「俺はね、会長」
薄暗い室内で、真剣な瞳が俺を見つめてきた。
「きっと、あんたが好きなんだよ。」
「…そうか。」
きっと、とか何でそんな曖昧なんだよ、とか、そんな軽口を叩けたらどれだけ良かっただろうか。目の前にあるいつもならヘラヘラしている顔を泣きそうに歪める男に、俺は何もいうことができなくて。
男の手が、ソロリと頬に触れた。
「何でかな、何でだろう。あんたなんか好きなタイプじゃなかったのに。」
ぎゅっ、と頬を触っていた手が背中に回る。
トクン、トクンと煩い相手の心音に、俺の心臓の音まで早くなっていく。
「いつのまにか、こんなにあんたを好きになってた。」
「…三井、」
「好き、なんだよ櫻井。」
櫻井が好き、そう言われて静かに目を伏せた。
「俺も、好きだ。三井のことが、」
もう一度だけ、今度ははっきりと、想いを伝えるように、好きだ、と口にするとゆっくりと三井の顔が近づいて…
「はいカットー!」
「ちっ」
「何舌打ちしてるんです会計。あなたさっき本当にキスしようとしてたでしょう!」
信じられないというように、会計こと三井を見るのは副会長の長谷川だ。
その長谷川の少し後ろでカメラをじっと構えているのは書記の村上で、先ほどまでの芝居は文化祭での生徒会の出し物だ。
いつもなら生徒会と親衛隊のお茶会とかやっているが、今回は一般生徒からの希望で生徒会役員で恋愛物のミニ映画を作ることになった。
内容は、会長のことを嫌いだった生徒会の役員が、会長と関わる度に、いつの間にか会長に惹かれていって、
でもそれを認めることが出来ず、戸惑いながらも、やはり自分の気持ちに向き合って、会長に告白するという切ない物語、らしい。
「いやだって、あんなチャンスもう二度とないし!せっかくなんだし、ちゅーぐらいしたいじゃーん!」
「…会長、こいつやっぱり会長の相手役させたらダメだと思います。」
「…くわ、れる!」
口々に異を唱える役員に俺のこめかみが引きつる。
これは決して俺が短気なワケではない、なんたってもうこの茶番に20回以上付き合ってやってるんだ。むしろ大海のような心だといっても過言ではないだろう。
このシーンをやり始めてから一体何時間経ったと思ってるんだこいつらは。
「おい、」
未だ言い争いをやめない三人に満面の笑みを向けながら声をかける。
「か、会長?」
「目が、笑ってないよー?」
「…っ、」
やっと俺の異変に気づいた馬鹿どもは一歩後ずさりながらも俺から目を離さない。
そのことに満足し、挑発的に唇の端を持ち上げた。
「これ、次で終わったらもれなく全員にキスしてやるから、早く終わらせろ。」
「…っ!!!!」
**********
俺の言葉を聞いてからいっきにやる気を出した三人がマッハで撮影を終わらせてキスを強請ってきたのは言うまでもないだろう。
もちろん、キスなんてするわけもなく、代わりに拳をお見舞いしてやった。
一発で終わらせられるなら、最初から本気だしとけっつーの。
呆れた笑みを浮かべながらも、それでもやっぱりこいつらのこと好きだと思う俺は結構重症かもしれない。
*end*
うわああ貰っちゃいました20万打記念!おめでとう言ってくれたので無理やりリクエストしてしまったー!!図々しいっ!!
めっちゃ素敵ですね超見てみたいこのミニ映画!!どこに行けば見れますか!?というか会計が相手役とかなかなかに斬新ですよね、誰も相手役譲らなさそうなのにどうやって配役決まったのかすごい気になる(笑)
莱さん、素敵小説ありがとうございました!!
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