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拍手短文/20110506~0629
光を望む10のお題/配布sky forest sea様

01: 髪を撫でる指/雪国兄妹
02: 包み込む光/罪門恭介
03: 優しい笑顔/東西組
04: 温かい場所/紅色同志
05: ひたむきな瞳/ばらとひまわり
06: 絵画のような風景/狩魔豪
07: やわらかい声/牙琉霧人
08: 抱きしめてくれる腕/信楽盾之
09: すぐ側にある呼吸/神乃木荘龍
10: 永遠の約束/巌徒海慈




「キラキラしていて、とってもキレイだね」

幼い頃、兄はそう言ってよく私の髪を撫でた。
手のぬくもりと優しい視線が、嬉しくて大好きで、天にも昇る気持ちになれた。
彼の指は、私に幸せを運ぶ魔法の指だった。
寒さも、空腹も、その前ではなんでもない事のように思えた。

01: 髪を撫でる指/雪国兄妹

あの頃から随分と遠くに来てしまって、彼はもう私に触れなくなった。
けれど、私は未だに髪を切ることが出来ないでいる。
それはきっと、一生不可能だ。





張り込み四日目。
夕食に手渡されたのは、某おじいさんで有名なファストフード店の袋だった。
車内で、充満するフライドチキンの香ばしさ。

「チリビーンズとフライドチキン以外の選択肢はないんですか?」
「張り込みのお供にチキン、それがテキサスの流儀だろ」
「いやいや、ここ日本ですし私純日本人ですから」

あー日中に堂々と外出して、お米が食べたいー、とごねる私に、その人は宥めるように言う。
「終わったら、ステーキにつれてってやるから」

02: 包み込む光/罪門恭介

「……テキサスの男は、使命感と女にはめっぽうヨワいんでしたっけ」
「正確には、惚れた女に、だ」

テキサスの降り注ぐ太陽みたいに、その人は歯を見せて不敵に笑った。





止め処なく吹き出る汗。整わない呼吸。
フェンシング用の剣がが二本、芝生の上に乱雑に放置されている。

「――…、つよく、なったじゃねえか」
紅玉の瞳を三日月に細めて、その人は感慨深そうに天を仰いだ。
「元騎士団の俺に剣で勝っちまうんだもんな、さすが俺の弟」

「――技術面では、まだまだ、及ばない」
「そりゃあまあな。でもなんにせよ、」

霞みがかった幼い頃の思い出の中と同じ手つきで、俺の頭を乱暴に撫ぜた。
「初勝利、おめでとう」

03: 優しい笑顔/東西組

強くなっても、身長を追い越しても。
それでもあの人は相変わらずあの頃と同じように、俺を優しい笑顔で見守るのだ。





持ち上げたフォトスタンドの写真には、弟妹に囲まれて笑う彼が写っていた。
暖かそうで羨ましくて。
だから彼と家族になれば、僕にもそれを分けてくれるものだとあの頃は信じていた。

「何してるアルか!餃子包むの手伝うよろし。働かざるもの食うべからず、アルよ!」
「今行くよー」

04: 温かい場所/紅色同志

結局家族にはなれなかったけれど、彼の弟妹をもう羨ましいとは思わない。
声を追ってキッチンへと足を向ける。
陽だまりみたいな笑顔が、そこで待っている。





古いコートに破れかけのマフラーをしていた。
北からやってきたその少年は、田舎じみてどん臭そうで薄汚れていて、けれど、飛び切り綺麗な紫水晶の瞳をしていた。
ヴェルサイユの華やかさにびくつきながらも、そこに譲れない信念の光をたたえて、
「ぼく、きみみたいになりたんだ」
と言った。

05: ひたむきな瞳/ばらとひまわり

永遠は、手に触れたら溶けてしまう雪のようなものだと知っている。
それでも、その瞳をずっとそのままでいてほしいと、そう願った。





その人は、胸懐に天上の火を秘めていた。
主神に叛き、それでも信念を貫いたプロメテウスの焔。
あの鋭い眼光は、胸のうちに燻るものを煽られる感覚をもたらした。

それは、宗教によく似ていた。
そして宗教家は、殉教して初めて聖人となれるのだ。

06: 絵画のような風景/狩魔豪

威風堂々と法廷に立つ姿は、さながら神聖なる宗教画のようだった。
決して消えない焔を残して、その人は"永久"となった。





よく響く、深みのあるバリトンの声。
その口調には、知識人としての理知的な個性と、絶対的な気高さがあった。
どんな気難しい老紳士であろうとおてんば娘だろうと、彼の声の持つ魔力の前では無力だった。

「おいで、」
と、私の名前を呼ぶ、情動の発露を引き起こすような緩やかな発音が、何よりも好きだった。
自分の名前を、生まれて初めて美しいと思えた。

07: やわらかい声/牙琉霧人

全てが、塗り固められた嘘であっても、恨めるはずなんてない。
耳に残る彼の声は、遅効性のアトロキニーネのように、私を蝕み続けている。





凍える寒さも、身を切るような冷たい風も、その人の腕の中にはきっと存在しない。

「オジサンとハグ、いいかな」
「…絶対にダメです」

08: 抱きしめてくれる腕/信楽盾之

捕らわれるわけにはいかない。
心地よすぎて、その腕の中だけが私の世界になってしまうから。
そうして、私は二度と、飛びたてなくなるから。





春に桜、夏に向日葵、秋にはコスモスを飾った。
寒椿を生けた小さな花瓶を、少しでも長生きさせようと日の当たる窓辺に置いた。
窓の外は白い世界が広がっていて、白い壁で囲まれた清潔すぎるこの箱の中に似ている。
消毒アルコールの臭いが染み付いた素っ気無い空間。真っ白すぎて拒絶されているような。

雪に包まれた静寂。
医療機器の電子音に混じって呼吸の音が聞こえる。
そうやって、ああ、ちゃんと生きてるんだなって実感できて、幾許かの安心をおぼえる。

09: すぐ側にある呼吸/神乃木荘龍

二度目の冬。
今でも時々、全部夢だったのなら、と、考えてしまう事がある。
目を開けたらコーヒーの香りがして、コネコちゃん、と声が聞こえるのではないか、と。
でも、それに意味なんてない。

「――…早く起きてくれないと、私、おばあちゃんになっちゃいますよ?」
問うてみる声に返答はない。期待してもいない。

夢でも現実でも、結局は同じものなのだ。
貴方がそこにいないのなら。
だから。





分厚いアクリル板の向こう側に見える人は、少し痩せてしまったようだが、それでも、記憶の奥に深く刻まれている虚像と少しも変わらないグリーンの眼光をしていた。

掠れる声で、「ずっと、待っていますから」と告げた。
呆れられるか、怒られるか。
けれど、推測していたそれらはなく。
にこやかに、なんでもないかのような軽快さで、彼は言った。

「ありがと。僕が出るまで待ってて」

10: 永遠の約束/巌徒海慈

死刑囚のくせに、嘘つき。
でも、分かっていても私は騙されるふりをし続けるのだ。


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