へたれイヴェールと酔っ払っいロラサンと賢者の四月馬鹿話。 陽射しは小春、風は冬。暖かいのだか寒いのだかよく分からない外から帰ると、部屋の中では三文小説並みの芝居が繰り広げられていた。 「私達、もう別れよう…」 「ど、どうして…俺のどこがいけなかったって言うんだ!」 「君の心の中には、もう彼が住んでいる。私にはそれが耐えられないのだよ…。分かってくれるね、ローランサン君」 「そんな、俺を見捨てるのか賢者ぁ!」 決して大きいとは言えない机の上には、一枚の紙(よく見ると、どこから持ってきたのか離婚届だった)、子供の玩具だと一目見て分かる指輪、半分飲みほしてある見慣れない酒瓶。 その横で顔に手を当てて泣き真似する賢者と、賢者の服の裾に縋る真っ赤な顔したローランサン。 これらの状況を一目で判断し理解しろ、というのは無理な相談だった。 「おや、間男役が帰ってきたようですぞ。ローランサン君」 「本当だー。やっと修羅場入れるじゃん!」 「……お前ら、何やってるの?」 僕は自分の理解力に頼らず、説明を賢者に求めた。この髭紳士は胡散臭いことこの上ないが、明らかに酔っ払ってる相方に説明させるよりはましだ。 屋内だからと脱いである帽子をくるりと回して、賢者はふむ、と笑う。 「酔っ払ったローランサン君の、四月の悪戯だよ」 「はぁ?」 「そんなことよりー、イヴェは俺を寝取った間男役でよろしくお願いします」 「誰が間男だ。言ってること分かって頼んでんのか、お前…」 盛大に溜め息をついて、上機嫌にへらへら笑うローランサンの頭をひっぱたく。それなりに文句を言われると予想してやったが、ローランサンはそのままふらり、床に撃沈して動かない。 慌ててうつ伏せになった馬鹿を起こしてみると、幸せそうにすぴすぴ眠る顔があった。…成人間近の男にすぴすぴなんて擬音語似合わないと思っていたのに、こいつにはその言葉が一番似合っているのが驚きだ。 「…取りあえず、寝かしてくる」 このまま放っておいても良いのだが、つい先日に仕事を終えたばかりなので体調を崩しやすいだろう。僕は手間のかかる相方をよっこらせと背負った。 「手伝いは?」 「僕一人で十分。茶でも煎れてくるから少し待ってろ」 「ではお言葉に甘えて」 いくらローランサンより自分の方が大きくとも、運ぶのは容易いことじゃなかった。普段使わない筋肉をフル稼働し、やっと着いた寝台に相方を乱暴に落とす。 「…ぐぁっ」 思いきり頭を枕に打ち付けたせいか、流石にローランサンはうめいてぼんやりと瞼を開けた。 焦点を結ばない寝起きの瞳は普段の藍色より深く、落ち着かなくさせる。ここでさっさと回れ右をすれば良いのに、頬を上気させとろんとしたあまり見ない相方の表情を間近で見てしまい、僕の足は氷ついてしまった。 一方の相方はしばらく僕の顔をまじまじ眺めると、何を思ったのか手を伸ばしてくる。 「ローランサン…?」 その行き着く先は、僕の口。そろりとなぞると、力つきたように相方の腕は重力に従う。 「イヴェ、……き」 僕は今までの人生最大の速度をもって回れ右をした。ひねりかけた足首が痛いけど、そんなこと気にかけてる場合じゃない。 「イヴェール君…?どうしたのかね、やけに足音が怪獣並だが」 「…賢者。今からお茶を用意するまでの間、円周率を呟いててくれないか」 「はい?」 「頼む」 数字の羅列を音楽代わりにして、紅茶セットを用意する。そうもしないと、情けなく顔の赤さが相方から移ってしまいそうだった。 四月の今日。寝言まじりに呟かれたことは真実か、はたまた悪戯の延長線か。 テンションがおかしい文でした…! 賢者がちょうどよく手土産持って現れて、先に一杯飲んでたローランサンが暴走した話?(疑問系) 離婚届とか円周率、数百年前にあったのかどうかは分かりませんですorz そしてイヴェールが回れ右したのは、彼がへたれだから← |