6.他人の意見は聞こえません




前回の続き。今度はあの子がでてきます。





『結婚することにしたから』


心臓が止まったかと思った。




俺の相方は意地悪だ。意地悪で、性格悪くて目つきも悪くて口も悪くて、ほんのちょっと優しい。
 
イヴェールと出会ってから二年もたたないけど、一緒に過ごしてくにつれてだんだん惹かれていって、今ではさすがに自覚をしている。あ、俺こいつのこと好きなんだな―、と。だってしょうがないじゃないか。馬鹿な俺、見た目は一級品のイヴェール。虫が夜に光を求めて集まるのと同じで、全身で光り輝いてるようなイヴェールに俺の気持ちが傾いていくのは当然じゃないか。
 
 だけど、馬鹿は馬鹿なりにやってはいけないことの分別はついてる。
"イヴェールと一緒にいたかったら、この気持ちは絶対にばらしてはいけない。"

俺は相方より裏の生活が長いから、普通じゃないことも色々知ってるし経験しかけたこともあって、その色々の耐性を持ってる(まああってもなくてもイヴェールを好きになるのは、多分決定事項)。相方は違う。俺と会う二年前までは普通の一般人だったのだ。もちろん相方はフェミニストで、可愛くて柔らかい女の子のほうが好き。それに、ある程度金がたまったら妹の所へ帰ってお嫁さんをもらって、表社会に復帰して明るい場所を歩いてくだろう。俺を置いて。
俺の気持ちが成就するなんて、空から砂糖が降ってくるぐらいにありえない。それだったら軽蔑されて別れを早めるのじゃなくて、ぎりぎりまで耐えて別れた後に、こんな奴がいたなと思い出してもらえるほうがよっぽどいい。


 そんな覚悟をひそかにしてたけど、無駄だった。イヴェールは、俺の心臓を直接手に握っているに違いない。実際にイヴェールの口から結婚の言葉が出たときに、とうとうきたか、と思うより先に心臓が固まってしまったのだから。



「イヴェの、ば かやろー…」


雨が降っている。朝は晴れていたのに。イヴェールの言葉から衝撃を受けた分体力が根こそぎ奪われていて、俺は躓きそうになりながら歩く。行く場所は決めてない。ただ、今は相方と顔をあわせてはいられない。結婚、は軽いジョークだったにしろ、予告なしのリハーサルはきつかった。今からこんな状態になってるようじゃ、本当に相方が離れていくときにどうなるか考えたくもない。

 

 吐き出せるだけの息で溜息をついて、雨宿りができそうな閉まっている店の屋根の下に入った。入ってから、隅っこにいる先客に気がつく。俺と同い年くらいの細い女の子。その子は俺を見て一瞬だけ軽く目を見開いていた。俺もその子を見て目を疑った。

「貴方も、雨宿りですか?」

次に耳も疑った。
ふんわり、と三つ編みにして両肩に下げている髪、その髪の色がさっきまでみていた色に似てる。声は、何だかさっきまで聞いていた声を高くしただけのような。女の子は、口をあけてぽかんとしている俺を気にすることもなく、柔らかに喋り出した。

「私はたまたまこの街に来たので、近くに住んでいる兄を訪ねようと思ったのだけれど……困りましたわ。このままでは汽車の時間が来てしまいます」

女の子は困ったと言いながらも、楽しそうに空を見上げる。兄、がこの近くに住んでいるということはもしかして、もしかしなくとも、そうなのか。

「どうしても言いたいことがあったのですが、残念ですが今日は無理そうですね…。だけど、貴方に会えたから今日はとてもいい日だわ」


と明るく言って、ますます俺の頭を混乱させる。俺が知る限りでは彼女との面識はない。けど、彼女は俺を知ってるみたいだ。極めつけは、これからも兄をよろしくお願いします、という一言。

「それでは、汽車の時間ですので」

「…あの、もしよかったらこれ、」

俺は混乱する頭を抱えながらも、女の子に向かって着ていたコートを脱いで渡す。ここから駅までだと歩くには遠い。その間体を冷やしてはいけないだろう。俺が雨の中を歩いたのは少しだけだったから、コートはまだそんなに濡れていない。多少は傘の代わりになるはず。女の子は遠慮がちに、でも嬉しそうにありがとうございます、と言って会釈をした。そしてふいに、街路の奥のほうを見やってくすりと笑う。

「知ってます?最近の手紙の内容。半分くらい貴方の事なんですよ」
だから貴方の事もすぐわかったの。

「…え?」

「だからもっと自信を持って」

ひくっ、と息をのむ。この子は、一体何を言っているのか。
手を振って去っていく彼女に慌てて手を振り返して、俺はその場にずるずると座り込んだ。



聞こえない、自分の都合のいい話なんか。聞きたくない、勝手に期待してしまう自分がいるから。


雨の音で、聞いてしまったイヴェールとよく似た声を振り払おうとしても、思いどうりにはいかなかった。もう姿の見えない彼女じゃない足音が、忙しくこちらに向かってきたから。






ロラサンがイヴェ大好きですって話でした。
今度はノエルちゃんが登場です。そしてまた続きは次回に…orz
ノエルちゃんは手紙を見て、兄がロラサンをずいぶんと気にかけているな、と。そいで手紙から伝わるロラサンの行動も、兄をずいぶん気にかけているな、と…wロラサンだと一発で見抜いたのは、銀髪が珍しいからということにします。サンホラの銀髪(白?)率高いけど\(^o^)/






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