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拍手短文/20120201~20120731
光を望む10のお題(2)/配布sky forest sea

01: めざめのとき/巌徒海慈
02: よあけまで、あと/狩魔豪
03: はな、さきほこる/巌徒海慈
04: なないろ/ゴドー(長編カフェ設定)
05: まぶたにひかる/御剣信
06: なつ、はなびのした/神戸+大河内
07: ゆびのすきまからこぼれる/牙琉霧人
08: よるのそらにふりそそぐ/リト→(ベラ)→ろったま
09: ゆめのさきに/神乃木荘龍
10: ひかり、かがやく/牙琉霧人




01: めざめのとき/巌徒海慈

掌を透かすように夜空に浮かべてみる。
深い藍色は吸い込まれるようにどこまでも深く、底が見えない未知の畏怖と同時に酷く清廉な気持ちになる。
相反する感情。ジレンマ、というよりもアンビバレンツに近い。

「あ、こんな所にいたんだ。天体観測中?」
「――…まさか。こんな都会の真ん中じゃあ、星もあまり見えませんよ」

振り返った視線の先に、嫌悪感。
色つきのサングラスの向こう。碧玉の瞳がさも心配そうにこちらを見ていて。

虫唾が走る。
作り物の笑顔、作り物の優しさ。でも掛けられた大きすぎるジャケットは本物で、ふんわりとした暖かさが寒月の冷たさに慣れた肌に染みる。
偽者、でも本物。
勘違いしそうになる自分に、気持ちが悪い。


「さ、部屋に入ろ」
からりと、男が笑った。

枯木も眠る雪の夜。
綿あめみたいな溜息とともに、女はこの上なく鬱陶しそうに眉を潜めた。





02: よあけまで、あと/狩魔豪

モノクロームの空気が、菫色を過ぎて冷涼の蒼に移行する。
卓上の、スタンドライトの下。眼と肩を軽く揉んで、前髪を掻き揚げた。
印刷した資料に、曲がらないように印章を押す。同じものを全て二部ずつ。証拠書類への対応表も完璧。
思いつく限り、ベストを尽くす。
ミスは、許されない。

目蓋を閉じるまでもない。
目の前にくっきり浮かびあがる怜悧な色をした虚像を凝視する。
結局今日もお肌を犠牲に仕事してしまった、と独り苦く笑った。


夜明けまで、あと。





その人は、一見豪快に燃える太陽のような笑みとは裏腹に、触れればすべてが崩れそうな空気を纏っていた。

冷たい熱気。
執着、固執。
自己愛めいた正義。
それから、確たる信条。イデオロギーと、言っても過言ではないほどの。

正しい、を絶対的に追求するあの後姿に、驚嘆し、眩惑され、めまいを感じていた。
それだけは、絶対的な真実だった。

03: はな、さきほこる/巌徒海慈


最終弁論の日。
傍聴席から見えるかつて憧れた後姿は、被告人席にあってもやはり在りし日と同じく燦々と不敵な引力を放っていた。
憧れだった人。翳りと無精が染み込んだ、独り身の匂い。
いつも通り、にこやかな笑みを浮かべていた。
言い訳じみた弁明は、一切なかった。

張り詰めた糸のような日々は、けれど、過ぎ去れば咲き誇る花のように色鮮やかで。
直視できぬほど眩しくて、想うだけできゅっと胃が痛んだ。





雨催いの、湿っぽい午後。
カフェに置く女性誌を購入して書店から出ると、ついに堪えきれなくなった空が大粒の涙を流し始めた。
昏い空の下に、涙の粒は一斉にコンクリートの箱に打ちつけ、和音を奏でながら路上に落下していく。
ピンボールのような、勢い。激しさ。

書店の軒先で、少し待つ。雨具は、持っていない。
自分の先見の明のなさを悔やみながら、はあ、と一つため息。
走り出そうと覚悟を決めて、ぎゅっと目を瞑って、再びあける。

それから、瞳が、見開かれる。


「ご苦労さん」
「――…うん」

長身のシルエットと、綺麗なバリトンボイス。
頭をぽん、と触れて、それから濃いグリーンの傘の影が頭上に広がる。

「この勢いだと、通り雨だな。すぐ止むだろうぜ」
「――なら、お迎えに来ていただかなくても大丈夫でしたよ」

可愛くない言い草という自覚はある。負け惜しみも多分ある。それから、認めたくない気持ちもある。この人を、また一つ好きになっている事に。

「ク…、うちの子猫ちゃんはせっかちだからな」
歩くスピードは、私のペース。ゆっくり、確実に。

「風邪でも引かれたら困る。――オレが、な」
「……」

魔法使いみたい、と小さく独り言を呟いた。
ふっ、と柔らかく笑った魔法使いさんの肩越しに、綺麗な七色が見えていた。

04: なないろ/ゴドー(長編カフェ設定)





「朝目が覚めた時、詩を作ることしか頭になかったら、あなたは詩人だ」
そう、オーストリアの詩人、ライナー・マリア・リルケは言った。

05: まぶたにひかる/御剣信

確かに、愛していた。
あの胸懐に突き刺さるような独特のさざなみは、生まれた初めての感情だった。でも、愛し抜く事は出来なかった。
だからこの痛みは、あの人を守れなかった私への、罪の証に違いない。

目が覚めて、真っ先に愛しい人の姿を想う。
目蓋の裏に微笑むその人は、今日も永遠に変わらぬ淡くて優しい笑みをしていて。
どんなに手を伸ばして縋ってみても、触れることは叶わない。

残酷なほど優しい、夢幻。





スカイラウンジからは、夜の真ん中に佇む完成したてのスカイツリーが良く見えた。
凄いな、と素直に感嘆を漏らすと、神戸は教師に誉められた子供のように大層満足げに、凄いのは今からですよ、と言った。

06: なつ、はなびのした/神戸+大河内


腹の底に低音が木霊する。
照明を落としたラウンジ内に、鮮やかな光の花弁は舞い込み、刹那に忙しなく散っていく。
隅田川から打ち上げられた大輪の華。殆ど同じ目線の高さで見られる花火に照らされて、横顔が浮かび上がる。少し無骨な匂いのする東京スカイツリーと、神戸の整った横顔だ。

「…綺麗だな」
「でしょ?だからぜひ大河内さんに見せたくて」
「だがこういうのは大切な人と見るものじゃないのか」
「だから、こうして見てるじゃないですか」


思わず眉間に皺を寄せて見つめた大河内に対し、神戸は悪戯っぽく、けれどやはり子供のように大層満足げな顔をして、カクテルグラスの縁のチェリーをつまみ上げた。





昔、家の傍の、向日葵の咲く小高い丘を遊び場にしていた。
まだ弟が身体も頭脳も子供で、私の後を疑うこともなく付いて歩いていた時分。
あの頃、パイロットになりたいと思っていた。
広くどこまでも自由な空に、憧れていた。疑うこともなく“これから”を信じていた。

07: ゆびのすきまからこぼれる/牙琉霧人

風の音。黒い無花果色の香り立つ太陽。
小さな窓に填め込まれた鉄格子の向こうに望む狭い空は、それでもあの頃と同様に気高く美しく在る。

手を伸ばしてみる。
指の間から止め処なく雲は流れていく。
夢は夢のままだから、きっと美しいのだと、己に言い聞かせて。

揺らめく飛行機の姿は、さまよう魂に見えた。
掴めなかったものは、多分、"未来"そのものだったのだと、遥か昔に気づいていた。





氷雨がまだ降る様な冷たい早春の夜だった。
窓ガラスをうつ音とラジオのノイズの後ろで、控えめなノックの音が聞こえた。
用心深くチェーン越しに開けた扉の向こうで、白銀色が濡れていた。

08: よるのそらにふりそそぐ/リト→(ベラ)→ろったま

熱湯を注ぐと瞬時に紅茶の香りが立ち込めた。
大柄な体つきを猫背に丸めて待っている姿は、普段の冷酷な権力者たる姿からは想像できないほど、儚くて弱弱しくて、綺麗だ。
色彩の抜け落ちたような白金の髪は、オレンジ色の蛍光灯と同化している。
淡い菫色の瞳。体温を感じさせないような白い頬が徐々に薄紅に色付き、それでようやく俺はそこにくっきりと引っ掻き跡が出来ている事に気が付いた。
それだけで、ああ、なんとなく事態を読み込めてしまって、小さく唇を噛んだ。
きっと、彼女と何かあったのだ、と。

「…有難う。美味しいね」
「いえ、お気に召して光栄です」

この逢引は間違いなく好ましいものではない。
拒まないのは、拒めないフリをするのは、言い訳に過ぎない。
これは傷の舐め合いでしかない。
そんな事は分かっている。

雨催いの空の向こうで、彼女が泣いている。この雨はきっと彼女の涙そのものなのだ。傍にいて暖かい紅茶を淹れてあげたかった。叶わぬ夢だ。





おとぎ話の眠り姫は王子様のキスで目が覚めると相場が決まっている。
でも現実はそんなに甘くはなくて、王子様だって性格上の好き嫌いはあるわけで。
だから目が覚めたお姫様と上手くいくかどうかはまた別の話なのだ。
彼ほどのイイ男なら、きっとサヨナラにも慣れているハズだ。


09: ゆめのさきに/神乃木荘龍


付き合い始めたばかりの頃、私のどこが好きなの?と彼に聞いた事がある。
恋の一時的なテンションは人の性格をも侵食するらしい。今思えば、全く自分らしくない女々しいやり取りに苦笑いすら込み上げる話だ。

気負いのない生き方が好ましいと、あの時彼は言った。
努力家で負けず嫌いで、でもそれを見せないように飄々と振舞う態度が好きだ、と。
その物言いが、酷くナルシシズムチックなものだったと、後から思い返してやっと気が付いた。


別れましょう、と告げた。
"いつもの場所"はテイクアウトもできるカフェの一番奥まったテーブル。精一杯背伸びをしてお洒落した初デートで、おまえはそのまま自然でも充分美人だぜと、言ってくれた人。それ以上目立ったら俺が困っちまう、と。
仕事で失敗をした時、らしくねえな、と笑い飛ばしてくれた。
嫌いになったわけではない。でも、だからこそ、後味の悪い別れ方はしたくない。

失う時はあっという間だ。だから失う前に手放す。
この選択肢は臆病だろうか。でもこうしないと私は彼に甘えてしまう。止める自信がなくなる。好きになっていく恋心を。

神乃木さんはいつもの白いマグを手に、一瞬険しい顔をして、でもすぐに仕方ないなと淡く微笑んだ。わかった、と彼は答えた。


そのマグのコーヒーを飲み干したら、私たちはもう赤の他人。

ありがとう、サヨナラ。そう、伝えた。
何度サヨナラを言っても、本当のサヨナラの辛さなんてきっと慣れる事はないのだろう。
王子様も、そうであればいいなと、ぼんやりと思った。






私と、一緒にいきませんか。
遠い空の向こうを見つめて、先生はそう言った。

10: ひかり、かがやく/牙琉霧人

バスは、陽炎の中を揺れるように動いていた。
頭上で勢力を振っていた太陽が西に逸れて、暖かい羊水のように世界を包んでいた。少しだけ空け放たれた窓から、まだ真昼の名残を含んだ風が吹き抜け、切ったばかり髪を浚っていく。後方へと流れていく街並みは、色褪せたオレンジ色で、昔の8oフィルムを思い出した。懐かしい匂いに満たされた気分になる。
古いロマンス映画。夏の夜に見ていたら、きっと酔ってしまうような。

すべての記憶は涙で濡れている。
このフレーズは、ああ、そうだ、昔見た古いアジア映画だ。
ノクターンみたいにゆったりと夜の静寂を埋めるように、でもエチュードみたいに技法的に。
パズルを組み立てるみたいに、繋げられたシーンは美しく、酷く切ない。すべての記憶は涙で濡れている。


私と一緒にいきませんか。
遠い空の向こうを見つめて、先生はそう言った。
私と一緒にいきませんか。
それは「行きませんか」なのか「生きませんか」なのか、それとも「逝きませんか」なのか。
答えはもうわかりっこないのに、笑えるね。当の昔に、自分の中で答えは出ている、だなんて。

バスは、陽炎の中を揺れるように動いていた。
残照のオレンジ色をした風が、切ったばかりの髪を浚っていく。
誰かは誰かを愛し、憎み、悲しみの果てに愛に帰結する。
悔恨と永遠に満たされぬ渇きは、愛そのものに他ならない。
すべての記憶は、涙で濡れているのだ。



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