二人の少年が外に飛び出したとさ、 | ナノ


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相変わらずここの本丸の三日月との面会は果たせないままであるが、加えて、あれ以来小狐丸とは会わず、その二人に関しては全くの進展は見られていないが、それ以外の男士との信頼関係の形成はうまくいっていた。着任して数十日を用いたが、出来は上々と言えるだろう。

そして今は、ある程度霊力の放出を抑えるように三日月から送られた髪飾りを身につけている。その為、三日月の介護は必要とせず必要最低限の移動はできるようになっていった。あれだけ皆が治るまで制御はしないと豪語していたのに、制御するようになったのか。それは先日起きたことがきっかけであった。


いつも通り前任の悪夢をみて、朝起きて、三日月に世話をされて、執務室へ行って、光忠に人間なのにご飯を食べないとは何事だと説教を受けたので、10秒飯を封印し、光忠特製のご飯を食べさせてもらい、政府への茶々入れをして、遠征・演習・出陣する男士を見送り、ソファーに身をゆだねてうたた寝をして、それから三日月の介護を受け寝る準備を済ませ、まったく変わったことは起きておらず定番とかした日常を送っていたら突然起きたのだ。



「あ゛あ゛ああああああああ あ あ あ゛っ!いやっ、月が…っなんでこんなっ!」

「っ崇雷!?…どうした?落ち着け、落ち着け。」

真夜中、崇雷が絶叫し、半狂乱になりながら隣で寝ていた三日月を拒絶した。体は思うように動かないため、乱暴に腕を振り上げ三日月に向かって振り落とす。三日月はその衝撃を受け、三日月はその拳を身に受けながら崇雷を抱き抱え落ち着かせようとする。

「来るなっ来るな来るな来るなぁあ!!来ないでっあああああ!」


「一体何事だ!」

真夜中の奇怪な絶叫に眠りの浅かった男士達が起きてきた。崇雷の部屋に一番にたどり着いたのはへし切長谷部であり、声を荒らげて障子を開けた。

「分からぬ、恵が突然…。」

「う、ぐ……――がれ…。」

「恵、大丈夫か!?」

「…っ下がれ!長谷部!」

「しかし!」

息も絶え絶えに崇雷が叫ぶ。今来た男士達に対して下がるように荒々しく命じる。しかし状況の読めない長谷部は残留することを希望する。それでも崇雷の発言する内容は変わらなかった。下がれ、と非常にも命じた。

「下がれと言ってるんだ!これは主命だ!今すぐに下がれ!」

「っ…主命とあらば……。」

納得の行かない様子であったが、長谷部はそれ以上のことはせず、崇雷の部屋から出て行った。

「…主、落ち着いたか?どうしたというのだ。」

「……すまん、記憶が…前任の、夢…が、記憶が、昨日まで学内のことだったのに、どうしてあ、あ…。」

殺される夢を見た。ここの本丸の男士に殺される、記憶をみた。何故、そのような夢を見てしまったのか。
それは崇雷が体を休めている空間が前任も休んでいた空間だったのだから。霊的影響を受けやすい崇雷は前任の記憶を夢で追体験をしているようになってしまったらしい。始めは仄暗い空間から。それから前任の養成所、審神者になった時の記憶、そして今、殺される前任の記憶が崇雷の中に流れ込んで夢と現実が混同してしまったことが理由だ。

「引きずられるでないぞ崇雷。崇雷は前任ではない。俺の主だ。俺の可愛い主だ。」

「分かってる、分かってるけど…。」

「寝よう。まだ夜中だ。」

「嫌だっ!もうあんな夢、見たくない!お前じゃないけど、三日月に殺される夢なんて、見たくない!」

「…っ、分かった。では横になろう。寝なくても良い。横になって休憩しよう。」

「ごめん、ごめんなさい、許して、私が、」

「崇雷!!」

「あ、ごめ…俺、三日月…ぎゅってして…俺が、俺を見失わないように、俺の可愛い三日月…俺を抱きしめて。」

「ああ、あぁ。崇雷、俺は崇雷の可愛い三日月だ。決して裏切らぬ。決して離れぬ、だから庵して休まれよ。」

この夜を皮切りに崇雷は夜、寝れなくなった。否、一度は寝るが、悪夢で早々に覚醒し、そこから一睡もせずに朝を迎える。そして昼寝をする形をとるようになった。しかし、昼間は安定して睡眠をとることが出いない。最低限執務をすることになるし、出陣のアドバイスもする。そしてご飯も食べなければならない。質のいい睡眠をとることができないでいた。日に日に衰弱していく様子が目に見えてわかっていった。
三日月以外の他の男士には前任の記憶を見ているとは言わず、夢見が悪いということだけをかいつまんで話していた。安眠グッズと称して色々なお香や、枕、悪夢を払う祈祷だとかを受け、愛されてるなとも感じて少し幸せだった。
しかし幸せだけではやっていけない。ただでさえ霊力を垂れ流しにしているのだからこれは想像以上に悪い状態といえる。このままでは衰弱死も視野に入ってきてしまう。
さらに、夢現を見るたびに三日月への恐怖心が募り今では近づけさせない始末だ。介護は受けたくないと、床を這いずって移動し、ご飯も零しながら口へ運ぶ。なんて無様な姿なのだろう。

「崇雷、頼む。これを、せめてこれをつけてはくれないか?俺とお揃いの髪飾りだ。俺が近くに行けぬなら、せめてぺあるっくというものをしようぞ。」

「……うん。」

なにか言いたげではあった崇雷だが、言葉を発することも億劫になっているのだろう。肯定の短い分しか返ってこなかった。三日月はその言葉を聞き、近くにいた乱藤四郎に手渡し、崇雷の髪へ飾ってくるよう頼んだ。乱はそれを受け取り崇雷に近づいた。
あんなにも美しかった崇雷の髪は今では荒れており、乱は悲しくなりながら崇雷の髪を梳き、髪飾りを整えた髪へと置いた。
三日月はその様子を見届け、崇雷の視界の入らない場所へと移動した。


実はこの髪飾り、ただのお揃いというわけではなかった。霊力の必要以上の流出をに絶つものであった。男士を維持・疲労回復するといった必要最低限の流出のため崇雷の体力やその他諸々回復するが、それと同時に男士達の傷を治すことができなくなるのだ。だから始めは三日月がこれを使うのも躊躇したし、ギリギリまで悩んでいたが、背に腹は変えられない。三日月は男士達に予め説明し、崇雷がある程度回復するまでは出陣はしないよう、根回しした。男士達は崇雷を亡くしてしまう事を避けるためにその事を了承した。

次の日からは霊力の流出を防いでいるため、寝不足ではあるが少しだけ回復の兆しを見せていた。今は、一人で立って一人でしなければいけないことをすることができるようになっていった。

そして前任の記憶の影響か、崇雷が手入れを始めると人並みに手入れができるようになっていた。前任のモノと比べると劣るが、まったく出来ないよりは断然ましである。
崇雷は三日月から送られた髪飾りが霊力を制御するためのものだと知らされず、崇雷も三日月を近くに呼ぶことができない寂しさから好んで付けた。

崇雷は自身の霊力が制御されていることに気がつかなかった。
怪我をしたらすぐ手入れをするようになってしまったため、
霊力の流出が収まってくれたことは、全員が健康になったと思ってしまっていたため、


だから、失念してしまっていた。
まだ、自分の目の前に現れていない一振りの存在を、
まだ、治していない存在を、
まだ、記憶を引きずる存在を、






前任が、
愛していた、三日月を

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