アルボース |
拝啓神様。 白石蔵ノ介に成り代わった香織です。覚えていますか? なんでこうなった。つくづく思う。 いや、確かにテニスの王子様の誰かに変わらせてやろうって神様に言われて「四天宝寺がいいです。」って言ったのは私がけどさ。なんで白石なの?私のmyフェイバリットキャラなの!?信じられない!私が白石になっちゃったら白石とイチャラブ出来ないじゃん!出来れば謙也とかに成り代わって白石と仲良くしたかった…。金ちゃんでもよかった…「毒手やで?」って言われてみたかった。…私はドMってわけじゃないのよ? 乙女の夢でも不可能なことはあるのね。 あ、唯一の救いは白石香織として成り代われたことかな、もし男として生まれてたら…って思うと、無理。男の汚いとこ知りたくないもん。 そして私は夢小説によくある「強かったら女子でも男子の方で色々練習していいよ。」というとても都合のいい規則が存在したから、男子テニス部の部長をしてる。ここは原作通りなんだよね。だけど不二に勝つ自信なんて塵一つ無いけど。 「白石ー、部活行かんのか?」 只今、放課後。同じクラスの謙也が声をかけてきた。 「あー…ちょっと保健委員の仕事やってきたら行くけん先行っといてや。」 「なんの仕事や?」 「アルボース入れ。手伝ってくれてもええで?」 「あぁ…じゃ先行っとくわ。」 謙也が逃げた。 「手伝ってくれへんのか。」 宣言通り保健室でアルボースの原液を受けとり、その辺の水道場で薄める。 「香織ちゃんやないの、なにしとん?」 「白石やないか、部活は来んのか?」 「小春に一氏か…いや、保健委員の仕事済んだらすぐ行くで?自分らは?」 「俺らは図書室行ってこの本返したらすぐ行くで。」 と言って見せてきたのは「漫才、上級者向け〜これで君も日本一!?〜」だった。 「……勉強になったか?」 「や、あんまり…ぶっちゃけこんなん読まんと小春と俺だったら世界いけるわ。」 「ホンマねぇ、そうや今度は和英辞書借りましょうよぅ。なんでやねんって英語でなんて言うんやろな!」 「ホンマや、借りよ借りよ。世界目指すでぇ!」 「やん、ユウ君…漢前☆」 「…英和辞書やこ借りんでも個人で買わされたやろ。ちゅーか授業でよう使っとるやん。」 「「香織ちゃん(白石)がツッコんだ!」」 「さっきのはツッコんだのにカテゴライズされるんか?」 「白石の今のレベルだとカテゴライズされるわ。」 「そうよ、香織ちゃんもっとボケたり、ツッコんだりせな!」 「……。」 もともと私はそんなキャラじゃないもん、ダラダラ喋ってオチなんて一切無いつまらない子だったんだもん。そんないきなりボケろ、とかツッコミしろって言われても無理。 「じゃ香織ちゃんも早く部活来てな。」 「おん。」 二人を見送った。 二人を見てると楽しい気持ちになるから…いいや。でも、大戦中に漫才をするのは…止めて欲しいよ。笑いのツボが浅すぎる私にとってあれは鬼門でしかないよ。するなら他の学校の前だけにしてほしい…無理か。 そして、学校内を歩きだす。 只今一階。 「白石はん。」 「お?銀さんないか?なんや?」 「ここのアルボースが無くなっとるんや。入れてくるから貸してくれへんか?」 「えよえよ私入れとくから、銀さんは早よ部活行き。」 「…男子トイレのなんやけど…。」 「……頼むわ。」 アルボースの入った容器を銀に渡した。 流石に男子トイレには入れないというか、入りたくない。誰もいなかったら問題ないんだろうけど…なんかやだ。銀さんが居てくれてホント助かった。 そして入れ終わったのかトイレから出てくる銀。 「ありがとな。」 「かまへん。じゃ、わしは部活行くわ。」 「おん、後でな。」 只今二階。 「おー、白石。委員会の仕事か?偉いなぁ。」 オサムちゃんに話しかけられた。隣には小石川も居る。 「まぁな、どっかの誰かさんとは違って私はちゃんと仕事するで?」 「なんや?千歳のことか?」 お 前 の こ と だ よ! 「小石川、このおっさんを部活に引きずり出してな?」 「お、おん。」 小石川の顔が少し引きつっていたが、目の錯覚だと信じておこう。 「財前、こんなとこでなんしょん?」 ここは四階へとつながる階段で財前はその踊り場に座っていた。同じ段まで上がって話しかける。座っていたから目線は見下ろす形になった。 「…別に部長には関係ないっす。」 ケータイをいじりながら答える。香織もポケットからケータイをとり出し、いじり始めた。 「何々?『階段なう。部長のスカートの中見えそう』…ってなんてことツイートしてやがる。」 「…なんですか、なんで部長が俺のアカウント知っとるんですか。」 「ヅイッターって個人情報駄々漏れなんやで?気ぃ付けや。」 「…っす……。」 アルボースが入っていた容器も空になり、これで部活に行けれる。が、香織は屋上にやってきていた。 「千歳ー、居るんやろ?出てきー。」 「……なん?」 香織が呼びかけると、千歳が物陰から出てきた。 「もう部活始まっとるで、もう行かな。」 「んー…白石も部活行っとらんね。」 「私は保健委員の仕事中や。それももう終わったし、これから私も部活行くで?」 「…部長直々の呼び出したい。ここは従っとくばい。」 頭をポリポリかきながらダルそうに言う。 「なんやその言い方、めっちゃトゲ感じるんやけど。…しゃーない、そんないやいや部活に出る子にはこれはやらん。」 「なんね……ッ!?」 千歳が香織の方を見ると白石の手の中には何とも可愛らしいトトロの携帯ストラップがあった。 「いらんのんやったら由香里にやるし、張り切って部活に出てくれるんなら…コレ、やるで?どや?」 含み笑いを浮かべ千歳を見る。 「やる!やるから、欲しい!」 ……大型犬がいる。 香織はトトロのストラップを千歳に渡し、千歳は部活へと向かった。香織は容器を保健室に戻してから部活へと参加した。 「白石ー!やっと来よった、早よ、金ちゃん止めてや!」 謙也が香織に向かって助けを求めている。テニス部内での問題児が暴れてるようだ。香織は一つ大きなため息を吐き、金太郎に近づいた。 「金 ちゃ ん。」 「ゲ…白石……。」 「ゲ、とは随分な挨拶やな。そんな子には毒手やでー?」 包帯をシュルシュルと解く。 「あ…ッあぁ……!毒手だけは堪忍!」 金太郎は叫んでどこかに行った。すぐ戻ってくるから気にしない。 「サンキューな!白石。」 謙也が後ろから肩を組んできた。 「…少しは私以外も金ちゃんを制御してみたらどうや?」 皆がそろって首を横に振る。 「ハァ……。」 「けど、俺らは白石のことめっちゃ頼りにしてんで!これからも部長頑張ってな!」 「当たり前や。俺は部長なんやから!」 拝啓神様。 白石に成り代わったことはまだ納得できませんが、この生活は楽しいので、感謝してます。 ――――――――――――――― 100000hit企画第5弾 ナナシ様リクエスト『白石成り代わり』でした。 勝手に♀化してしまってすみません…どうしても銀さんのあのネタがやりたかったんです…。実際には普通に入りますけどね。 |
<< TOP >> |