もうやめよう……。

 ホントは私……貴方の事なんて好きでも何でもない……。

 ――今まで俺に嘘ついてたって事か!! 今まで好きって言ってたのは全部嘘
だったのか!?





生まれては別れにむかう
わたしたちのために





 神聖政府軍の飛行船に割り当てられた、小さな部屋。
 その窓からぼんやり朝日を眺めながら、ルカは昨日の出来事を思い返していた。
 クロアを騙して、無理に笑って――それで私は、一体何を得たんだろう。

「馬鹿みたい……」

 レイカを失って。クロアを失って。結局、得たものなどひとつもなくて。
 ため息すら出ずに、自嘲気味に呟いた。
 傷付いて、傷付けて。本当に馬鹿みたいだ。

 視線の先にあるのは、溢れんばかりに広がる橙。その輝きはまるで涙が滲んだ
かのようにおぼろで、美しい白い空と雲のコントラストも、どこか物悲しくて儚げだ。
 クロアも、同じ夕日を見ているだろうか。見ているとしたら、一体何処で、誰と見ているだろうか。

 自分から手放した温もりの大きさに、胸が痛む。 シュンはクロアも神聖政府軍に誘っていたようだが、きっと、クロアはクロー
シェを選ぶ。
 信じていた大鍾堂に裏切られ、クロアの負った傷も決して浅くはないだろう。
 しかし、騎士として、人として。クローシェはクロアのことを必要としている。
 優しい彼のことだ。きっと支えようとするだろう。
 こんな酷い女の居る所に、わざわざ来る理由は見当たらない。きっと顔も合わせたくないはずだ。

 そこまで考えて、ふと体が震えていることに気が付いた。
 ずっと動かし続けていた体が悲鳴を上げているのだという考えに至ったのは、
更にたっぷり2呼吸分の時間が経ってからだ。

 やけに現実感が感じられないのは悲しみのせいだと思っていたのだが、鉛のような瞼や手足の重さの原因は、単純な疲労と寝不足だ。
 そういえば、最近は緊張や延命剤切れの発作のせいでまともに眠っていなかった。

 ――少し、休もう。

 まだとても眠れるような精神状態ではないが、起きていても色々と考え込んでしまうだけでメリットは無い。
 無理矢理にでも眠ってしまおうとベッドに潜り込んで目を閉じると、遠くに聞こえる飛行船のエンジン音が心地良くて、ルカの意識は意外にも容易く薄れていった。


 そして――気が付いたら、ルカはミント区にいた。
 一瞬驚くが、目の前に広がる光景が見知ったものと若干異なっていることに気付き、これは夢だと少しの間の後に把握する。

 所々に破壊の爪跡が刻まれた、少し陰りの残る町並み。レイカが大鍾堂に連れ去られた後のミント区だ。
 懐かしさに任せ適当に町をウロついてみたが、自分以外に人はいないのか誰ともすれ違うことはなかった。

「あ……」

 徘徊の末、辿り着いたのは、住宅地のある一角。
 ぞわりと心の奥で何かが蠢くのを感じて、慌てて踵を返そうとした。
 しかし思いに反して、夢はルカの自由を奪い展開を急いでいく。

 やめて、見たくない!

 ルカの目に飛び込んできたのは、一件の家の跡地。
 その家を中心とした一帯は一段と崩壊の跡が激しく、目の前にある家の跡に至っては見るも無残な瓦礫の山となっていて、瓦礫の下に申し訳程度に見える家具類の破片が、そこがかつて人の生活の中心であったことを窺わせるだけだった。

 ぐにゃり、と視界が歪んだ。
 記憶がフラッシュバックする。

 父親がいなくなり、レイカが奪い去られた日の光景が次々と脳裏に浮かぶ。
 そして、その記憶が終わった先に甦ったのは。

 突然起きた爆発。
 折り重なる悲鳴。
 苦しむ女性と、それに向き合う男性。
 惨事の後、呆然と立ち尽くす黒髪の男の子。
 ――とうさん、かあさん……。


 次に見えたのは、ベッドシーツの白だった。
 急速に覚醒した思考が記憶の欠片を繋ぎ合わせていく。

 夢。

 じわりじわりと、目の周りが熱くなった。
 頬のシーツに接している肌が湿っぽくなっていく。
 胸の奥が、強く握り締められているかのようにくるしい。
 大好きな人を襲った、悲しい出来事の記憶。

「ゆめ……。クロアのお母さんが、I.P.Dを発症した時の……」

 クロアと自分が夢の中でダブった。
 そうだ、おんなじだったのだ。自分も、クロアも。
 大切で大好きな家族を失っていた者同士。

 可哀想なのは、決して、自分一人じゃなかった。


 ――なあ、ルカ。俺はこんな時ルカに、何をしてやれる?

 何もしなくていいよ……。

 ――でも、俺はルカの……。


「あ……くろ、あぁ……っ」

 自分の傷を隠すことに必死で、次第に思い出さなくなっていった相手の過去。

 同じ傷。
 それを乗り越えた強さとやさしさ。
 自分は、クロアのそんなところに惹かれていたのに。それを逆に利用していただなんて。

 ――嗚呼。
 自分は、馬鹿だ。

 こんなにも、こころが痛いのは。


 レイカと父をなくして空いた心の隙間を、ひとときでも埋めてくれていた彼。
 てのひらに残っていた大切なものも、もう、指先からすりぬけていってしまった。
 自分が振り払った。

「くろあ、ごめんなさい……っ!」


 ――レイカちゃん。
 少しだけ、あなたを助けられなかった悲しみと後悔を、忘れることをゆるして。








*



これってロアルカ? 書き初めから変形し過ぎて何が何やら。
こじつけっぽくなったかもしれない。

迷場面のルカを自分なりに書いてみたくて、牢屋のシーンから色々書いていったら文字量がハンパなくなって、前半3分の2だか4分の3をカットしました←
堪えがたい悲しみを癒すのには、大切なもののぬくもりが必要だと。
とりあえずそんな感じ。
ロアルカにしようとするとレイカの存在が薄くなって困る。

つーか、時間軸がよく分からん。
タイトルはZABADAKの歌から拝借。





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