年、ローランサンの名前を呼ぶと、恐れる風もなく彼は手を掛けられる所を見つけながら、崖をするする登り始める。長い銀をひとくくりにまとめた少年も後を追って登り始め、それに続くよう残りの者は登りだした。

「畜生、余所者に越されるもんかっての」
「無駄なこと言ってないで気をつけてこいよ」

後列に続く一人に振り返って注意をし、全体にもう一度気をつけるように喚起しようとした瞬間、手が斜面を掴み損ねて滑る。背筋がぞっとしたのもつかの間、「イヴェールっ」と呼ぶ声が少年の体を絡め取った。落下を食い止めた腕を確認してほっと息をつき、彼は口の端を上げた。

「“気をつけてこいよ”」




国とはいえ、小さいということは何時どんなことがあってもおかしくはない、ということだ。この領土は付近のとある大国に金を献上することで同盟を結び、その安寧を保ってきた。しかし近ごろ、その献上金を運ぶ道すがら、何者かに荷馬車を襲う事件が連続して起こっている。

崖の下でも、イヴェールが予測した通り荷馬車と数人の護衛が、護衛の人数を上回る数の男達に囲まれていた。全員剣を抜いて、既に流れる一触即発に少年達は顔を見合わせると、ごくりと息を飲む。

イヴェールはひとつ頷いて「今だ、」と声を張り上げ拾っておいた石を、崖下に勢いよく投擲した。それを合図に、多数の石が不審な男達に降りかかる。好機、と見た護衛の衆は途端に勢いづいて剣を振りあげにかかる。

石と剣戟の両方に耐えかねた不審者達は、次第に後退を始め、リーダー格の男の引き上げの号令が出てすぐ、わっと逃げ出した。

「やった、ローランサン!」
「ああ」

安堵以上のものが肩を撫で降りるのにつられて笑い、同じように笑うローランサンと手を叩きあう。ぱん、と高い音が、晴れた青い空に吸い込まれて消えた。





言いつけられた用事を果たすために、ローランサンが駆けていると、すれ違った夫婦にぶつかって尻もちをついた。手のひらに痛みが走り、思わず目を細めると、焦ってローランサンを助け起こした夫の方がぎょっと目を見開く。

「…っと、なんだローランサンか」

そこには、罪悪感を薄れさせる不信感がありありと見えて、ローランサンは内心舌打ちをつき、無言でその場を去った。背後からは折角助けてやったのに、とかぶつぶつ呟く言葉がはっきり聞えたが、反論する気力もなく、持っていたものを右手に持ち替え歩を速めた。

国が小さい場合、侵略されやすいということ以外に、余所者には警戒しか抱かない(例外はいるけれど)、という特徴もあるようだ。数年前、この国に入ってすぐ見つかった所を、領主の息子であるイヴェールに拾われて、ローランサンは今ここにある。

「あ、ローランサン」

先程の男とは対照的に、喜びを隠しきれていない呼び声は、不意にローランサンの目を丸くさせた。この声は、ローランサンの心を解しやすい。見れば、イヴェールが笑いながら此方へ駆けてくる所だった。

「ローランサン、どうかしたのか?……あ、やっぱり左手ケガしる。転んだの?」

一息で喋ると、イヴェールは茂みにしゃがみこみ、薬草を探し始めた。この地域は金にも恵まれているが、自然も同様で、殊に薬になる草花などには事欠かない。ローランサンは、困惑する。

「何で、怪我してるってわかったんだ?」

先程、確かに男とぶつかった際怪我をした。しかしそれははっきり見えるところにはないもので、首を傾げた。イヴェールはにやりと笑う。

「左利きのローランサンが、右で荷物持ってるからだろ。分かるよ」
「左利きなんて教えてないって」
「ああ、……ローランサン!」

唐突に繰り出されたイヴェールの拳に、つい受け止めようと手を伸ばす。左手を。イヴェールはその手が触れ合う前にぴたりと止めて、ほら見ろ、と言わんばかりにローランサンを見あげた。

「な、左利き」

そう言って手渡された一枚の葉を握りしめれば、遠くで上がった歓声がイヴェールを呼んでいることに気づく。大方子どもたちがイヴェールを遊びに誘おうとしているのだろう。イヴェールもそれに応えて振り返った所で、無意識にその腕を掴んでいた。

「い、イヴェ!」
「え?何!?」
「……これ、貼ってくれないか…?」

何となく、今彼と離れるのが嫌で。くすりと吹き出した彼に、同じことを考えていたのだろうかとぼんやり思う。陽射しは穏やかに日々を照らしていて、無意識の腕を恥ずかしがってさえいても、こんな時間が愛おしいと感じた。



そんな日々にひとつ冷水を浴びさせたのは、同盟国に献上する次の金が運ばれる輸送路の決定した時だった。



子どもだけで輸送路が襲われた際に手助けしようと、取り決めたのはイヴェールだった。しかし今回の事前の話し合いで、その話はイヴェールの前で初めて持ち上げられた。

「ローランサンが居たら上手くいくはずない」

耳を疑ってみても、その場に流れる雰囲気で、聞き間違いではないことが確かめられた。誰かが続けて言った言葉が、後を押す。

「ローランサンが裏切って情報を流してるって、小耳にはさんだ」

イヴェールは知らなかったが、ローランサンは前からこの輸送路の件に関して疑われていた。何度道を変えても、何度手を変えようとも、それを上回る策を持って襲撃される。誰かが情報を漏らしているかのように。余所者のローランサンは、一番にその疑いをかけられたのだ。だから領民の態度は彼に一層冷たくなっていたし、今だって部屋の雰囲気はより重くなっている。

「前も、ローランサンは僕等と一緒に襲撃を追いかえしただろ?」

イヴェールはそう言って、背筋に流れる氷のような危惧を誤魔化した。完全に否定できない立場が悔しくて、ぎりと唇をかみしめる。しかし言い終わりと重ねるように、ローランサンの欠伸が重なった。

「いいぜ、俺は抜けても。お前達だけじゃあ、イヴェも不安だろうけどな」
「なにっ」

がっと立ち上がった数人を、イヴェ―ルが慌てて止めれば、緩慢に振り返った複数の視線が絡まる。視線は「どうするのか」と決定を問うていた。

イヴェールは一度俯き、手を握りしめ、開いて、乾いた口内を空けて言葉を絞った。

「……じゃあ、今回はローランサン抜きで、いく」

そうすれば、彼の疑いも晴れるはずだと言い聞かせて。しかしそう宣言した一瞬、ローランサンがひどく傷ついた表情を見せたのが、イヴェールの鼓動を速めた。その後、派手に床を踏み鳴らして部屋を出て行ったローランサンを追いかけることも出来ずに、イヴェールは先程貰った輸送路の図を震える右手で広げる。

















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