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サンドリヨン[Cendrillon] 10


「孤、児ッ!?」

跡部に涙をふかれながら衝撃的な言葉を撫子は聞くことになった。

「やっぱ知らなかったな?」

「どういう事?」

「俺様はこのアトベ家に引き取られた孤児で、俺の付き人をやっていたカバジが本当の王子なんだよ。」

「ちょ、っと待って!でも昨日のパーティーは君の披露宴ぽいものだったはず…。」

「そんなの当たり前だろ?公の場で俺様が王子だと言ったらお前みたいなやつは俺を襲う。間違っても付き人を一発目から襲わねぇだろ。二重のトラップなんだよ。ここの王子は一人っ子だからな。王位継承者はカバジ…いや。ムネヒロ様しかいねぇんだよ。」

「そんな………。」

「俺と、お前、結ばれたって支障はねぇ。」

「私と、結ばれる?ケイゴと?」

「あぁ、俺はもう表舞台に立たなくてもいいと、ムネヒロ様から許可は頂いた。ムネヒロ様は強く生きると言ってくださった。」

「う、あ…嬉しいよ?嬉しい…。今、この時間が止まってほしい位。さっきまで不快でしかなかったこの心の鼓動を一つ一つ、もっと大切にしたい。私の心に刻みつけていたい。人を愛するってこういうことだったんだって、もっと味わいたい。」

「だったらその幸せに酔いしれればいい。それでもっと俺に酔えばいい…俺様に酔いしれな。」

「うん、うん……え、…あ?や…そんなこと言わないで!私の覚悟を、どっかにやらないで!私はアンタを殺すためにッ!」

先ほどまでそんな物騒な言葉は引っ込んでいたと言うのに、またもや現れる。撫子も無意識のうちにと言っても過言ではない。そう、12時というタイムリミットが近づいてきているのである。これを過ぎてしまったら忍足達の命が消されてしまう。

「…対価は、なんだ?」

「なんで…対価の事知ってんの?」

「有名だからなフェアリーゴッドマザーは、それなりに調べさせてもらった。」

「……対価は、対価は大切だった…違う、大切な、家族……ッ。」

「アーン?やっぱりえげつねぇな、そいつ。噂以上だぜ。」

「だから、だから、だから…ケイゴ王子、死んでよ。」

「………。」

撫子は背中に隠していたナイフを跡部の心臓へ突き立てようとする。だけど、そんなことできなかった。

「出来る訳、ないじゃん……愛してる人の心を止める事…できるわけないじゃん。」

撫子は刺すことをあきらめて腕に力を抜いた瞬間、跡部に手を上から掴まれ実権を奪われ、驚いている間にも、跡部は自らの心臓をめがけて振り下ろした。それから跡部の胸から流れ出る熱い赤い雫。撫子は両手でナイフと体の間から溢れ出てくるものを両手でこれ以上流れてこないようにと押さえつけた。

「ケイゴ!?なんで…ッ。」

「俺は、お前に殺されるなら…本望だぜ。お前の家族、大切なんだろ?その気持ち痛いほどよく分る…。どんなに嘘でも、注がれた愛情は本物だから、な。」

「だからって…私は……ケイゴの事も好きなのにッ。」

「来世で、また会おうぜ?待っとくから…そうだ、お前、そんな美しい黒髪してんだ…日系なんだろ?家族に貰ったシンデレラでも…同業者から貰ったサンドリヨンでも無くて…本当の名前はなんだ?俺は、その…名前で、本当の、お前の…名前を、呼びたい…。」

「私が、私の、本当の名前は、…撫子。……撫子・椿崎…っ!」

「撫子か……撫子、愛して、る…………愛し、」

最期まで言葉を紡いでから跡部は言葉を発さなくなり、目を静かに閉じた。

「ケイゴ…?ケイゴ!?……………やだよ…一人ぼっちは…。嫌よぉ。ケイゴ、やっぱり待たなくてもいいよ。今すぐ、私も逝くから。愛してる、ケイゴ。」

撫子は跡部の胸に刺さっているナイフを引き抜いてそれから跡部の両手にナイフを握らせその上から自分の手で支える。それから勢いよく自分の胸に突き立てた。
それからは二人もたれ掛ける様に、抱きしめあう様に…もう二度と、その場から動かなくなってしまった。




――
―――――


「んー…予定通りの……御伽噺だけど、やっぱり残念だな。」

その様子を城の外の森から窺っていたらしい滝と宍戸と鳳。撫子が命を絶つまでずっと待機していたようだ。それから全てのことが終わって跡部の部屋までやってきた。

「何が残念だよ。俺はこれでよかったって思ってるぜ?女にこの業は似合わねぇ。どんなに小さい頃からやってたからってこういう汚い仕事は男に限るって話だぜ。」

「死んでよかったって言いたいの?」

「マザー、そういう訳ではありません。この業から逃れるためには命を絶つしかないでしょう?殺して殺されて、それがこの業。」

「オオトリよく覚えてたね。てことで君達もいずれはああなるから。」

「承知の上です。だからシシドさんとタッグを組んでやってるんです。俺の命はシシドさんに預けてますから。」

「そう言うんだったら俺はチョウタロウに命を預けてるってもんだぜ。」

「あー…だから君達にはアンドレサンスって名づけたんだよ。さぁ、もうこの二人を運び出そう。そう言う依頼だ。ね?ムネヒロ様。」

部屋の扉に沿うように立っていた樺地に滝は話しかけた。

「ウス…ケイゴをよろしくお願いします。」

「うん、依頼だからね。ちゃんとするよ。代わりにこの子の家族を全面的に支援してやってね?」

「ハイ。」

その返事を聞いた滝は鳳に跡部を、宍戸に撫子を担がせ城から出て行った。


「で?タキ…これからどうすんだ?」

「ん?この二人を火葬しようかなって。」

「なんでまた?」

「どっかの宗教で火葬をしっかりやらないと生まれ変われないっていう説があるんだ。僕達は無宗教だし、その男も無宗教だから…こういう都合の良いようなことはしたくないけど…やっぱり何かしらやってあげたいでしょ?どうせ、お墓も作ってあげれないんだから。」

「………ハハハ、塵は塵に灰は灰に、ってか?シンデレラ…いや、サンドリヨン…皮肉だなぁ。来世ではこんな業には足突っ込んでんじゃねーよ。」







(―――…ァー、オギャー!オギャー!)
(なんて、勇ましい子。景吾と名付けましょう。フフ、笑ったわ。なんて可愛らしい子なのかしら。)

(―――………ギァー、オギャー!オギャー!)
(あなた、見て、女の子よ。名前は…撫子ってこの子にピッタリだと思わない?…あら?笑ったわ。この名前、気に入ったのかしら?フフッ。)





「さて、この物語はこれでおしまい。ケイゴとサンドリヨン…いや、撫子は来世で結ばれることが出来たのでしょうか?それは皆々様でお考えください。

テニス部による演劇『サンドリヨン』これにて終焉。」

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