手紙を書こうと思う

フェルトが先程から書いている手紙はロックオンへのものだそうだ。
それをきっかけにして、ブリッジに張り詰めていた緊張の糸が緩まっていく。
クルー達が次々に口を開いた。
過去、本音、今まで守秘義務に守られていたものが何でもないことのように吐き出されていく。
「名前は何もないの?」
いきなり話を振られた名前 は「は?」と声をあげることしか出来なかった。
話を振ったクリスティナは「だから、手紙を出したい人とかいないの?」と繰り返す。
「えー……」
最初に思い浮かんだのは家族の顔だった。
けれど不思議なことに今すぐに出したいとは思わなかった。
此方の世界に来てしまってから間もない頃はどうにか連絡手段はないかと必死に探していたのに。
「家族には書きたいと思ってるんだけど……。でも、書きたいこととか、まとまらなくて」
そっか、とクリスティナは笑った。
彼女はきっと家族に伝えたいことがあるのだ、となんとなく思う。
「伝えたいことがありすぎると逆に悩んじゃうよね」
それは此方の思いを代弁したつもりなのか、それとも彼女自身の思いなのか。
名前は頷きを返すと「でも」と口を開いた。
「伝えたいことはあるんだよなぁ」
その言葉を聞いたクリスティナは照れたように微笑んで「そうよね」と言った。


(届けられなくても伝えたいことがあるから)




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