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どうして俺は生徒会長なんてやっているのだろう。
就任した時はそんな事を思わずむしろ誇りに思っていたはずなのに、今では受けなければよかったと後悔している。
そうすればあいつに睨まれることもなかったのに。
痛む心に泣くことも無かったのに。

「憂鬱だ・・・。」

月に一度ある会議。
生徒会役員と風紀委員の話し合いという名目のそれは、今ではお互いの罵り合いの場となっている。
その都度俺は、後ろに委員達を控えたあいつに冷たい目で睨まれるんだ。
役員と委員の罵り合いは最終的にトップに立つ俺とあいつの舌戦に引き継がれる。
言いたくもない嘘であいつを詰る俺に、あいつは本音であろう冷たい言葉を返してきて、一方的に俺は傷つく。

本当、どうして生徒会長なんてものに就いてしまったのだろう。

だけど俺がこの立場に就かなかったら、業務上仕方ないとは言えあいつと会話なんて出来なかっただろう。
ただ遠くから見つめるだけで満足してしまったはずだ。

「会長、会議に遅れますよ?」
「遅れたらあいつら煩いよ!」
「早くいこ!」

双子に手を引かれ会議室へ向かって歩かされる。
俺は今からあいつに睨まれても耐えられるように心の準備をしておかなければならないのに、こいつらの暢気さと言ったら・・・。

「はぁ・・・。」

そもそも何故ここまで生徒会役員と風紀委員はいがみ合うのだろうか。
先代も先々代も通ってきた道だというが、前会長と前風紀委員長はその役職に就く前まではそこそこ仲の良い友人同士だったと聞いた。
それが役職に就いた途端信じられないくらい仲が悪くなったとか。一体何故なのだろう。

最初は俺が生徒会長になってもあいつと関わりが無かったのだから仲が悪くなるなんて思っても居なかった。それに、俺はあいつが好きなんだからいがみ合うなんてありえない、と思っていた。
なのに初顔合わせの時以来ずっと、俺とあいつは学園一仲の悪い人間になってしまった。

睨まれ続けて、それでも好きでい続けるのは…正直、もう、

「…疲れた。」

それでも嫌いになることなんて出来ないのだから、恋とは厄介だ。

「会長?大丈夫?」
「疲れたのー?」

どうやら俺の独り言が聞こえたらしい双子が手を引きながらも心配してくれる。
風紀委員が居ない時のこいつらは癒しなんだがな・・・。

「大丈夫だ、行くぞ。」

心配されるのは嬉しいが、原因は役員と風紀委員のいがみ合いと俺の精神的な問題だし、もうどうしようもないことだ。
今更この関係を変えるには遅く、この気持ちを棄てるにも遅すぎた。
仕方ないことだ、そう偽って自分を納得させる。関係を変える事も、気持ちを伝える事も出来ない癖に諦めることも出来なくて、免罪符を欲している。
臆病な自分を正当化させる為の、免罪符を。


「ちょっと風紀ー。」
「さっさとしてよねー。」
「「会長が疲れてるんだから!」」

会議という名の相手の粗探しも大方終わり、後は風紀の月の報告のみとなった。
風紀からの報告は大体委員長か副委員長が担当するのだが、今回は副委員長だった。あいつの声を聴くチャンスだったのだが今月は諦めるしかないようだ。当人は今日は一言も発さず鋭い瞳でこちらを睨んでいる。
その瞳に少し胸が痛んで眉を顰めた瞬間、双子が異様に好戦的になった。何故風紀に喧嘩を売る。

「会長が疲れてる?そうは見えないけどな。」
「いつも通りじゃね?」
「会長はただでさえ仕事が多いんだよー。」
「風紀・・・筋肉バカ、会長、繊細な人・・・比べ物に、ならない。」

双子の言葉に反応した風紀委員と双子の言葉を引き継いだ書記二人が睨み合う中、俺の心臓は止まってしまうのではないかと心配になる程速くなっていた。
先程まで睨み付けていた鋭い瞳が、今は伺うようにじっと此方を見つめている。
その瞳にはいつもの嫌悪感や侮蔑の意は無く、ただ観察するように俺を見据えていた。

「・・・・・・・・・風紀からは以上です。」
「それでは今月の定例会議は終わりとなります、お疲れ様でした。」

マイペースの副委員長が淡々と報告をいつの間にか済ませ、副会長が締めの言葉を言って会議は終了した。
それと同時にあいつは席を立ち真っ直ぐと俺に近づいてくる。
いつもならば俺もすぐに席を立つのに、この時ばかりはいつもと違って身体が動かなかった。ただ近づいてくる奴を見ている事だけしか出来ない。

「書類良く出来てんじゃねェか。・・・無理はすんじゃねェぞ。」

そう一言告げて奴は去って行った。

「かいちょぉー、だいじょうぶぅー?」
「かいちょ、顔真っ赤・・・。」
「まさか、熱が出たんじゃ!?」

顔が赤いなんて、そんな事は自分が一番わかっている。
でもあいつに労わりの言葉をかけられたのなんて初めてで、しかも書類について褒められたのも初めてで。正直嬉しすぎて泣きそうだ。

あぁ、どんなに表面上の仲が悪くても、やっぱり俺は。

「ッ・・・先戻る。」


心配する役員達と間抜けな面を晒している風紀委員を置いて会議室を出る。
この感情に嘘など吐けない。
少し優しくされただけで泣きそうになるくらい、俺はあいつの事が好きだ。

「・・・好きでいるだけなら、いいよな。」

迷惑をかけるつもりはない。だから告白もする気はない。けれど、想い続ける事だけは赦してほしい。
少しだけ浮ついた足取りになりながら、俺は生徒会室へと向かうのだった。





*end*
会長ぉぉお!!片想い!切ないよ!!
会長大好きな生徒会可愛いよー!大好きなくせに会長の気持ちに欠片も気づかない生徒会可愛いよー!!そして委員長のイケメン加減ね!ね!ふいに優しくするとか狡い!反則だ!やらしーぞ!←
とりあえず会長をイイコイイコしたいです。大丈夫だよ、きっと幸せが待ってるよ!

植草さん、素敵小説ありがとうございました!
これからもよろしくお願いします!




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