特別な日に
――辺りはすっかり暗くなっていた。
月明かりより明るい街灯に彩られたパスタリアの街を、駆ける女性が一人。
繁華街のとある店から出てきた彼女は、満面の笑みで行き交う人の合間をくぐり抜け、真っ直ぐに住宅街の方へと向かう。
露出は控え目にし、黒髪はポニーテール。赤縁の眼鏡を掛けた――言わば変装中のルカは、ラッピングされた小さな箱を大事そうに抱え、走る。
――今日は、クロアの誕生日だ。
何ヶ月も前からプレゼント選びに頭を悩ませ、何を贈るか決まった後は、店選びに多大な労力を掛けた。
人に聞き雑誌で調べ、わざわざ人目につく繁華街にある店を選んだのも、その店の評判故だ。
御子という立場からあまり人の多い所に行くのは好ましくなかったが、どうせなら最高の物をプレゼントしたかったのだ。
クロアは喜ぶだろうか? 驚くだろうか?
一生懸命選んだのだから、気に入ってもらえると嬉しい。
息が切れそうになるが、甘い想像がルカの足を休ませることをしない。
目的地が近付くにつれ、胸の高鳴りが激しくなっていく。
窓の明かりが無数に並ぶ通りから、見慣れたクロアの家を見つ付け出すと、優しい恋人の顔が頭に浮かんできた。
――大丈夫、きっと喜んでくれる。
ルカは上着のポケットから合鍵を取り出し、玄関の鍵を開けると、終始笑みを浮かばせたまま家へと転がり込んで行った。
「クロア、誕生日おめでとう!!」
*
――萌えないですか? 萌えないですね。
一応言っておくと、このSSSのポイントは“合鍵”です。合鍵って、同棲って感じですよね。良いですよね。
ちなみにルカの選んだプレゼントの中身は、皆様の想像にお任せします。
案外眼鏡かもしれません。
でも、店を選んで選んで選び抜かれた眼鏡なんて、一体どんな物なんでしょう?
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