3.そんなんじゃないってば!




パーンが出てきます。幼馴染設定。








「で?喧嘩して家出してきたんだっけ」
「いえでじゃないっ!さけのみにきたんだっ」

だんっ、と置かれたグラスの音は、酒場の喧騒にのまれてすぐ消えた。怒鳴ったローランサンの声は十分ろれつが回りきれていない。自分が酔いやすいことを知っているくせに、何か腹立たしいことがあるとすぐ酒に走るのがこいつの悪い癖だ。まぁ、同じ孤児院出身の僕の前だから気がぬけてるだけなんだろうけど。

「えーと、そのイヴェールが妹宛の手紙に熱中してかまってくれないから、サンは淋しくなったんだろ?」
「べつにーいまは、ぱーんが居るからさびしくないしー」

カウンターに突っ伏して足をぶらぶらさせる姿、はいじけてすねてる子供そのままだ。僕はばれないように笑って幼馴染みの肩を叩いた。それにしても。

「お前もよくあのイヴェールと暮らせるよな…疲れない?」

僕が幼馴染みの同居相手を実際に見たのは数回。しかしそいつについてなら、その容姿と頭の良さから噂に事欠かない。
しかし目の前にずば抜けて美人、しかも冷たい性格(という噂)な人物がいると、気疲れするもんじゃないだろうか。現に今回家出しているわけだし。同郷の兄貴分である僕としては、ローランサンの今後の生活が気にかかる。けれど幼馴染みの思考回路はどう繋がったのか、僕の質問にふにゃりと笑った。

「イヴェは、すっげ綺麗で、見てるのたのしい」
「…ほう」
「いじわるだけどさ、ちゃんと優しいとこもあるんだー」
「……へぇ」
「だから疲れない、けど、」

話しかけても答えてくれないのは、やっぱりさびしいかも。と眉を下げる幼馴染みに僕は戦慄を覚えた。どうやらこの幼馴染みは同居人にべたぼれらしい。今のほぼのろけを聞いて、取敢えず普段の生活に不満はないようだと安心することにする。というか無理矢理自分自身を納得させた。本人が幸せそうなので問題はない……はず。ただ、一つだけ気になったことがあったので、もう一つだけ質問した。


「…、お前ら付き合ってるの?」

「っ、そんなんじゃない!」



ただの俺の片想いだ!と叫んだ幼馴染みの声は、聞かなかったことにする。


(意地っ張り・10題)






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