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「菊ちゃーん、遊びに来たよー。麗しのお兄さんだよー。早く出てこないと脱いじゃうよー。」 フランシスは開国したばかりの菊の家に訪れていた。訪れた理由は、フランシスが個人的な理由でだと思われた。しかしそれは違う。私的な理由だと思わせての訪問を上司から言い付かったのだ。 『アルフレッド・F・ジョーンズ、アーサー・カークランド、フェリシアーノ・ヴァルガス、ロヴィーノ・ヴァルガス、ルートヴィッヒ、ギルベルト・バイルシュミット、アントーニョ・ヘルナンデス・カリエド、マシューが消息不明になった。日本へ行ってから姿を消しているため日本へ行って確かめてこい。』 というものだった。調べるにも軍を派遣することは国交問題に成りうるから、比較的自由に動ける国が最適だったのだ。 フランスにとって断ろうとすれば断れる命令だった。それをしなかったのは、日本にまた会いたいという個人的なものも少なくはあったが、身近な国々が居なくなり危機を感じ動いた。即ち本能的なものだった。 せっかく仲良くなった菊ちゃんを疑うのは癪だけど、これはもう異常の域だよね。今までこんなことはなかった。回りの国が挙って居なくなるなんて、菊ちゃんには悪いけど少し探らせてもらいましょーか。 フランシスが一人気合を入れ直していると、扉の向こうから小さな足音がする、菊のものだ。久しぶりに会う菊はどこか変わったっ所はあるのだろうか。 「もう、フランシスさん。普通に呼んでください、脱いだら警察につき出しますよ。」 久しぶりに会った菊は、少し八つ橋が破れていた。 「久しぶりー菊ちゃん、元気してたぁ?」 「あ、はい、文明開化したての皆さんの活気で何時もより元気です。今の爺にならなんでもできる気がします!」 「そっかぁ、それはよかった。」 「立ち話もなんですからどうぞ中へ。」 そう言って日本はフランスを客間へ通した。その客間からは綺麗に整った外の庭が見えとても美しい風景があった。 別に変なところないよなぁ。アーサーも誰も居る気配ないし、やっぱり菊ちゃんの所へ行って居なくなったっていうのはただの偶然かな。まぁ一応聞いてみるか。 「粗茶ですがどうぞ。」 「ありがとう、菊ちゃん……庭、綺麗だね。お兄さんの家とはまた違う美しさがあるよ。」 「ありがとうございます。あれ、私の趣味ですよ。昔からある文化で、砂に線を絵描き、自分の気持ちに合わせて庭を整えているんです。今の私の気持ちはとても、充実していますよ。開国をしてよかったと思っています。」 「そう…綺麗なもの、お兄さんも愛でちゃうよ。でさ、今日俺が日本に来たのは菊ちゃんに聞きたいことが有ったからなんだ………菊ちゃん、アーサーとか今何処に居るか知らない?」 フランシスは雑談を早々に切り上げ、本題に移った。 「そうそう、綺麗と言えばフランシスさんに見てもらいたい物があるんですよ。」 「ねぇ、菊ちゃん。」 本題に移ったはずだった。 「見てください、日本人形です。」 「菊ちゃ――。」 おかしい、菊はこんなにも話が噛み合わないものだっただろうか? 「この日本人形、私が作ったんですよ。」 「おい…。」 「珍しいでしょう?だってこれ――。」 「いい加減にしろ!」 フランシスはついに怒鳴った。いつも茶化すような態度でものを言うフランシスからは想像しにくい声だった。 「菊ちゃんどうしちゃったんだよ!」 フランシスは大声をあげ、菊に問い詰める。しかしその菊は自分が持ってきた人形を見ている。ジィっと愛でるように、見つめている。 「俺の質問には答えずに、意味の分からないことばかり言って…俺の質問に答えろよ!」 菊は此方を見ない。 「もう一度言う、アルフレッド・F・ジョーンズ、アーサー・カークランド、フェリシアーノ・ヴァルガス、ロヴィーノ・ヴァルガス、ルートヴィッヒ、ギルベルト・バイルシュミット、アントーニョ・ヘルナンデス・カリエド、マシューが消息不明になってんだよ。」 菊は反応しない。 「日本に行ってから分からなくなってる。俺は、俺等は菊ちゃんを疑ってんだよ。どうなんだ?菊ちゃん…答えろよ!」 「五月蝿いですよ。耳障りです。」 菊はフランシスが求める答えを答えるわけではなく応えた。纏う雰囲気は氷のように冷たく、さっきまでの春の様な雰囲気はこれぽっちも無かった。まるで別人になったようだった。元々、この様な雰囲気を纏う国だったのかもしれない。今までの春の様な菊が演じられているものだったのかもしれない。 |
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