サボりという名の逃避行


午前11時半、授業の真っ最中の時間に何をやっているのだろうと夏侯覇は溜息を吐く。
「おや、乗り気じゃないねぇ。それならこれも要らないかい?」
いつの間に後ろにいたのか、中庭に植えられた木の陰からひょっこりと現れたのは年齢不詳で有名な先輩だ。
「いやいやいや、そんなこと言ってないじゃないですか」
少しでも彼が焦りを見せると、目の前の小柄な少女はニヤリと笑ってみせる。可愛らしい外見からは想像もつかない笑みに薄ら寒いものを感じながら、夏侯覇はなんとか笑みを作って手を差し出した。目的は彼女が背中に隠し持つ、只の生徒では決して手に入らないものだ。
「吏熙先輩。約束ですよ」
「あーあぁ、可愛いねぇ仲権。そんなに此処から逃げたいかい? それとも、逃がしてあげたいのかと聞こうか」
「先輩っ」
「はいはい、さあ……行き給えよ」
二枚の転入届。氏名には彼自身と幼なじみの名前がしっかりと記入されていた。受け取った夏侯覇も、この書類が本物であるか否かの判断など出来る筈もない。それでも、この先輩がフェミニストだと事実だけでこれを本物だと信じるには充分だ。
「あ、ありがとうございます」
「礼など要らないよ」
吏熙は、この二枚の紙がどれだけの問題を引き起こすのか、それを考えるだけで愉快で仕方なかった。
「僕はあの理事長に一泡吹かせてみたいだけさ」
そう言うと、夏侯覇は何とも言えない表情をして、何を言うことも無くただ感謝の言葉を繰り返した。
早く行きなよぉ、と犬を追い払う仕草をすると、少年は嫌な顔もせず靴箱へ足早に向かった。きっとこれから相手と落ち合って外に出るのだろう。その背中が見えなくなるまで見送ってから、さぁ面白いのはこれからだと声を上げて笑った。
今更授業に戻る気などない吏熙は、空腹を訴え始めた身体のため購買に向かうことにした。中庭から購買へ続く渡り廊下の途中、授業中だというのに慌ただしく何かを探している教師と出会う。
「お疲れ様でーす」
「おい!夏侯と司馬は何処に行った!!?」
教師の怒鳴り声に大声で笑いたい衝動を抑え、吏熙は声高に告げた。
「あはっ、仲権も華南もサボリですよぉ」




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