続 有り触れた日常



編入してから3年、高校3年生春の話


もともと勉強が好きだったこともあり、新しいことを学ぶのは全く苦にならなかった。
たしかにこの澄百合学園は、全く普通のことを教えず違法触法行為の役に立ちそうな知識を叩き込んでいる、頭のおかしい学校だ。けれど両親を殺した自分にはちょうど良い。今更常識から逸脱してしまったと嘆くつもりはない。
「子荻、少し教えてもらっても良い?」
「ええ、何かあった?」
学園に来た当初は子荻のことが少し苦手だった。
真面目で、融通のきかない優等生。聞き分けの良い手間のかからない秀才。彼女は、私が両親に求められた人間像そのものだった。だから、子荻を見ていると悲しくて、悔しかった。
羨ましいと思っただけではない。私が得られなかったものを手にしている羨望はあるが、私はそれらを煩わしいとも思っていた。だから、正直なところ彼女を見ていて苦しそうだと憐れむときもあった。
「名前、覚えはいいのにね」
「前の学校でも優等生だったから」
「褒めている訳ではないわ」
子荻に出会ってもう三年目になるが、色々あったおかげで今は親友と呼べるような位置にいると思う。果たして彼女の中にそういった存在が認識されているかは謎だが。
人を寄せ付けないように見えて、実際寄せ付けることはないけれど、子荻は懐に入れた人間に対しては甘い気がする。今もこうやって、突然やってきた私に勉強を教えてくれるし同室の子の面倒もよく見ている。
というか、あの同室の子は子荻にしか面倒がみれない。
「あれぇ、名前先輩? じゃないですかー」
「おかえり、玉藻」
初等部の頃から子荻と同室だった玉藻は、なんとなく、当たり前だが子荻にとても懐いている気がする。かなり言葉が通じないし意思疎通は難しいが、それに慣れてしまえば面白くて可愛い後輩だと思う。
「いきなりお邪魔しててごめんね。子荻に勉強教わってたの」
「はぁ……」
それきり玉藻は何も喋らない。このテンションは不機嫌でも疲れているわけでもない、この子にとって通常運転だった。どこか抜けている。抜けているというか欠けているというか。
「玉藻は? 宿題大丈夫?」
「宿題ですかー……んー……ゆ、らぁっ」
「ありゃ」
玉藻は私の質問に首をかしげた流れで、そのまま横に倒れてしまった。幸いその先にあるのがベッドだったので怪我はなさそうだ。
「んー……うーん」
「分からないなら仕方ないか。また困ったら子荻に教えてもらいなさいね」
「はぁーい」
「私が教えること前提なのね」
「だって私が教えられるわけないでしょ。子荻、お願い」
すかさず突っ込んでくる子荻に肩をすくめる。こんなふうに軽口を叩けるようになったのはいつからだろう。
「それに、私は私で一姫に勉強教えてるし」
「まぁ、それはそれで……」
子荻が苦いものを食べたような顔をしたので、それがおかしくて笑ってしまった。時計を見てみれば思ったより時間が経っていた。一姫はもう部屋に戻ってきているかもしれない。
筆記用具をまとめて立ち上がる。玉藻は反応が無いので、寝てしまったのだろう。
「じゃあ帰るよ。子荻、ありがとう」
「ええ、また後で」
やっぱり彼女は優しい。こんな風に傍にいることを何気なく許してしまうのだから。





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