gift | ナノ





ホストクラブに男がくるなんて稀の稀で。
きたとしても二次、三次会の勢いか、はたまた男漁りにきたオネェかゲイか……とにかく、まともな状態の男がココにくることなんて、それこそ俺が勤めはじめてからは一度だってなかったのに。


「はじめまして、タクヤです。今日はどうぞ……たのしんでいってください、ね?」
「Thank you. ゾンブンにたのしませてもらいマス」


それなのに……これは反則すぎるってもんだろう。

にこりと微笑めえば俺以上に色気たっぷりな笑みで応えられ、俺はひくりと口元を引きつらせた。



* * * * *



「ジーノさんって、すごく日本語が上手だよね。どこの国の人?」
「ハーフなんだ。にっぽんと、アメリカの。ヨーコ……ボクのmatherが、にほんじんで」


紫煙をくゆらせる唇が、また、ゆるやかなカーブをえがく。
少しだけ生えたあごひげがまた大人っぽくて、ついつい口元をガン見していたら……するりと目元をなぞられ、肩が跳ねた。


「ボクのクチ、なにかついてる?」
「ぁ……ごめんね。ジーノさんがあんまりかっこいいからさ、見惚れちゃってたんだ」
「ホント? うれしいナ」


そう言って、もともと少しだけ垂れてる目尻をさらに下げるジーノさん。俺らみたく人工的じゃないホンモノの青い瞳が、テーブルに置かれた小洒落たランプに照らされて幻想的な光を放った。

それがマジでかっこいい。なんて、いままでモデルにだって思ったことなかったのに。ため息までつきそうになっていた自分にカツを入れ、俺はジーノさんの肩にゆるく手を乗せて顔を寄せた。
……ジャケットの上からでも厚みのある肩が羨ましいとか、べつに思ってないし。


「それよりさ、なんでこんなとこにきたの? もしかして……ジーノさんって、ソッチ系だったりする?」
「ッハハ、チガウよ。こういうオミセにはいったのは、ただのコウキシン」
「なーんだ、好奇心かあ。でも、好奇心だけでたった一人でくるなんて逆にすごいよ」
「そう? あ、デモ……」


ケラケラと笑っていれば肩に乗せた手の甲に突如感じる―――ヒヤリとした冷たさ。

それが、たった今までグラスを持っていたジーノさんの手だと気づいたときには、さっきなぞられた場所に柔らかい感触がふれていて。


「ココにはいったのは、キミのシャシンにひとめぼれしたからダヨ」
「え」
「でもジッサイのキミは、シャシンよりもっといろっぽい。とくにこの……ナキボクロ」
「は、え…? ……っちょ、」


チュッ、なんて気障な音を立てて吸われたのが、自分の目元じゃなかったら。きっと俺は恋愛映画のワンシーンでも見てる気持ちになったんだろう、けど。


「ヨーコがいってた。ナキボクロがあるヒトは、いっしょう、コイビトになかされてすごすんだって」
「そ、れは……女の子の話で…」
「ボクならゼッタイ、タクヤをなかせたりシナイ」
「ジーノさ、……っ」
「だからボクをスキになって……」


壮絶な色気を放つ笑顔とともにふわっと香る、女の子とはちがうムスクの香り。
俺なんかじゃ足元にだって及ばない。正真正銘、本物の……“男”の香り。

いつの間にか抱き寄せられていた腰に食い込む指の感触が妙に生々しくてしどろもどろになりつつも、かといって他のお客様やスタッフがいる手前、変に騒ぐわけにもいかずそれこそ抵抗なんてできるわけもない。

結局そのときの俺にできることといえば……さっきまで透き通っていたはずの瞳が獰猛な色に染まりはじめたのを、ただ呆然と見つめるだけだった。





*end*
ふわ、 わああ、頂いて、しまいました……!なんてなんてなんて素敵なの!うわあああ…っジーノさんかっこよすぎて…!もうでろっでろに甘やかされちゃえば、いいよ……!本当に好きですやばい変な嗚咽が……っ
不知火さん、本当にありがとうございました!!




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