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今年は暖冬らしい。
神無月も終わりになるのに未だ秋と冬が混在するような不安定な気候に、念のためにと着込んだ厚めのジャケットはやはり少し暑くて、脱いで隣の椅子にかけた。
肩のあたりが軽くなった事を実感しながら軽く首を回して改めて目線と意識を教壇に持っていけば、クリティカルヒット。壇上の佳人(笑)と綺麗に目があった。
相変わらず焦ったようにふっと目を逸らされて、本当にコミュニケーション能力ないなぁ、と思いながら苦く笑った。

全くもって一般的ではない一般知識の授業。最後の授業という事もあっていつもより大分生徒が多い。にも関わらず、相変わらず睡魔に敗北した戦士が数多く倒れている、どんよりとした午後の教室("教室"と書いて"戦場"と読ませたい)。

真っ白い無地のシャツに、黒縁眼鏡。
薄く品の良いストライプが入った黒いスーツに合わせるのは、ワインレッドのネクタイ。高めの声。若いとも老成しているとも言える独特の雰囲気。高くはない身長は、返って均整の取れた身体つきのストイックさを引き立てる。

生き生きとしている、と。
そう表現するのが適切かどうかはわからない。
ずっと見ていると、寧ろこれが彼本来のあるべき姿なのだと、言った方が良いような気もしてくる。
教壇の上で淡々と話す先生は、普段の教師スイッチが入っていないシャイな姿からは想像がつかないほど凛としている。

ただでさえ小難しい時事問題を取り上げる中で、いつもより少し早口で話す彼に事実ついて来られている生徒は、この空間に何人いるだろうか。
そりゃあね、前提の説明なしにガンガンに法律用語使っちゃったらみんなわからないよね、と呆れながらも、でもまあ私は楽しいから良いんだけど、なんて、そんな下らない自己満足が脳内を走る。

法令への造詣の深さ。
脳筋の回転の早さ。
底が見えないほどの情報含有量に、時々舌を巻く。

私がこの人に懐いてしまった理由が、なんとなく理解できる。
彼は、私が切望する道の遥か先にいて、自分との距離の遠さが自覚出来ているからで、と同時にそういう知識豊かな人になりたいと、思わせる何かがある。


決戦の日まで二週間。
未だ設定した合格ラインを踏み越えられていない。
でも真剣に勉強を始めたのは最近だし、一週間でこの成果は喜ぶべきなのか。微妙に悩んで、でもやっぱりもっと知識豊かになりたいなあ、と心底願う。

それは願望というよりももはやアイデンティティで。
私にとっての一生背負う指標で。
だからきっとずっとこの人を好きなんだろうな、と考えた。
私が、この人を越えるまでは、きっと、ずっと。


前から二列目の席から壇上の先生を眺めて。
早くこの人を嫌いになれたら良い、だなんて、恩師に対して失礼極まりない事を思い浮かべた。
動きが可愛くて少し和む。
今のところ、やっぱり彼を嫌うビジョンは見えないから、どうやら先の道のりはまだまだ長そうだ。



2011/11/05 22:53 At my old school with him


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