*学パロとは違う現パロ
*二人とも同い年の一応社会人
*どんな盗賊以下略な方は、どうぞ…!








電話帳に登録してある番号やアドレスの着信音の大半は、初期設定の無機質なベル音そのままだ。しかし現在部屋内の静寂をずたずたに引き裂いている音は、リズムや歌詞が豪勢に装飾された立派な音。月が雲中の散歩の中盤を過ぎた時刻には多少煩い。

それが久しぶりに鳴り始めた瞬間指が微かに震えたのは、ふざけて設定した愛の歌が聞いてるだけで恥ずかしくなってくるからに違いない。無駄な言い訳を胸の内で繰り返し、持っていた文庫本をベッドの上へ無造作に放って画面を開く。ばさりと紙の擦れる音はそのままに、メール受信の画面、決定ボタンを押すと表れたのはたった三文字とクエスチョンマークだけだった。


「…挨拶の何もないのかよ」


口から出た言葉は随分と苛ついている。それでも、携帯はそのまま手の中に近くにあった財布を引っつかんで、立ち上がったのは馬鹿だとしか思えない行動だ。ぶつぶつ文句を零しつつ身支度も程々に、僕は温い風吹く外へ飛び出した。




月は、いつのまにか雲から顔を出していた。
寄り道したコンビニで買ったのは、安上がりな缶ビール一つと酔い止め薬。胃を守るつまみは向かう先の冷蔵庫に入ってることを期待する。数年ぶりに歩く道のりだが、記憶力が良いからか単に自分が執着深いのか、迷うことなく足は進んでいった。バスで行く方が楽な距離、しかしこの辺りのバスはつい先ほど最終便が過ぎ去った後だ。歩くしかない。スニーカーがアスファルトを踏むたびに、今朝(というより昨日の朝)降った雨で湿った砂利が音を立て、コンビニで貰ったビニール袋が揺れる。それは深夜の住宅街に一つの非日常をもたらしていた。いや、誰かしらこうして深夜の道を歩いている人がいるかもしれないし、数年前はその誰かしらが自分で。だから非日常ではないのだろうけど、今の僕にとっては既に非日常になってしまった行動だ。

そんなことをつらつら思い浮かべて数十分後、目的の玄関を見つけて立ち止まる。ポケットに突っ込んだ携帯を取り出し、メールの返信画面を開いてボタンを素早く打った。送信画面が消えて折りたたみ式の本体を閉じた後にもう寝たかな、と思わないでもなかったが、想像していたより早く例の愛の歌が流れて肩が跳ねあがった。かちゃ、砂利やビニールより耳に付く音で再び画面を開くと、曰く『開いてるから勝手に上がれ』。この時代に随分と不用心なものだ。自然に強さと速度を増していくものに気づかないふりをして、本当に鍵の掛かっていないドアの取っ手を開く。



「ローランサン?」


ああ、この名前を実際口にするのも久しぶりだ。同時に、その久しぶりな名前の奴から返ってきた自分の名前を聞くのも久しぶりだ。その声は、最後に聞いたものより少し掠れていてくぐもっている。聞き取りづらいそれを頼りに今度は躊躇いがちに狭い廊下を歩いていると、一室のドアの隙間から浩浩とした光が漏れている箇所があった。そこへ身をくぐらせる。部屋の配置は昔から変えていないらしい。そこは、高校から大学時代の友人、ローランサンの部屋だった。

「イヴェール…」

入って驚いたのは、ベッドにぐてと横たわり、うつ伏せ状態から体を起して見えた顔。身にまとっていたどこかで見たフォーマルなスーツ。そして、顔も黒いジャケットもくしゃくしゃにゆがんでいた。特に顔は泣いたのか、目元が腫れぼったい。

スーツ、思い出した。やけに見覚えあるなと思ったのは、こいつが今着てるのが、高校の卒業式後一緒に買いに行ったやつだからだ。試着室から出た後に見せ合い、お互い着られてる感が否めないことに店内で爆笑して店員に困った顔で注意されたっけ。

過去の思い出を振りはらって、どうした、と言う。ローランサンは唸った後、まあ座れよと真中に占拠していた体を横へずらした。少し間を空けて座れば、唐突に謝られる。


「ごめん、って何が」
「…寝てた?」
「寝てなかった。本読んでた」
「そっか。やっぱごめんな、突然呼びだして」


ぶらぶら足を揺らし、ローランサンは早口で言いきった。酷い顔は、酷い顔してると自覚があるのか俯けられている。しまった、タオル(濡れタオルばらなおよし)も家から持ってくるべきだったかと馬鹿な考えが頭をよぎり、誤魔化すように僕は会話を続ける。


「来れる?なんて文、意味深過ぎて来るしかないだろ。それに、お前には大分前貸した五十円を人質にとられてるからな」
「…はは、今度返す」


今度っていつだろう。来年、数年後?それとも数十年後か。

薄く笑った友人に、積極的に会おうとしなくなったのは自分なのだから自業自得だ、と言い聞かせる。大学卒業して、卒業祝いに二人で飲みに行って、この家の前で手を振ったのが前回だ。ある想いがあって、それにこりごりしたから連絡とらないようにしたのに、ローランサンの方からも連絡が来なくなったのには自分のことを棚に上げて腹を立てたものだ。だから今、連絡取らないようにと自分に科せた約束事を破って、ここにいるのだけど。

僅かに濡れたビニールから缶を取り出し、ローランサンの両目に当てる。濡れタオルの代わりだ。何か処置しておかないと、この目の腫れは翌日まで尾を引くだろう。ローランサンは一拍、二拍とおいて冷たいと呟いた。


「…恋人と喧嘩でもしたか?」


この一言を腹の奥から絞り出し、声帯を無理矢理震わせ、口から吐き出すのにはかなりの勇気と棘が必要とした。そう、学生時代、いつもこいつの隣にいたのは僕だったけど、それよりも近い所に居たのがローランサンの恋人だった。幼馴染同士だというカップルは眩いくらいお似合いで、中睦まじくて、今思い出すだけでも相当眩暈が起こる。

しかし、更にぐらりと傾かせたのは、やっぱりローランサンの一言。


「シエル、さ。結婚したよ。他の奴と」


一瞬言葉の意味が分からなくて、首を傾げた。徐々に、徐々に心臓がせり上がってくる。喉もとへ、耳元へ。缶を持ったのとは反対の手のひらが汗をかいて、ぐっと握り込む。駄目押しに、ローランサンは無感情な声でぽつり零した。


「一年前くらいに、別れたんだ」
「……は、嘘…だろ…?」
「まじで」


その意味を飲み込み理解した時、がつんと石で頭を殴られたような衝撃が走った。ローランサンは言葉を失ってる僕を置いて、俯いたまま目元にある缶に指を被せる。元からそこにあった僕の手のひらに、やたら熱い体温があたる。固くも柔らかくもないそれは、僕にどんな効果をもたらすのか無自覚でぐ、と力を込めた。


「俺もシエルも。付き合ってすごく楽しかったけど、幸せ、だったと思ったんだけど…。どうしても幼馴染の枠を超えられなかったんだよ。元の幼馴染に戻ろう、って言われた時嫌だって言えなかった。逆に納得したし。シエルにとって俺は、どこまでも手のかかる弟みたいな存在で、結局俺もシエルは何処か姉みたいな存在って思ってたみたいだ」


ぽつり、ぽつり。言葉と一緒に涙が零れる。ローランサンってこんなに泣く奴だっただろうか。前は、こいつのことなら大抵解ると高慢にも思っていたのが、たった数年のブランクだけで、僕の知るローランサンは霧の中に隠れてしまった。僕はただ、僕の知らないローランサンの懺悔ともとれる告白を無言で聞いている。


「今日、結婚式だった。シエルと、俺と別れた後に出来た恋人との。幸せそうだったよ。最後まで俺の心配してた。姉みたいに。俺も、弟みたいな感覚で幸せになれよって言ったんだけど、言った筈なのにな。…でもやっぱり、幼馴染で姉みたいな存在でも、ちょっとは本当に好きだったっぽい。帰ってきたらすげえ落ち込んだ」
「好きなら、奪えばよかったのに」


僕は大馬鹿野郎だ。自分の台詞こそ、学生時代の自分に言ってやりたい。「出来ねぇよ」と無き笑いで反論したローランサンは、もう無理という風にそのまま後ろに倒れた。ビール越しに繋がっていた僕も引っ張られて、しかたなく浅く腰かけていたのを頭がある所までもそもそ移動する。胡坐をかくと、膝がローランサンの腹に乗っかって、くすぐったそうに身を捩られた。その行動に、不謹慎だと分かっているものの可愛い、と思ってしまう。


「あー、やっぱりイヴェールに会うとほっとする。ずっと思ってたけど、お前実はマイナスイオン自己生産してんじゃね?」
「するか馬鹿。……で、吐き出せて少しはすっきりした?僕を呼びだしたのはそれ目当てだろう」


どうせ、という言葉は邪な目で見ているせめてもの謝罪で飲みこんでやった。震えた笑い声は、深夜の一室に情けなく反響する。最初の何となくぎこちない空気は何処へ行ったのか、打ち解けた空気に正直安心した。


「それもあるけど、何となく会いたいかなーって思ったからさ。卒業して以来だよな、そう言えば」
「……そうだな」
「まあ就職したての忙しさ、ってのもあったけど。イヴェールに会ったら泣きそうだったから」


やっと汗の引いた手で、軽く暗い銀色を叩く。つむじのふわふわとした感触は相変わらずだ。跳ねっぱなしの髪を梳くと、最後に一粒だけ涙が落ちる。


「僕いなくてもさっき泣いてたよな?」
「だってイヴェールに会えるかな、って思ったら、こう、自然に」
「……あー、はいはい。じゃあ気が済むまで泣け」
「うわーんいう゛ぇーるーって?」
「思ったより大分気色悪いから却下」
「酷ぇ!」


けたけた笑って顔から缶を離したローランサンの顔は、それはもうすごいありさま。首の下まで真っ赤にして、涙で目から頬まで濡れそぼって、猿みたいだ。しかも勝手にプルタブを開けて中身を飲み始めている。それは僕が勝ってきたのに。文句を言うと、「お前どうせ酔わないだろ」と反論された。無茶苦茶な反論だ。それか酔わない僕がビニールの中に酔い止めを入れてるのを見透かされているのかもしれない。ローランサンはアルコールに滅法弱いから、一緒に飲むときは僕が酔っ払ったこいつの面倒を見るのが常だった。

昔と変わらず、飲んですぐ全身に赤を巡らせたローランサンは行儀悪く、開けた際に一筋流れた液体を舐めとる。そんな姿がしどけないとか。思春期の中学生のような妄想が降ってきて、素直に慰めてやろう元気づけてやろうとする心の内の天使を邪魔する。悟られないようにこちらも笑って流し、妄想の悪魔からくる衝動を必死に抑えた。


「一緒に何か食べないと胃に悪いぞ」
「ん。冷蔵庫行ってくる。イヴェも飲むか?麦茶」
「麦茶かよ。…まあそんなに飲ませたかったら貰ってやる」
「なんでそんなに偉そうなんだよ!」


のろのろとした後ろ姿を見送って、数分前のローランサンを見習いベッドに上半身だけ倒れる。瞬間自覚した自分とは違う匂いに慌てて飛び起きてみたり。

届くはずもなかったはずの感情、暴走するのを恐れて避け続けてきたけれど。重石が外れて行き場のなくした今。多分今夜は泊る事になるだろうから、奴が眠ったその後に、こっそりキスすることだけは許されるだろうか。










んん?予定してた話と大分派手にずれたぞ??何が起こった特にイヴェール。報われないまま終わるよていだったのに(こら)まさに恋する乙女へと変・身。続きはどうなるか分からないので、井戸へおとしておきましたっ!←

ということで、こんな変な話になってしまいましたが、10000ヒットありがとうございました!!そのお礼の念をこめまくって妄想した話です。これからも色んな盗賊を妄想したり、クロセカ、+αで生きていこうとおもいますっ













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