「よっこい…しょ!…あー、ダメだ」

「何やってるんですか?」

「うわあっ!って、鯰尾…?」



馬当番を終えて屋敷に帰る途中、道のど真ん中に不自然に空いた大きな穴を見つけた。こんなことするのは、この本丸ではあの真っ白な刀剣しか居ないだろう。そう納得して横を通り過ぎようとすると、その穴の中から聞き慣れた声。覗いてみると、中には主がいた。



「主ー、こんな所で何やってるんですかー?」

「見ての通り、落とし穴にハマっているのだよ鯰尾くん」

「これやったの鶴丸さん?」

「だろうね」

「ですよねー。というか、なんでこんな分かりやす過ぎる穴に落っこちちゃったんですか?」

「綺麗な色のトンボが飛んでてね、見とれながら歩いてたから穴があるのに全く気が付かなかったんだよね。いやあ、参った参った」



彼女の控えめな身長では、この大きな落とし穴を登るのは一苦労だろう。そう考えて彼女に向かって手を差し出した。



「ほら、捕まってください」

「ん、ありがとう」

「あれ?主太りました?」

「何だとこのやろう。何でよりにもよって通ったのが鯰尾だったのか…」

「あはは、落としますよ?」

「鯰尾で良かった、ありがとう、助けてください」



落とし穴から主を引っ張り上げると、顔も服も土だらけになっていた。そう言えば、前にもこうして主を助けたことがあったっけ。あれは確か、まだ俺がこの本丸に来たばかりの時だったか。懐かしいなー。



「顔拭いてあげるんで、じっとしててくださいね」



俺は持っていた手拭いを取り出して主の顔に付着している土を拭いた。



「それ馬糞掃除した手を拭いたやつとかじゃないよね?」

「俺のこと何だと思ってるんですか。馬糞掃除して手を洗った後に拭いた手拭いですー」

「えー、複雑…。にしても鶴丸め、またこんな所に落とし穴なんぞ掘りおって…この恨み、晴らさでおくべきか!」

「仕返しに落とし穴でも掘っちゃいますか」

「いいや、それじゃあ生温い!燭台切に言いつけて1時間みっちりお説教コースの刑にやるもんね」



本当にこういう所は子どもっぽいなあ、主は。そう言って目的の人物がいるであろう台所へ走っていく。すると、途中でピタッと止まってこちらに振り返った。



「鯰尾ー!ありがとねっ!!」



ああ、本当にこの人は…



「…どういたしまして」















その後、燭台切に正座をさせられながらこっ酷く叱られ、夕餉を抜きにされる鶴丸の姿が見られたとか。

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