D組の不良たちが喧嘩している―――そんな垂れ込みが入って真っ先に飛び出していった泣く子も黙る鬼の風紀委員長。
見事な身のこなしで不届きな不良共をちぎっては投げちぎっては投げをしていたその男は、最後の1人が悪足掻きとばかりに振り上げた腕に、にやりと口角をつり上げた。
【委員長の計算】
「また君か!いい加減にしてくれ!!」
真っ白な部屋に響く怒鳴り声。普段の温厚な姿からは考えられない剣幕で怒っているのは、この学園の養護教諭である高橋隆文(タカハシ タカフミ)。
背が高く美形で白衣も眼鏡も似合う彼は、この特殊な男子校で生徒に人気の教師の1人である。
「こんなんどうってことねぇよ、ちょっと消毒してくれりゃいいから先生」
対して我が物顔でベッドへと座り高橋の怒りを気にもせず上機嫌に笑う美丈夫は、学園ツートップの1人、風紀委員長の倉掛健吾(クラカケ ケンゴ)である。
ついさっき乱された風紀を正しに行ったところ、それまで圧倒的な力の差を見せつけていたにも関わらず何故か最後の最後に一発顔を殴られてしまい、その時の怪我の治療のために保健室に来ていた。
「君はいつもいつもどうして長なのに最前線に出るんだよ…」
「俺が後ろで蹲ってたら他の委員に示しがつかない」
「そうかもしれないけど、普通は長ってのは後ろで指示だして最後に出てくもんでしょうが」
はぁ、と高橋が溜め息を吐くと、倉掛は不思議そうに首を傾げた。根っからのアウトドア派で内勤など興味もやる気もない倉掛は、もしそんなことになるなら風紀などやめると言い出しかねない人間である。
「自分で方をつけたいのはわかるけど、全てを受け持たなくてもいいんだよ。…ほら、ちょっとじっとして」
「冷たっ…、でも先生、俺は」
「こんなところに傷なんて作って…俺を怒らせたいの?」
赤く腫れた頬に湿布を張り終えた高橋は、そっとその頬を撫でる。それにぴくりと身体を揺らす倉掛ににこりと微笑むと、高橋はそのまま倉掛をベッドの上へと押し倒した。
ふわりと柔らかいベッドへと沈む倉掛。それに覆い被さりながら、尚も高橋は腫れた頬を慈しむように優しく撫でる。
「頼むから、もっと自分を大切にしてくれ…俺のために」
真剣な声音で告げられた言葉に、倉掛は目尻を朱に染める。
徐に眼鏡を外す高橋が憎たらしいほどかっこよくて、らしくもなく胸が高鳴った。
それでも―――…
「…ゃだ」
「え?」
「いやだ!」
「………は?」
え、今流される流れだったよな?めっちゃいい雰囲気じゃなかった?
ぶち壊された空気に思わずポカンとする高橋。しかしなんとか持ち直して睨み上げてくる倉掛を負けじと睨み返す。
「なんで?どうしてそんなこと言うの健吾くん」
「なんでもいいだろうが、先生には関係ねぇよ」
「健吾!」
ふぃ、と顔を背ける倉掛。そんな姿さえも可愛いのはズルいと思いながらも高橋も譲る気はない。保険医としても恋人としても、倉掛が傷つけられるのを黙って見ているわけにはいかないのだから。
「ねぇ健吾、なんでそんな怪我したいの?マゾ?」
「しつけぇよ!うぜぇ!」
「せめて理由言ってくんなきゃこれ以上お前が傷つくのは…!」
「…だって!」
しつこく食い下がる高橋に、倉掛の方が痺れを切らした。
「だってこうでもしなきゃあんたに会いに来る理由がなくなる!」
ぎらぎらと高橋を睨み付ける倉掛に、目を見開いた高橋。
瞬間沈黙が訪れる。
「……」
「……」
「…えっと、」
「そうじゃなきゃあんな雑魚の拳食らうかよ」
「え、じゃあわざと怪我して…?」
「こんなこと言わせんじゃねぇおっさん!」
ばふ、とうつ伏せに布団のなかに潜り込む倉掛は耳まで真っ赤。そして高橋の方も耳まで真っ赤。
「会いに来る理由って…別に、普通に来れば…いいのに」
「…風紀委員長が保健室に入り浸ってたら可笑しいだろ」
そうか、そういうもんなのか?とわけもなくはははと笑う高橋に、倉掛は更なる爆弾を投下する。
「変な噂とかたてられて先生が辞めさせられて、会えなくなるのは嫌なんだ…」
ぐりぐりとシーツに頭を押し付けながらもごもごと言う倉掛に、高橋は思いっきり抱きついた。驚いて拘束から逃れようとする身体をしっかりと抱き締める。
あぁもうなにこの子超可愛い…!
「俺も、俺も健吾にいつも会いたくてたまんないよ」
「そこまでは言ってねぇ!つか離せ!」
「わかった、大丈夫俺がなんとかするよ」
「は?なんとかするって…」
驚いて振り向いた倉掛の唇に、ちゅっと触れるだけの口づけを落とす。
「うん、なんとかしてみせるよ」
そう言って笑った男が風紀委員会の顧問になるのは、2週間後のことだった。
*end*
えだご様お誕生日おめでとうございます!
委員長受け!新境地開拓です…!
勝手に養護教諭でばらせちゃいましたてへ。あまりいいんちょ受けを読まないのでありきたりだったら申し訳ない…(′・ω・`)
こんなんでよければ貰ってやってください…!
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