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1962年10月14日。
米軍スパイ偵察機はキューバ上空にて、ミサイル基地を発見。
アメリカ国家安全保障会議は海上封鎖をし、キューバ及び黒幕ソ連を交渉テーブルに引きずり出そうと画策する。

10月22日。ケネディ大統領はソ連に対し基地の取り壊し及び全核ミサイルの撤去を求める。これをうけ、キューバ革命の英雄でもあるキューバのカストロ首相は、キューバ軍の出動を表明。ソ連フルシチョフ書記長も米国の「隔離」には従わないと発表。

核戦争の脅威はすぐそこまで迫っていた。




『海上封鎖、ね。国際法で立派に戦争行為とみなされる行為だね』
「君は馬鹿なのかい?隔離だと言っているだろう」

ある時から、世界は俺たちふたりぼっちになった。

『よく考えたね、そんなくだらない言葉遊び。君らしいよ』
「全くだ。君がそんなだから、世界が核戦争の危機に晒されているんだぞ」

俺たちは車の両輪だった。
どちらかがブレーキを踏まない限り、アクセル全開で進み続ける。

『その言葉、そっくり君に返すよ。』

猛スピードで進む先になるのは、"破滅"だ。




その日、ホワイトハウスは多いに揺れていた。

受話器を置いた途端に鳴り出す電話。
同盟国からの状況を激励と状況を尋ねる声。
中立勢力からの叱咤や心配。

何も問題はない。あるはずもない。
絶対の正義を持った自分が世界を救ってやらなければならない。
正義が、ヒーローが屈服するなど、ありえるわけがないのに。

「ああ、もう!いいかげんにしてくれ!」
止まらない電話に苛ついて、電話口で怒鳴ってやろうと思っていた矢先に、聞こえた、高めの声。


『Здравствуйте。ふふ、忙しそうだね』
「Hello、君も、元気そうじゃないか」

嘘と欺瞞と、世の中の全ての悪を体言する男は、けれど、酷くひどく子供じみた語尾が間延びした口調をしている。
雑然とした危機的情勢の中、それでも平常どおりの語り口は賞賛に値すると素直も思う。と同時に、それがまた、胃の中が焼けつくような不快感をもたらした。
電話越しで見えていなくても、いかにも人畜無害な風貌で冷たく哂うのが目に浮かぶ。
その白い首筋を、皮手袋が軋むまで締めるのを何度夢想したことだろうか。

『僕は、世界を滅ぼしたいわけじゃないんだよ』
「偶然だな、俺もだぞ」

優しい声、優しげな台詞。
けれど、この世界はそんな優しくない。

「君が引けば万事解決なんだぞ」
『だから、それは君も同じでしょ?』

悪に満ちたこの世界に見透かせるものなどなにもない。
勝敗が決するまで騙し合うルール。
世界が奇麗事だけではないと、気がついたのはいつだったか。

「建前だけの奇麗事はno thank youだね」
『ふふ、君はせっかちだね』

ブレーキは踏まない。
相手が止まるまで、決して。
艶やかに笑う声。



「用件がないならもういいだろ?俺は忙しいんだ、君と違って!」
語尾の嫌味を強調して言ってやる。
どんな応答があるかと身構える。

しかし。
『君は、重ねてきた数え切れないほどの罪を自覚したことはあるの?』
予想外の返答に、一瞬考え込む。
これは、何かの裏があるのか。それともまたお得意の洗脳か。見え透いた言葉で油断を誘おうとしているのか。

「――それは、自分のことかい?」

『そういうと思ったよ』


電話越しに、鮮やかもと言える笑い声。
瞬時に脳裏に浮かぶ、冷めた笑顔。

『僕は好きだよ、そういう君が』

その作り笑いの裏側を剥いで、壊してやりたくなる。
気持ちが悪くて、吐き気がする。

「ついに狂ったのかい?君は」
『違うよ。ふふ、僕は弱い子たちの味方なんだよ』

艶やかに、絶対零度のぬくもり。


「空想みたいな使命、ご苦労様。憐れで可哀相なヒーローくん」
君は、ずっと僕を見ていれば良いよ、と。
そういって電話は切れた。

欲望を呼び覚ます、悪魔の声。
その白い首筋を、皮手袋が軋むまで締めるヴィジョン。
指が食い込んで、徐々に紫色に変色し、アメジストの瞳とお揃いになる。
甘美すぎてで、気持ちが悪くて、吐き気がする。

閉じた世界の中で、俺たちは見つめ合う。
眠る夢をもかき乱すような紫の視線。
殺して、やりたくなる。



ある時から、世界は俺たちふたりぼっちになった。

正義と悪。
二元論に良くある対存在。

嘘と欺瞞と、世の中の全ての悪を体言する男は、けれど、見えなくてもたやすく想像できる冷たい紫色の瞳で、酷く冷静に言ってのけた。

核を大量に持てば戦争を防ぐことが出来る。
核抑止論。
世界が滅ぶ核戦争の前哨。
だってはじめたのは、君でしょ?と。



知っているさ。
世界は"自由"でもなければ"平等"でもない。
だが、それが何だというのだ!

"公正"な競争の結果であれば、だれにも苦言を呈する資格などなく、本当に万人が規則正しく等しい、だなんて歪んだイデオロギーであって、それは不自然極まりない。

俺の守るべき、絶対の正義。



切れた受話器を戻して。
「俺も好きさ。殺したいほど、ね」




10月24日。ワシントンのソ連大使館職員は、ジャーナリストを介し米国務長官に伝言を届ける。アメリカがキューバを攻撃しないと約束するなら、ミサイルを撤去すると。

10月28日。米露間でミサイル撤去に公式に合意。
二大超大国はここからデタント(緊張緩和)に向けて努力をはじめることとなる。





殺伐成分自家発電!社会主義VS米型資本主義(=俗に言う「行き過ぎた資本主義」)をやりたかったのですが、きゅーば絡める必要性はなかったような…(ローリング土下座)
メリカの正義は色んな犠牲(弱者切捨てを一部容認してる)の上に成り立っていて、一応弱者の味方のろ様はそれを罪だと思ってるんだけど、メリカから見たら全部均一化するろ様の方が狂ってる。実際の罪はろ様の方が多いしね。
でも核に関しては確実に同罪で、それに気がつかないで罪を重ねるメリカをろ様が冷めた目で見てる。絶対に相容れないイデオロギーでありながらでも、世界はふたりだけだから幾分かの憐れみは双方持ってる。そんな感じ。

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