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「崇雷ー!今帰ったぞ!朗報だ!遅くなったが、」 「おおー!三日月!お帰り、ご飯にする?お風呂にする?それとも俺?」 「崇雷にするーっっん!?一期一振、恵から離ぬか!」 元気よく障子を開け、入ってきたのは崇雷に任務を任されていた三日月だった。朗報を携えていたのか、爺とは思えない軽やかなステップでの入室だった。しかしそんな気分も三日月は早々に吹っ飛んだらしい。崇雷の近くに他の男士は来ないと思っていたのに、何故、敵対しているはずの一期一振が居るのだと驚愕し、声を荒らげて詰め寄る。 「三日月殿っ、誤解です!私は恵殿に害をなそうなんて思っておりませぬ!」 「この状況を誤解だなんてよくも抜け抜けと申せたな!」 「この状況?」 一体何に対して三日月は怒っているのか。ただ、ソファーへと移動させてもらっただけなのだが、はてさて? 「どうして恵はそんなあられもない格好で一期一振を近づけているのだ!恵よ一期一振を誘惑しておるのか!俺というものがありながら!俺だって恵に誘惑されたい!むしろ誘惑したい!と言うかしてるのに気づいてくれないのだ。悔しいぞ。俺の色気が足りないのかっ!でも気づかない恵可愛い!」 あられもない格好と言われて気づいたが、五虎退の虎達を懐に入れて一緒にお昼寝した後、襟元が肌蹴ててしまった事もさして気に止めず、対話をしたというだけだ。そこに色気もくそも何もない。下心を抱かない両者によってことが進んだのだからしょうがないとも言える。 下心のある輩が見るとそんな光景に見えたらしい。下心のある輩が見ると。 「ああ、虎と一緒に寝たから…三日月。」 「…なんぞ?」 「浴衣、直してちょーだいな?」 「っ…恵あざと可愛いっ…!」 崇雷が甘えた声で言ってしまえば三日月は機嫌をすっかり直し、崇雷の浴衣を整え始めた。四コマのような急激な展開についていけていなかった一期一振は言葉を挟むこともなくどうしましょう、とその場に立ち尽くしたままであった。 「えっと…。」 「ああ、一期一振。弟達のところへ帰っていいんだぞ?こいつは…うん。放っとけばいいし。お前らに危害は加えさせないし。安心しておけ。」 「あ、…はい…では弟達の所へ戻らせていただきます。では、なにか御用があればすぐに馳せ参じますので。」 「ありがとう。」 崇雷は一期一振に声をかけて、その声に従って一期一振は広間から出て行った。 「恵…崇雷ー…。」 「三日月…三日月ぃ。」 「なんぞ?」 「お前こそなんだ。」 「…俺が一人で太刀達の懐に潜り込んで一生懸命説得してたのに。」 「うん。」 「それで少しでも信頼を得るために、軽く出陣してきて、崇雷の指導は理にかなってることを証明して。」 「うん。」 「太刀達の誤解も解消して、次からは崇雷の言葉に耳を傾けると言ってくれて。」 「うん。」 「その朗報を携えてきた俺に、なんたる仕打ちっ!崇雷の鬼畜生!」 「ははは、すまないな。三日月。けど、ありがとう。頑張ってきてくれて。出陣してきても無傷で帰ってきてくれて、俺はとても嬉しいよ。嬉しいことばかりだ。」 「崇雷は…一期一振と何を話していた?」 「一期一振を味方に付け、短刀達に懐柔出来るような立ち位置を作った!あとは、向こうから懐いてくれるのを待つだけの簡単なお仕事でーす。」 「ほう!では、このようなトゲトゲした空間を味わうのは最後ということだな!」 「ああ、そういう事だ。欲を言えばこの霊力垂れ流しを止めることが出来る事態になったらもっと嬉しいな。」 「その幸せはとっておこうぞ。一度に溢れんばかりの幸せを感じてしまったらあとは地獄だぞ。」 「…そうだな。前途多難だな。」 |
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