gift | ナノ





(…どうして、)


閉めきられたカーテン。落とされた照明。
静かな部屋に響くのは、微かなモーター音と荒く息を吐く音だけで。
気が狂うほどの刺激のなかで、頭を過るのはただ一つ。


(どうして、こんなことになったんだ―――…)






【狂宴】






この部屋に監禁されて、今日で何日目だろう。時間の感覚など、とうに狂った。永遠のようにも長く感じているがその実、外の世界では2・3日しか経過していないのかもしれない。まるでここの空間だけ切り取って、時間の流れを遅くしているようだった。


一人用にしては大きなベッドの上。なにも身に付けずに投げ出している四肢。両腕は一纏めに拘束されているが、両手両足はなにかに繋がれているわけじゃない。ただ唯一、赤い首輪だけが重たく首に掛かり、そこから伸びる鎖はベッドヘッドへと繋がれていた。



「、ひっ…!」



さっきまで落ち着いていた玩具が、唐突に体内で暴れだす。途端に全身を襲う甘い痺れに、ここ数日すっかり快楽浸けにされた身体は抵抗というものをしてくれない。ガクガクと震え出すのを止めることなんて出来なくて、せめてもとシーツを口に含んで声を噛み殺す。身動きをするたびにジャラジャラと鳴る鎖の音が、酷く不快だった。



「…っ、ぁ……ふ…!」



何度も何度も押し寄せる波。何も考えられなくて、考えたくなくて、流されてしまいそうになる。溢れでる唾液を止める方法なんて知らない。ずっと噛み続けているそこは、唾液でしっとりと濡れていた。
あと少し、あと少し、あと少し。もう少しだけ我慢すれば、また玩具が落ち着くことはわかってるから。早く早く、早く収まれと震え続ける身体を縮めるように丸くなる。いったいどの体勢が一番刺激を軽減させられるのか、結局まだわからないままだ。

だがもう、我慢の限界だった。
これ以上は耐えられない。きっと可笑しくなってしまう。長く味わうよりも、一瞬で済ませてしまいたい。いっそこのまま自分で、体内から玩具をひり出してしまおうか―――そう、考えたとき。



「偉いねぇ、今日は自分で出しちゃわなかったんだー?」
「っひ、ぁ……かっ…!」
「あーらら、シーツ噛んでもダメだよーって言わなかったっけぇ?」



ジャラリ、首に掛けられた首輪に付いた鎖を急に引っ張りあげられて喉が締まる。同時に噛み締めていたシーツから引き離されて口から銀の糸が引いた。
滲んだ視界に映るのは、カスカスの茶髪に、じゃらじゃらと付けられた装飾品、そして軽薄な笑みを浮かべる綺麗な顔。―――仲間だったはずの、男。



「ただいま会長、今日も1日何事もなかったよぉ」
「て、めぇ…!」
「大丈夫、あのマリモ達を追い出す算段は付いてるから会長は心配しなくていいからねぇー」
「っ、ぅあ……ぁ、も、離せ…!」



ぎりぎりと鎖を後ろへと引っ張り無理やり顔を上げさせられていることに抗議すれば、あっさりと放される手。外部からかかっていた力が急に消え、がくりと元の体勢に戻った身体は、意思に関係なくひくひくと痙攣する。

そうだ、あのマリモがやって来てから、全てが変わってしまったんだ。
副会長達も、学園も、そしてこの男も―――…




「じゃあ今日はバイブを出さなかったご褒美とぉー」
「ひっ!あ、やめっ、さわ、な……ぁ、あ…!」
「シーツ噛んでたお仕置きしなきゃねぇー」
「っ!ふぅぅっ…」



唐突に後ろから延びてきた右手に前を優しく撫で上げられて、身体が不自然に引き攣る。コックリングが填められたそこは、痛々しいまでに腫れ上がっていた。
耳を甘噛みされながら先端を弄られれば、狂おしいほどの快感に生理的な涙が溢れ出す。イキたいのにイケない苦しさと過剰なまでの甘い刺激に、うっかりするととんでもないことを口走ってしまいそうで、ぎりぎりと唇を噛み締めた。



「―――っふ、ぅ、」
「ダメだよぉ、唇切れちゃうでしょう?」
「っぁ…も、はな、っひ!これ、これとれっ、ぁ、あ!」
「まだダーメ。ご褒美に気持ちよぉくしてあげるけどぉ、お仕置きにこれはまだとりませぇん」



茶化すように笑う吐息が近くて、快楽に溺れた身体はそれだけで簡単に熱を上げる。いいようにされてどうしようもなく感じ入ってしまう身体も、口から零れる馬鹿みたいな嬌声も、意思に関係なく流れる涙も、なにもかもがどうしようもなく屈辱だった。



「ほんとはもーっとじっくりゆっくり堕とすつもりだったんだけどねぇ」
「ぃや、だ…!とれ、これ、ぁ、はずせっ!」
「会長が悪いんだよぉ、ふらふらあいつらの方に行こうとするんだもん」
「んっ!ふ…ぁ、ぁ、やめ……」



とんだ言い掛かりだ、勘違いも程ほどにしやがれ。
言ってやりたいことは山ほどある。だけどどれも、言葉にする前に散っていく。悪戯に触れ回る手のせいで、なにもかもが霧散していく。
すると、明確な意図を持たずにふらふらと遊んでいた左手が、ゆっくりと下降し始める。じりじりと焦らすように身体をなぞるそれに、びくびくと身体が震えるのが抑えられない。



「会長はさぁ、俺しか見てなくていいんだよ?」
「あ、あ、そこ、さわ、な…!」
「副会長もさぁ、風紀委員長もさぁ、書記もさぁ、ウザいんだよねぇ」
「ん!んん……ゃ、ふっ…」
「特にあのマリモとかね、いらない、よねっ!」
「っ、ぁああっ!」



細く長い指が後に入ってきたと思ったら、ずるりと一気に引き抜かれた玩具。急激な刺激にがくりと仰け反り喉を晒して喘ぐ。その間も前に絡む手は弄り続けてくるものだから、身体の制御が利かずにぐりぐりと後ろの男に頭を擦り付けながらどうしようもなく感じてしまう。耳から入ってくるくすくすと笑う声、暖かな吐息、時折落とされるキス―――全てが俺を、狂わせる。
どうにかしてくれ、もう無理なんだ。
快感の逃がし方が、快感からの逃れ方が、わからない。



「ふふふーかぁわいいっ。もうとろっとろだねぇ」
「ゃめ、さわ、ぁ、ぁあっ」
「会長ほんと後ろ弄られるの好きだなぁ」



ゆるゆると入り口をなぞられるだけでぞくぞくと肩が跳ねる。
甘ったるい声でくすくすと笑いながら囁かれる言葉。
信じられない、信じたくない―――信じ、ない。



「っ、だいっきらい、だ…!」
「―――…」



震える声を振り絞って否定の言葉を吐き捨てる。
刹那―――全ての動きが、止まった。

唐突に鎖を引っ張られて、無理やり向かい合う形になったそいつを睨み付ける。と、男ははぁっと熱の籠った息を吐き出した。



「―――たっまんないね」



男の瞳に、獰猛な光が灯る。欲情しきったその瞳に、ぞくりとなにかが背中を駆け抜けた。頭のなかで警鐘が鳴り響く。
―――俺は、この先にある快楽を知っている。



「――っああああ!!」
「サイッコーだよ会長…やっぱあんたはこうでなきゃ…!」
「ひっ、やめ、ん、んん!――っ!」



身体を一気に割り開かれて、堪える間もなく声が迸る。その声さえも、男の口内へと吸収されていく。快感の逃げ道が見つからなくて、ともすれば目の前の男にしがみついてしまいそうで、腕が拘束されていることが唯一の救いだった。





最初は痛みだけだった。息が出来ないほどの苦痛。こんなことに慣れるわけがない、そう思っていた。しかしそれが段々と慣らされていき、玩具ですっかり解されていた今はもはや、苦しいほどに快感しか拾えない。
痛みの辛さから、快楽の辛さへ。
着実に作り替えられていく身体。


それを認識したときに走り抜けたこれは
――――嫌悪か、悦びか。





「もうちょっと、だからねぇ」
「はっ、ぁ、も、いらね…!そこ、やめっ!」
「あとちょっとであいつらを追い出せるよぉ」
「ひぁ、も、む、りだ…!ぁ、ぁああ…!」



がくがくと揺さぶられて、聞くに耐えない声が止まらない。
過ぎた快楽が、辛くて。感じ過ぎる身体が、怖くて。
普段からは想像できない獰猛な顔で笑うこいつに、すがりつきたくなっている自分が、嫌で。



「大丈夫、その頃には堕としといてあげるから」
「だ、れが…ひっ!」
「俺なしじゃいられない身体にしてあげるよ」
「っは、ん、ぁ、あああ…っ!」



世界を遮断して、滲む視界から目を細めてこちらを見る男を追い出して。血が滲むほど、握った拳に力を込めて。この狂った日々が、早く終わるようにと、願う。







だけど、頭のどこかではわかっているのだ。


狂宴は終わらない。
――――俺がこいつに、堕ちるまで。










*end*
ぽり様お誕生日おめでとうございます!!
お初ヤンデレ…しかも一方通行てこれじゃただの●イプですね…!いやでも大丈夫ですこっからきっと愛が芽生えるよ、ね、会長様…!
こんな駄文でよければ貰ってやってください!




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