8.はた迷惑な照れかくし






前回の続き。ロラサンの出番。







足音の持ち主は、イヴェールだった。あの女の子とよく似た銀髪を雨にさらしながら、こっちに向かって走ってくる。その手にはちゃんと傘があるのに、何で差してないんだろう。だんだん近づいてくる相方に、逃げなきゃ、と無意識に後ずさると、無慈悲に閉ざされた店の戸が後ろで乾いた音をたてた。逃げるとこなんてどこにもないんだ。せめて晴れていれば俺も走って飛び出していけるのに、今は雨の檻に囚われて身体が思うように動かない。

「ローランサン」

イヴェールは俺の姿を認めて、遂に目の前に来た。運動は苦手なくせにここまで走ってきたからか、俺の名前を呼んだ息は荒い。返事をしようとも、喉がぴったりとはりついていて言葉が出ない。視線を合わせていられなくて、俯いた。




「――悪かった」

謝られて、驚くより先に怒りと諦めが一気にこみあげてくる。
 何だよ、知らない癖に。俺の気持ちなんてこれっぽちも気付かずに、心をぐちゃぐちゃにしてくだけしていってさ。今謝ったのだって、本当は理由も分かってないんだろ。ただ、俺に出て行かれると生活に困るから、引き留めようとしているだけ。冗談に一喜一憂するような扱いやすい馬鹿で、家事もそこそこ出来る仕事の相棒なんか俺くらいしかいないもんな。そう思うと、わらえた。今度は素直に声が喉を通る。



「俺もごめんな、うるさくして。お前があんなこと言うからびっくりしただけなんだ」



イヴェールが静かに俺の隣に並んだ。至近距離で感じる体温は、結構低い。



「俺はお前が結婚しても、しっかり喜んでやるよ。それは嘘じゃない」



思っている事がすぐ顔に出てしまう俺にしては、完璧な演技だったと思う。流石にイヴェールの目を見れなかったが、笑顔さえ浮かべながら言いきった。そうだ、イヴェールは知らなくていい。知られたらそこでおしまいだ。


どんなに苦しくても俺はこいつの傍にいたいから、これ以上俺を掻きまわさないでほしかったのに。




「……僕は、お前が結婚したら寂しいよ」

「っ、何言ってんだよ!」

「寂しい。お前が居ないと」



湿った手で頬を撫でられる。思ったより暖かくて、心臓をはねさせた。店の屋根先から、雨がぽたぽたとたれる。つられて俺の目からも雨が垂れてきそうになって焦った。期待してはいけない、と必死に心を抑えこむつっかえ棒が今にも外れてしまいそう。イヴェールはそっと手を離して、持っていた傘を広げる。

「だから、部屋に戻らないか」

そう言われて手をさしのばされたら、手放せなくなるじゃないか。でも、イヴェールに弱い俺は、本当に寂しそうに首をかしげて提案されて、断れない。迷って、迷って、白い手のひらに自分の手を重ねた。





一緒の傘の中は、狭い。よく肩がぶつかる。気恥かしいのもあって、イヴェールが濡れないように離れて歩くと、逆に俺が雨の当たらないところに押し込まれた。「僕はお前よりでかいんだから濡れるのは当たり前」そう言われて純粋に喜んでいた俺は、やっぱり気がつかなかった。イヴェールも照れくさそうにしていたこと。

そして長い時間雨で濡れていた相方は、翌日見事に風邪をひいたのである。








何だこの少女漫画もどき\(^o^)/
ローランサンが乙女過ぎて、どうしようかと思った。びば健気☆








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