5.なきむしのつよがり




イヴェ←サン。




物は試し、この世にはやってみないと分からない事なんて山ほどある。常々疑問に思っていた事を解明するために、僕は行動に出ることにした。暇つぶしに。


「ローランサン、僕、結婚することにしたから」

「へぇ結婚、それはめでた………結婚?」

「うん。ノエル似の可愛い女の子と」



疑問、即ち彼が元からお節介焼きなのか。やたら僕に世話を焼きたがるローランサンに、ある日ふと浮かんだ疑問。やれ飯食えだの夜更かししてまで本を読むななど、お前はどこの母親だと突っ込みたくなるくらいに、ローランサンは僕に献身的だった。それは僕だからなのか、それとも彼の元々の気質で誰にでもやってる事なのか。気がついたらその疑問が僕の中に横たわっていて、いつまでも頭を悩ませるのは癪だったのも手伝って、僕に行動を起こさせた。答えが後者だったら、とりあえず一発殴っとこう。

とにかく、疑問をすっきりさせるために、ありもしない話をでっちあげた。僕が何らかの理由で離れたとしたら、こいつはどうするだろうか。この時ぱっと思いついた”何らかの理由”が結婚だったので、こいつがただのお節介焼きだとしたら、それはもう自分のように祝福してくれるだろう。ただ、僕はそうされたらひどく自分の中が虚しくなる気がした。結婚の話は嘘なのだけれど。僕はこいつの反応に何を求めているのだろうか。


「………結婚?」


ぽかん、としたローランサンの顔は滑稽で、思わず笑いそうになったけれど、ここは耐えて真剣な顔を維持する。結構顔の筋力を使うので、難しい。しかしそのおかげで、彼はようやく言われた事の重大さに気がついたようだ。僕は目の前にある小さな顔の観察を始めた。


「一番初めにお前に報告してやろうと思って」

「ほうこく、一番はじめ…?」


多分、僕が彼の顔を注意深く見つめてなかったら、その小さな変化が分からなかったかもしれない。ローランサンは瞬きの間ほどごっそりと表情を無くしてから、次にはじけるように笑った。


「よかったじゃん!!なんだよ、彼女がいたなら教えてくれてもよかったのにさー」

ローランサンはからから笑って、僕の肩を容赦なくバンバン叩く。

「しかも妹似って…どんだけシスコンなんだよ、まぁお前の妹に似てるんだったら相当美人じゃん。このかほーものめ!」

「…ローランサン」

「あーあ、俺も用済みかぁ。料理とかも奥さんに作ってもらって、ちゃんとまっとうな仕事につけよ」

「、おい」

「それで!確り幸せにするんだぞ。そうすりゃあ一年もしないうちに子供とかもできるだろうし。イヴェールの子供か…想像つかない」

「……嘘なんだけど」

「これでやっと、俺も毎日の家事から解放されるな。お前も所帯持つからには奥さん任せじゃな………え、今なんて…?」

まるで僕の言葉を聞きたくない、とでも言うように喋り続けるローランサンに、小さく呟いてみると(さすがに騙したのは悪かったと思う)、また最初のぽかんとした顔に逆戻りした。


「だから、嘘」

「ウソって、結婚、が?」


頷いてごめんと謝ると、彼はのろのろと俯く。そして、一気に眉をくしゃっとゆがめて、僕は彼の頬を流れていく滴にぎょっと飛びあがった。



「四月の魚、でもないのに……?」

「……ちょっとした出来心で」


罪悪感が胸を針で突き刺しているようだ。ぽろぽろと流れる涙にどうしたらいいか混乱して、取りあえず拭おうと思い至ったところで、ローランサンは思いっきり顔をあげる。


「イヴェールの、馬鹿やろーーーっ!!」


本気の罵倒を呆然とうけたせいか、直後に身をひるがえして部屋を飛び出していった彼の腕を掴めなかった。ことの始まりの疑問も結局は解決しないまま、僕は部屋に立ち尽くした。









四月の魚はフランスでのエイプリルフールです。詳しく調べていないので、間違ってたらごめんなさい…!四月馬鹿までとっておくべきネタでした…orz
多分次のお題はこれの続きです。

そしてすごく今更ですが、このお題はすべて繋がってる……はずです。イヴェールがツンで、相互片思いっていいな!という妄想から生まれた話。ただし、イヴェールについては無自覚ですが。はたしてこの二人は無事にくっつくのだろうか…(^q^)






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