gift | ナノ


【崩れた花弁】


ひらり、と散る花に視線を奪われる。
「せんぱーい!」
能天気、とでも表されるような幾分聞き慣れてしまった明るい声が、下から響いてきてそちらに視線を向ける。
……見るのではなかった。
ジクジクと痛む胸に、思わず手をやる。
俺自身は一度も見たことのない、柔らかな顔で後輩へ微笑む親友。
男でもあいつの恋人にしてもらえるのなら、俺がなりたかった。そうしたら、あの笑顔を向けてもらえるのは、俺だったかも知れない。
……それは、もう叶わないものだ。今はもう、俺から近づく事は難しい。
心も、体も。
こうして、遠くから眺めているしか出来ない。
「ここにいたのか、会長サン」
掛けられた声に、ヒクリと肩が跳ねる。逃げ出したいが、その願いが叶うことはない。
顎に指が掛けられ、視線を横に来た見たくもない男へと、向けさせられてしまう。
男も俺が見ていたものに気がついたのだろう、ニヤリと性質の良くない歪んだ笑みをその顔に浮かべる。
「あァ、アレ。水泳部の新見を見てたのか。会長サンの大事な大事な親友の新見敦」
ごつごつとした手に肩を押さえられて抱き込まれて、鼻につくタバコの臭いと、鉄の臭いに眉が寄る。
「……っ」
咄嗟に振り払おうと体を捩ったが、難なく押さえ込まれてしまう。
「会長サンが俺のオンナになってるのも、あいつの為だって言うのに、当の新見はかわいらしい後輩とよろしくやってるなんてなァ」
くくくと耳元で笑い、腰をなでていた手が、ズボンのファスナーから進入する。
「やめろ……」
「いいぜ。その代わり、水泳部がどうなっても知らねえけど」
体を撫でていた手が、スルスルとシャツの間に入り込んで乳頭を引っかく。
感じたくない、知りたくもなかった悪寒に似たソレが背筋を這い上がる。
「……っ」
「健気だなァ、会長サン」
嘲りを含んだ声で揶揄され、くちゃりと湿った音を立てて、耳を嬲られる。
この男に、大事な気持ちも体も汚されてしまって、もう俺には親友の傍に居る事すら、できない。
そんなことを知らない親友は、屈託なく近寄ってくるが、俺が耐えられずに離れてしまう。
家という守護も、生徒会長という肩書きも、この男には何の壁にもならなかった。
そうやって何もかもがなくなった俺は、ただただ、この男の暇つぶしに貪り喰らわれるだけの生贄で居るしかない。
どうしてこうなってしまったのか、と与えられる感覚から現実逃避をしてしまう。
どうしてこの男に、新見への気持ちがばれてしまったのだろう。
どうしてあの時、校舎裏を通ったのだろう。
どうして。
どうして─……。

ひらりと視界を横切った花弁に、雫が零れた。





*end*
うっ…う、あ"っ…っっ…!!!
やばい、何か出そうです…全身からなにか滲み出てきそうです…ブルブル つらい…切ないうっうっ…こういうお話ほんと大好きなんですつらい…
会長報われると、いいね…幸せになってほしい…!(報われない片想いをリクエストしたの私だった…ごめんね…)

遊笑さん、素敵な小説をありがとうございました…!!




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