短編置き場(刹那)

>>>近くなる星に(1st)


「名前」
その声が自分の名を呼ぶのは珍しい。振り返ると背丈のあまり変わらない少年がまっすぐこちらを見ていた。
「どうしたの、刹那」
「たなばたとはなんだ」
「たなばた?」
忘れかけていた単語はすぐに甦ってきた。そういえば、と今日の日付を思い出す。
「そういえば今日七夕だっけ」
「…………」
返事がないのは肯定と同義だ。
どうして刹那がいきなりそんなことを言い出したかは分からない。けれど普段から任務以外に興味を持たない彼がこんな些細なことを聞いてくれるのが嬉しかった。
「七夕は年に一回織姫と彦星が会える日なんだよ。あとは紙に願い事を書いて笹にぶら下げたりね」
「おりひめ、と……」
「織姫と彦星。恋人同士だけど年に一回、七夕にしか会えないんだ」
「何故だ」
「天の川が間にあるから」
その間には彼らの怠惰な結婚生活など色々な背景もあるのだけれどそれは割愛しておく。
「七夕に雨が降ると天の川が溢れて二人が会えなくなるってこと」
刹那は口を閉じる。この表情は理解できないものに対して向けるものだ。笑ってしまうけれど刹那の気持ちだってわかる。
私が小さい頃は何の疑問もなくその七夕の話を受け入れていた。けれどよく考えてみれば変な話なのだ。たとえ地球を覆う雲が雨を降らせようとも宇宙に広がる天の川には何の影響もないはずなのだから。
人類の技術の進歩によってこうやって宇宙に包まれることになれば尚更違和感を感じる。
「宇宙からは天の川見えないけどね」
実際に宇宙にあがれば広がっているのは塵ばかりだと分かる。だから刹那には勿論、アレルヤやティエリアには尚更理解できないだろうと思う。
けれど刹那は予想も出来ないことを言った。
「なら、心配は要らない」
「へ?」
「それにガンダムなら天の川も越えられる」
「はぁ……」
刹那の言葉に頭の中で真っ暗な宇宙を駆けるエクシアの映像が流れる。それは、たしかに格好良いものだと思った。
「エクシアで? 刹那が?」
「あぁ」
「見てみたいなぁ、それ」
何の道しるべもなく、過去の慣習を気にすることもなく進める彼は、きっと、とても格好良い。
思わず声をあげて笑った私に、彼は相変わらずの仏頂面で首を傾げた。







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