4.人は人、自分は自分<前>




そんなんじゃないってば!の続き。





空は太陽が姿を隠して久しく、
寒い風が街路を歩く人々を急がせる。

――苛々する。気がつけばもともと速かった歩調を、さらに速くしていた。
寒さなんて関係がない。今、僕の体を動かしているのは、もやり、とぐろを巻く不快感。何でこんなものに体の主導権が奪われているのか。自問自答してはじき出した答えは、やっぱり部屋を出た時と同じ。

相方が家出した。

一か月ぶりに妹宛の手紙を書いていたところ、しつこく飯食えだのシスコンだのと邪魔してきたので、無視していたらいじけて外へと飛び出していった。誰でも人生の楽しみを邪魔されると怒るに決まってるだろ。
まぁ、ここまでは普段よくある事。最初はすぐ帰ってくると高を括っていた。
だけど僕の予想は珍しく外れて、あの野郎、夕食時間をとっくに過ぎても帰ってこない。

いつもだったら、台所に立って下手くそな鼻歌さらしながら食事の準備をしている奴の
姿が、今日に限っていなかった。ただそれだけなのに、無性に苛立った。静かな部屋にも腹が立つ。
こんなの自分らしくない。
そう分かっていても体は勝手に動いて、気がつけばコートとマフラーを引っ掴んで、部屋を飛び出していたのだ。

もう僕も相方も子どもという枠からはみ出していて、相手が外泊をしても気にする理由はない。それでも僕の知らないところで、僕の知らない誰かと過ごす相方を
想像したら、今までに無いくらい心臓辺りでとぐろを巻いていたものが暴れだした。本当に、らしくない。
取りあえず夕食を食べ逃したことを理由に、見つけたらねちねち苛めてやる。そう決めて、僕は最速の歩調のままローランサンの行きつけの酒場へ向かった。



(意地っ張り・10題)







「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -