*西風シリーズの短編集、一番最後の話のパロディです。
*どんな盗賊でも桶!という方はどうぞ。












二年も一緒に生活していて分かった事。ローランサンは、実に変な男だ。


「ほら、またついて来てる」


路地裏を早足で歩きつつ、鼻歌を歌いだしそうなくらい上機嫌に言ったローランサンに、溜息が洩れた。やめてくれ、今お前が歌うとなけなしの体力が全部消え失せるだろ。別に上機嫌である事が悪いと怒るつもりはない。ただ、状況をよく考えなおしてから緊張を緩ましてほしい。折角の闇夜だ、たった今しがた仕事を終えた殺し屋とその片棒二人、上手い事逃亡している最中だと言うのに。

張りつめさせていた緊張の糸は、結局呆気なく解けた。ちらちら後ろを振り返っては浮かれまくる灰銀の首根っこを思いっきり捕まえると、完璧に油断していた馬鹿はぐえと呻いて暴れる。


「ってぇ!何すんだよっ」


本気で暴れられると自分じゃ手に負えないことは実地で知っているので、適当な所で離してやった。ローランサンは二三咳き込むと、ギッとこちらを睨んでくる。ころころ表情が変わる奴。こうして見ていると、彼が殺し屋″という肩書を持つ最低な人間だと見抜く奴はそうそういないだろう。だから変な男なのだ。僕も未だこのギャップに慣れないでいる。初めて会った頃、肩書とその肩書に見合った仕事をするローランサンに浮かぶのは、ただただ嫌悪感しかなかったのに、今ではどうだ。


――俺からこの術を奪いたければ、俺を殺せ


今日と同じような月のない夜空に、白い光が鱗粉を散らして飛び交っていた。ローランサンは足元に蹲る死体何か気にも留めず、三回だと低い声で囁く。機会は、三回。そのうちに奪い取る事ができなければ。


『死へ導く蝶は、俺が死んだら契約に応じる。まあ、精々頑張れよ』


そう凄絶に笑った顔と、僕が引っ張ったせいでずれた襟元を元に戻す拗ね顔がだぶる。眩暈がしそうだった。一体どちらが、この男の本質なんだろう。


「畜生、折角あいつが機会を狙ってたのに。……あーあ、イヴェールのせいで楽しい気分が台無しだ」

「追いかけられて嬉しいんだ。実はマゾヒスト?お前」

「違う!!」


先ほどからローランサンの喉笛に食いつくため、僕達を後ろ15歩程にずっと追跡していたいた気高い復讐者は、ぎゃーぎゃー騒ぎながらのやりとりに呆れたのかいつの間にか姿を消していた。ローランサンは非常に悔しそうに、残念そうに眉を下げる。


「復讐者ってもただの犬だろ。なんでそんなに…」


ふと呟くと、ローランサンは勢いよくこちらを振り向き勢いよく吠えた。煩い。


「お前、分かってないな!犬とは言え、立派な復讐者だろ。飼い主を俺に殺されて、健気にも俺たちを追いかけてくる。復讐するために。一般人は、殺されたやつの家族さえ俺たちが犯人だと気づきもしないのに、あいつだけ!あいつだけが気づいてこうして追いかけてくる。めちゃくちゃ利口なやつじゃねっ?」


随分長い口上に、呆れてとうとう溜息もでなくなった。ギャップはどうやら、性格以外にも嗜好の所にまで及ぶらしい。今夜もまたひとつ、ローランサンの印象が上書きされて胸の中で舌打ちする。舌を打ち終えて、ローランサンの興奮をしめくくるために、「お前はその利口な犬をどうしたいんだ」と聞くと、失敗した。逆効果で、あらわれたのは更に興奮した面持ち。


「お近づきになりたい!」


すっぱり言い放った言葉は、死の蝶が魅せる蠱惑的な光より眩かった。

遠く見え始めた街頭の小さな明かりが、興奮を湛えた藍をぼんやり照らしどきりとさせられる。僅かに早まった左わき腹の上辺りからの音を聞かれたくなくて、止まっていた足を動かす。待てよ!とローランサンも小走りでついてきた。


「ほんとにお前、冷たいな!」

「何、自分を殺すかもしれない奴に優しくしろって?」


嘘だ。既に絆され始めている自分がいるのは、もう重々承知していた。とは言え口まで、そうすぐにほいほい素直になれるものか。あらぬ方向へ向こうとした僕の視界は、しかし横に並んだ奴の存外不機嫌な声音に釘で留められた。


「…へぇ」


ローランサンはにたり、人を殺すのになんの躊躇もない残酷さがよく似合う表情を唇に浮かべる。


「それはお前が俺に勝てない、って認めたってこと?」


勝てない、のではなく勝負を挑むことに迷いが生じた、というのが正答。僕はローランサンの嘲るような問いかけに頷かず、正答も教えず、「誰が認めるか」と今度こそ視線を外した。


どうしても、人間として最低限守ってきた掟を破っても、取り戻したい愛おしいものが自分にはあった。けれど、愛おしいものは、この男と月日を彷徨うようになってから過去のものになりつつある。過去の自分と、今の自分の間で生まれた軋轢で呼吸がしづらい。けれど、苦しいままでもこの日常を崩したくないと思ってしまうのは、時々胸を苛むようになった喪失感からでない鈍痛は、風が大地を撫でていくように自然なことだった。










西風盗賊でした!ホロさんとはキャスティングが逆で、ダクロアイヴェールとキリロラサン。ちょ、超楽しかった☆
どっちかというと自宅盗賊寄りにやってみたつもりですが…予想外にイヴェールが内心デレになって自分でも驚きです←

あ、でも一つだけ。ロラサンに某ワンシーンの、「俺がママンでこいつがパパンだ!」って言わせたかった…orz














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