あなたのその温もりだけが

俺は死ねば何も残らないな。
いきなりハレルヤがそう言ったので私は反射的に「そんなことないだろ」と返した。
具体的に何が残るのかなんて分からなかったけど何も残らないなんてことはないだろう、と思う。
けれどハレルヤは「それはアレルヤのもんだ」と言った。
「それはアレルヤが残すもんだ。俺のじゃねぇ」
「ハレルヤはハレルヤで、残るものがあるよ」
ハレルヤとアレルヤのことについてこうやって話すのは久しぶりだった。
普段はハレルヤともアレルヤともそれぞれ別の人間として接しているつもりだが、結局彼らには身体は一つしかない。
その事実はときに残酷に感じるが、今がまさにそのときだった。
けれど私は彼らを一人の人間として考えることは出来ない。
「ハレルヤが私にくれた言葉とか、一緒にいた時間とか」
「…………」
私の言葉にハレルヤは押し黙る。
「……けど」
暫くの沈黙の後、ハレルヤは口を開いた。
そろりと伸ばされた指が私の髪を鋤く。
「俺がお前に触れたことは、残らない」
「覚えてるよ」
「無理だろ」
「無理じゃない」
「アレルヤと同じなのに、か」
「違うよ」
頭にあるハレルヤの手をがっしりと捕まえる。両手で握りしめたまま胸の前へ持ってくる。
「ハレルヤに触られると幸せになるんだ、だから、私はハレルヤの手は覚えてる」


(私を幸せにしてくれたんだ。)




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