イヴェールがちょっとデレた話。





「腰回りがきついな…」

ぽつりと落とされた呟きに、俺は顔をあげた。そこには安宿のぼろいベッドに座って腰をさする相方の姿がある。

「何、正月太りか?」
普段何かと容姿を気にする奴だから、嫌味をこめて言ってやると、違う。と首を振られた。

「ズボン重ねて着てるからしめつけられるんだよ」
「ふーん。でも二枚くらいならそうでも、」
「いや、二枚じゃなくて四枚」
「よ…っ!逆に熱くね!?」
「冷え性だから、これくらいしないと体が動かねぇんだよ…。昨日は三枚だったけどな」

昨日でも三枚。気付かなかった。というより重ね着しても見た目がそう変わらない相方の脚が恐ろしい。俺は相方曰く四枚重ねのズボンを思わず恐々と見た。やっぱり細い。何故だ。
 それに確かに今日は冷えるけど、そんなに重装備しないと生きていけないものだろうか。少なくとも相方はそうらしい。


「お前ってホント名前負けしてるよな…」
「うるさい。お前こそ子供体温っぽそうだから良いよな…。羨ましい」
「そんなにガキなつもりないんですけど…!!」

首を傾けてじっとり俺の体を検分する相方。寒さに震える色違いの目は心なしかキラキラしている。けど、そんなに真剣に羨ましがられても、あんまり嬉しくない。

「てか、体温なんて大体みんな同じもんじゃないのか?」

ふと、不思議に思って問いかけると、相方は睨みつけてきた。眉間のしわが、何言ってやがんだこいつ、と口よりも物語っている。相当寒いらしい。
俺は相方の口が実際に喋る前に、目の前にある青白い頬へ手を伸ばした。聞くより触るほうが早いものだ。

「うわっ、つめた…!」
「うわっ、あったか…!」

相方の頬は驚くほど冷たかった。寒い寒い喚いてるのもわかる気がする。凍りついてないのがおかしいくらいだ。咄嗟に手をはなそうとしたが、がしっ、と掴んだ相方の両腕に阻まれる。その腕も、背筋が震えるほど冷たい。

「い、イヴェール…?」
「……その体温、俺に寄こせっ!!」


がばり。突如座った眼をした相方が覆いかぶさってきた。

「わ、馬鹿離せっ!!」
「…あー、ぬくい」
背中にがっちりと手を回され、肩に顔を埋められて、脚を絡められて。いつの間にかベッドへ押し倒されている。
のしかかってくる重みと、耳元を掠める吐息に、ゾクリ、と体中に震えが走った。相方が運んできた
冷たさのせいか、それとも別の何かか。
とにかく心臓が速く走り始めて、鼓動がすごくうるさい。顔が熱い。
そんなことをぐるぐる考えているうちに、
相方は俺の首筋に頬ずりをし始めた。さらり、と一緒に動く銀髪から相方の匂いがして、くらりと眩暈を感じる。余計に体温があがって、だんだん上にある低い体温が気持ち良くなってくる。そんな固まっている俺に頓着せず、相方は最初に呟いたように言葉をおとした。

「寝るときお前がいたら、楽だよな…」
「それは、やめろ…っ!!」


今でさえ心臓がやばいのに。多分朝起きる時イヴェールの顔が横にあったら、俺の心臓は爆発して大惨事になるんじゃないだろうか。

そんなことをぼんやり思った、とある冬の寒い日。










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