gift | ナノ





「邪魔だ!!ボケッと突っ立ってんじゃねぇよ!」



唯我独尊、厚顔不遜。



「ぎゃーぎゃーうっせぇ!騒ぐんなら黙って騒げ!」



眉目秀麗、頭脳明晰。



「俺の通り道に立つんじゃねぇ!!」



何様俺様?



「―――生徒会長様のお通りだ!!」






【純情な王様】






ザアアッと一瞬で捌ける生徒の間をズカズカと突き進む。
顔を赤らめ鼻息を荒くするチワワ。嫌そうな顔をしていなくなる不届き者。こちらを見つつあからさまにひそひそと噂話をするミーハー。
自分がすべてに受け入れられていないのはわかってる。一部に熱烈なファンがいるというだけで、大多数にとっては実際はこの性格ゆえ嫌悪の対象だってことも。



(そりゃあそうだ、俺の性格は最悪だしな)



あからさまに噂話なんかしてくれなくっても、自分の性格くらいよくわかってるさ。
しかしだからといって矯正するつもりなど欠片もないけどな。万人に好かれようとは思わない。自分が必要な人間だけが周りにいればそれでいい。

―――そう、確かに今まではそう思っていた。





「あっ会長だぁ〜」
「!」



開いた生徒会室の扉。
偶然扉のすぐそこにいたらしいぴょこぴょこと髪の跳ねた男が、ふにゃっと笑うのを、間近で見てしまって。



「あっ!ちょっと会長ぉ!?」



思わずそのまま、扉を閉めた。



「………」



なんっっっっだあれ!!なんだあれ!!!

ドッドッドッドッと激しく心臓が脈打つのがわかる。激しい動悸にあがる熱、目眩まで起こりそうだから、多分俺はそろそろ死ぬ。
俺が扉に背中でへばりついてるせいで、後ろでどんどん開こうとしてるのがわかるが開きはしない。落ち着け落ち着け。とりあえずこんな動揺した姿を見せるわけにはいかない。
吸って、吐いて、吸って、吐いて…。



(あぁ…しかしあれは、かわいかった)



思い出して、うっかりまた赤面。
やべぇな、この俺がペースをこんな乱されるなんて―――…



「会長捕まえたーっと!」
「う、お!?」
「ほら早く中おいでよ〜」
「ちょっ!わ、待て…!」



深呼吸して一瞬体を離した隙に、少しだけ開いたらしい扉。そこから伸びてきた腕が腰を掴んで引きずり込まれる。
あいつの腕が触れているのが俺の腰だというだけで、ぞわぞわとして体温が上がる。やばい、助けて。



「あはは、なんで逃げちゃったの〜?」
「逃げてねぇ!ちょっと落とし物しただけだ!」
「ふぅ〜ん?」
「腰から手を離せ!つーか他の奴らはどこ行ったんだよ!」
「んん〜落とし物かなぁ?」
「てめぇな!」



くすくすと笑いながら腕が離れていく。やばかった、今のはやばかった。本当にやめてくれ、俺の心臓が保たねぇからこのタラシ…!

しかしさらにマズイのはこの状況。
なんだこれ、こいつと二人きりとかなんの拷問だ!嬉しいけど!でも拷問だ!



「ふふふ、マジレスするとねぇ、みんな会議だよぉ」
「あ、あぁ…確かにそんなのあったな」
「会長も会計も関係ないから二人でお留守番っん〜」



鼻唄でも歌いそうなほど上機嫌に紡がれる言葉。
自分のデスクへと戻るチャラチャラした姿を盗み見つつ、俺も自分の場所へと戻る。



そう、なにを隠そう俺は、この見るからに軽そうな男に恋をしている。
最初はそんなことなかったはずなのに。他の奴らと同じように接していても、副会長のように怒るわけでなく、書記のように無視するわけでもなく。ケラケラと笑って取り合いじゃれてくれるこいつを、俺の視線はいつからか、追いかけるようになってしまった。

学園にはセフレばっかりで、来るもの拒まず去るもの追わずのゆるっゆるのチャラ男。副と書記とは違って、ともすれば俺と並んで生徒会の面汚しとも呼ばれるような人間なのに。



(なんで好きになっちまったかなぁ…)



こんなやつのために、殊勝になろうと思う自分がいる。せめてこいつの前くらい俺っぽくなくいたい、と。
だってこいつの好みは、キャピキャピふわふわのかわいいチワワ。

まぁ、百歩譲ったところであんな風にはなれないけども。というか俺様があんなんなったら気持ち悪いだろうな。



「んん〜お腹すいたねぇ」
「あ?あぁ、確かに」
「お昼食べにいこうかねぇ〜」



あ、そうか、今はもう昼休みなのか。
だからあんなにいっぱい廊下に生徒がいたし、あいつらは会議に行ったわけだ。なら昼飯食いに行っていいわけだな?食堂行っていいんだな?この状況から逃げ出せるわけだな?



「さてさてさてぇ、今日はどの子とたーべよっかなぁー」
「じゃあ俺は行って……る、ぞ…」
「はいは〜い!お先にどうぞぉ」



ひらひらと手を振るのを見つめ―――…しかしそこで、ぴたりと停止する。



(―――まて。まてまてまて)



これは、これはもしかしなくても、チャンスってやつなんじゃないのか?他の人間が周りいれば、二人きりより大丈夫がしないか?ん?んん?
するすると指をスライドさせて電話帳からランチの相手を探しているであろう会計。恐る恐る、口を開く。



「お、おい、昼飯一緒に行ってやろうか?」
「そだねー…って、え?えーっと?」
「しし仕方ねぇから俺様が奢ってやるよ、どうだ、一緒に来たいだろ?」



緊張のしすぎで口のなかはカラカラ。汗はだらだら。握った手はぶるぶる。心臓はどきどき。
対するは、ぽかんと間抜けに開いた口。



「えーっと、どしたの会長?」
「な、なんだよ!それでも不満か!?なんだっていいんだからな!デザートでもなんでも頼んでいいから!」



不可解だという顔をしてこちらを見る会計にわたわたと慌てる。なんだ、なにが不満なんだ!なにか俺は間違ったのか!?

なにかヒントはないかときょろきょろと周りを見回すも、これといったものは見つからない、わからない。えぇいわからん!こんな時は相手を見るに限る!と、ブンと顔をあげた。
と、入れ替わりに会計ががっくり項垂れた。わりと激しく首が折れたので思わずびくっとすると、ふるふると震えながら持ち上がってくる頭。



「…ふっくく、あはははっ」
「えっ?おいどどどうした?」
「なに、なにそれ会長あははっ!ヤバイよそれ食べちゃいたいくらいかわいい!」
「はぁ!?」



目に涙を溜めながら笑い続ける会計に、カッと顔が熱くなる。
最悪だ最悪だ最悪だ…!んな笑うことねぇじゃねぇか!勇気だして誘ったってのに!俺は別の意味で涙でそうだぞコノヤロウ!!



「やっぱなんでもねぇ!今のなし!忘れろ!」
「えっ?あ、ちょっと会長!」



あーくそ、知るか!もう知るかあんなやつ!大好きなんだよくそぅ!
チッと盛大に舌打ちをしてどすどすと大股で歩きだす。さっさと部屋を出ていこうとしたがしかし、すんでのところで手首を掴まれた。



「ちょっと待ってよ、ごめんね怒らないで会長」
「っ!」
「ただちょっと、会長が予想外にかわいくってビックリしちゃっただけだよぉ〜」
「はい?」



そう言ってくすくすと笑う会計に、ぴしりと固まる。
かわいい、だと?巷で最悪な性格と有名な俺に、言うに事欠いてかわいい、だと!?



「ふふ、お誘いありがと、すっごい嬉しい。ね、俺でよければ一緒に食べさせて?」



そう言って目の前でふにゃりと笑ってみせた男に、ボンッと火が点いたように真っ赤になった俺。
とりあえずこの昼休み、生き残れる気がしなかった。





*end*
るか様お誕生日おめでとうございました!!
会長アホっ子にしてしまいました…かっこいい俺様受けを求められてたらごめんなさい!そしてやっぱり私はギャグが苦手です…。

こんな物でよければ貰ってやってください!




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