貴腐人紳士 |
まさか私がこの様な機会を与えられるだなんて、死ぬ直前の私には予想していませんでした。 あ、申し遅れました。柳生香織と申します。 皆々様が予想される様に、私は柳生比呂士の成り代わりとしてこのテニスの王子様に転生し育ってきました。 何故、私がこんなにも成り代わりだとか、テニスの王子様だとか、転生だとかそっち方面に詳しいのかと言いますと、生前の名前は梛木香織。属性:腐女子、でした。 こうやって柳生として生まれて、男として生まれて、健全な男の子として恋愛をこの人生で楽しんでやるぜ!と思っていたのですが、少々問題が起きました。 私は生前、女の子で普通に男の子が好きでした。それは普通の事です。そして、変な言い方になってしまいますが、今も恋愛対象として見てしまうのは男の子の方なのです。しょうがないじゃないですか、どんなに男として育っていても生前の価値観を変えることなんて容易ではないのですから。女の子とどんなにフラグを立てて、どんなに告白されたところで可愛いな、と思う程度で胸がときめくなんてことはありませんでした。 この世界の人が私は男の子と方が好きだと知ってしまったら差別の対象になってしまうでしょう。一般的に見たら私は性同一性障害、でしょうから。住み辛い環境ですね。日本は、 さて、此処まで話を伸ばしにのばして誤魔化してきましたけど、言いましょう。 私は仁王君が好きです。勿論、恋愛感情としてです。 ま、この感情は伝えませんけどね。こちらの事実を言って、避けられるのだけは避けたいところですし、避けられてしまったら、私のメンタルがもちません。 「のう、やーぎゅ。」 「はい?なんでしょう。」 私が今、居るところは図書室です。宿題を片付けているところに仁王君がやってきました。 「なんで女子にそこまで優しくするん?」 「それは私が紳士ですから。」 「でも告白ははっきり断っとるぜよ。」 「後腐れあった方があちら側にも失礼ですから。」 「ふーん…のう柳生、もしかしてじゃけどお前さん、ホモか?」 「!?」 思わず、過剰に反応してしまい椅子から立ち上がってしまいました。今の発言、どういう事でしょう。 しかし幸いなことに周りの人には聞こえなかったようで、私がいきなり立ち上がったことで起きてしまった大きな音に驚いています。視線が私に集中します。 「…図星か?」 顔が一気に熱くなります。きっと見るからに顔も赤くなっているでしょう。口元を思わず押さえてしまいます。私は仁王君からの質問にも答えずに図書室を飛び出してしましました。 「ちょ、待ちんしゃい柳生!」 ああ、なんという事でしょう。ばれていただなんて、もうどうやって接すればいいのでしょう。走って、走って、ここは校舎の端。あまり人が通らないところにたどり着きました。泣いてしまいそうだから丁度いい場所です。 「ふ…っ……ぅ…うッ。」 「柳、生!」 名前が呼ばれて振り返ってみるとそこには私の後を追いかけてきたのであろう仁王君が肩で息をしながら呼吸を整えていました。 「に、仁王君何故ここに!」 「何故って、それはお前さんが急にどっか行くけぇ。」 「…放っておいてくださいませんか?仁王君。今、仁王君の悪戯に対しても笑って許せそうにないので、そして…今後関わらなくてもいいですよ。気持ち悪いでしょう?」 「なんでそんなこと言うんじゃ!」 「だってそうでしょう?」 「じゃからって!」 「いいです、弁解なんてしないで下さい。庇わないで下さい。余計に惨めになってしまします。」 「…のう柳生。お前さん、分かっとらんじゃろう。」 「…何がですか?」 「何か月もダブルス組んどったんに、酷い話じゃ。」 「すみません…。」 「反射的に謝るんじゃなか。…まぁ、ええ。お前さんが分かっとらんと言うんは俺の気持ちじゃ。」 「…すみません、要領を得ないのですが?」 「その発言も予想済みじゃ。じゃから説明しちゃる。俺の好きな人の話。」 なんて仁王君は酷いのでしょう。私の失恋を確実なものにしてしまうのですか…。 「俺の好きな人はなー、一言言って、優しい奴じゃ。そのくせ向けられた好意は徹底して答えん。ただ単に近づいてくる奴がうっとおしから何かと思っとったけど、断るときの顔はどこか悲しげなんじゃ。勿論始めそれを見た時は変な奴じゃなぁって思っとったけど…いつの間にかそいつの全部を気にしていつの間にか惹かれとった。」 「そうですか、では私は応援しましょう。大丈夫です。仁王君が告白して断る人なんて居ませんよ。パートナーの私が保証いたします。」 「そうかの、じゃぁ遠慮なく。」 仁王君は私の腕を引いて、私を自分の腕の中へと誘いました。 「へ?」 「やーぎゅ、好いとうよ。」 「!?」 「やっぱり気づいとらんかったか。そんなに驚くなんてな。じゃけど焦ったわ。告白する前に確かめようとしたらお前さん逃げるんじゃもん。」 「…ッあんなこといきなり聞かれて、私は!」 「聞き方が悪かったことは謝るぜよ。俺も緊張しとったんじゃ。で、香織…答え教えてくれんかのぅ?」 「っ……わた、私も好きです。大好き、です…。」 「ほう、それは嬉しいのぅ。晴れて両想いじゃ。」 ニコリと笑う仁王君の笑顔はいつもみたいなニヒルなものではなく、ただ優しく微笑んでくれていた。 ―――――――――――― 500000hit企画第12弾 晧琳様リクエスト「前世で腐女子だった普通の女の子が柳生に成り代わり→そして仁王に惚れられる→ハッピーエンド(甘い系)」でした。 甘…?甘なのかっ!?甘なのだ!あまり腐女子設定を生かすことが出来なくて申し訳ないです。 |
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