APH | ナノ



こんにちは、お元気ですか?
ふふ、こうやってきみにお手紙を書くなんて、ちょっとくすぐったいね。

えっと、最近とても暑くなりました。
外を歩くだけでも汗だくになります。でも、首都の夏はとても短いから、精一杯楽しむつもりです。

そういえば、きみとはじめて出会ったのも、首都の路地裏だったね。
ずぶぬれで、今にも凍えて死んじゃいそうだったのに、僕にはなぜだか警戒感を持たなかったんだよね。
きみに懐かれたこと、すっごく嬉しかったんだ。

きみの事は、一度も忘れたことがないよ。
金色の巻き毛で、目がクリクリしてて、すごく可愛い女の子だったね。
きみをつれて歩いているとき、きみと遊んでいるとき、僕はいつも誇らしかったんだ。
だって、みんながぼくを羨ましがるから!
きみはみんなの人気者で、みんなから愛されていたんだよ。知ってた?


―…ごめんね
きみが船に乗り込む日、僕は見送りには行かなかった。
ごめんね。
僕は、そう、勇気がなかったんだ。
きみに、きみに笑顔でサヨナラを言う勇気が。

すごく名誉なことだとは分かってた。
国のために、未来のために、とても大切なことだっていうのも分かっていた。
でもね、
それでも、
きみの旅立ちを、きみとの永遠のお別れを祝福するだなんて、
僕にはできっこなかったんだ。


その日、国民が興奮に沸き立つ中、
僕は、ちっとも素直に喜べなかった。

あれだけ、きみは僕を好いてくれていたのに、
あれだけ、きみは僕に懐いてくれていたのに、
ぼくは、
ぼくは、きみの運命を知っていたんだ。


アルミ合金の、身動きも満足に取れない気密室に乗せられた小さなきみは、
いったいどんな気持ちだったのかな。
いつもの訓練どおりに、
また帰還できるって信じていたんだろうね。
人類が希ってやまない未知の空間で、
音もなにもない世界で、
きみのナキゴエだけしか響かない世界で、
きっと、たったひとりぽっちで、すごくすごく淋しかったよね。

最後の晩餐、
チューブを通して押し込められるような状態だったから、
きっと満足に味わうこともできなかったよね。
睡眠薬と毒薬入りの食事を摂りながら、
薄れ行く意識の中、きみは最期に何を見ていたかな。
青くてまあるい僕らの地球を、美しいって感じられたかな。
そうだったらいいなって、ぼくは思うよ。


あれから、本当に本当にいろんなことがあったけど、
僕はなんとか元気でやっています。
今の上司さんはワンマンで凄く恐い人で、でも僕をとても大事にしてくれていて、とても頼りになる人です。
きみが聞いたらきっとびっくりすると思うけど、
彼のところとも、今はそれなりに上手くつきあっています。
…あいかわらず、ヒーローヒーローってうるさいけどね。
そうそう、彼のところのスペースシャトルが引退しちゃうとかで、僕のソユーズに乗せてほしいって言ってきたんだ。
だから、思わず値段を500万ドルくらい吊り上げちゃった♪
当然でしょ?
きみや、きみの同胞の命を土台に築き上げられた技術なんだから。

いつか、いつかきっと、
宇宙まできみに会いに行くよ。
きみが淋しくないように、たっくさん人を連れて行くから。
みんなで騒いだら、きっと寂しさなんて忘れちゃうよ。
あ、彼もいつも騒がしいから、そういう意味では役に立つかもね。
でも、ソユーズの中がハンバーガーくさくなるのは嫌だな、
うん、やっぱり彼はいらないや。


この手紙がきみに届くことはないけれど、
今日も星空を眺めながらぼくはきみのことを想ってる。
ぼくはいつまでもきみを忘れないよ。

ありがとう
ぼくの、最愛のお友達。





解説&あとがき


人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -