gift | ナノ





「よっ」
「おーいらっしゃい」
「悪い、遅くなった」
「いいよ別に。ほら入って」



約束していた時間より30分遅く登場した俺を、嫌な顔一つせず部屋に迎え入れてくれる出来た友人。いつものように、俺はこの部屋にお呼ばれしすぎて最早定位置となった靴箱へ革靴を入れた。






【盲目は人を臆病にする】






「部活終わんの遅かったんだ?」
「や、なんか途中で捕まって」
「なに、また告白?」
「んー」



矢継ぎ早に投げかけられる質問。部屋主よりも先にリビングに向かいながら適当に答えてやる。ドサリとソファに沈みこめば、部活による肉体的疲労と告白による精神的疲労が相まって、どっと疲れが襲ってきた。



「またかぁ…で、どうすんの?」
「は?付き合わないに決まってんだろ。」



また告白かと言われるくらいには、俺は見た目はいい方だ。自覚はある、無自覚よりはましだろう?
別に役持ちとかじゃなく一般生だけど、親衛隊申請が来るレベルで俺はこの学園では人気があった。まぁまだ入隊希望者少ないみたいだから断ってるけど。ちなみにこいつは既に親衛隊発足済み。


そもそも、俺は男に興味がない。
中学からこの学園に入学した俺にとって、ここの風習は信じられないものだった。可愛い子でもここにいる限りそいつは男だろ。受け手に回るなんて当然論外だが、そうでなくとも男に突っ込むなんて何がいいんだよ。女の子の方が柔らかいし可愛いし角張ってないし断然いい。断然楽しい。
だから少しでも彼らに気を持たせないように、俺は自分がノンケであることを豪語していた。そのことをこいつは重々承知のはずなんだ。それなのに、こいつは俺が告白されたと聞くといつもいつも確認してくる。聞くまでもないだろうが。めんどくさくてそう言えば、そうだなと笑って台所へ戻っていった。座っている俺の頭をくしゃっとするのを忘れずに。



「もう出来るから。ちょっと待っててな」
「あいよー」



眠さに半分負けながら答えた後で、はて、と首を傾げる。
おかしい。俺の統計によると、あいつが頭を撫でるのは(自分で言うのも何だが)俺にキュンとした時のはず。なんだ…俺なんかした?

あー…ていうか、遅刻したしちょっとぐらい手伝ってやらねーと。



「おー旨そな匂い」
「ん?どした 、喉乾いた?」
「や、なんか手伝うことないかなって」
「なにそれ、なんか悪いもんでも食った?」



のそりとソファから立ち上がって台所へ向かう。親切心から手伝いを申し出るも、すぐに鼻で笑われて。酷い言われ様に、失礼なやつだなと言おうとジュージューいい音を立てているハンバーグから視線を上げて―――目に入った顔に言葉が詰まった。おい、なんでそんな嬉しそうなんだこの野郎。



「いいから休んでろよ」
「や、うーん…」
「疲れてんだろ?ソファで寝てていいから、な?」



言われた途端、思い出したように襲ってくる眠気。ソファで寝るという誘惑に抗いきることが出来ずに頷いてしまう。すると、またも嬉しそうに頭を撫でられた。
だからなんだっての。お前が俺を好きなのはわかってんだけどさ、ポイントがわかんない。



俺がこいつの気持ちに気付いたのはいつだったっけ。
他の奴らに対する反応と俺に対する反応が違うのに気づいたとき?無駄にスキンシップが多いと思ったとき?
まぁなんだって良いけど、一度気付いてしまえば、なんで今まで気付かなかったんだと思うくらいあいつは隠すのが下手だった。というか、上手く隠してはいるんだけど想いがはみ出て漏れちゃってる感じ?なんて、その想いのベクトルの向かってる先が自分だと思うと恥ずかしい限りだけど。



「なにか飲みもんは?」
「んー…適当にもらってっていい?」
「おう、好きなのとってけよ」



鼻歌でも歌い出しそうにフライ返しを握って上機嫌な奴を横目に冷蔵庫を探る。俺の部屋のとは違って充実した中身に感心しながら取り出したのは、好物のジンジャエール。

そういえば、歌っても良いけど鼻声だから鼻歌でも同じじゃない?なんて前に言ったことがあったっけ。あん時、どうしてお前はそうデリカシーがないんだってめっちゃくちゃ怒られたよなぁ、周りの奴らに。そんで、ただでさえ傷付いた顔してたのに、否定はしないあいつらの発言にもう泣きそうになっちゃってて笑ったんだよな。
今考えるとほんと俺って嫌な奴だと思うけど(思い出して吹きそうになんかなってないしまじで)こいつの気持ち知ったその時から、今も昔もからかうのに忙しくてちゃんと考えたことないな、統計とってたくらいだし。どうもこう言うと俺がより悪いように聞こえるけど、でも本当は、こいつが悪いんだ。



「なぁ、お前って好きな人いないの?」
「え、はぁ!?」
「っぶねぇな!動揺しすぎだばか、ちゃんと握ってろ!」



何年も前から、少なくとも俺が気づいたときより前から、ずっと俺のこと好きなくせに。
気持ちだだ漏れなくらい、好きなくせに。
こっちに気づかせといてそりゃないだろう。
一言も、何もないなんて―――…


そりゃ、気づいた当初はかなり悩んださ。
俺はこいつをそういう風に見られるのか?受け入れられるか?もし無理だったら、その後の関係は?壊れるのが嫌なら受け入れるしかないのか?

だけど、こんな風に悩むことは無意味だって気付いたんだ。
だって、俺が何を考えようが、シュミレーションしようが、お前が行動を起こさなきゃ俺とお前は、

(―――親友のままだろう?)






部屋に流れる洋楽が耳に心地良い。いい感じの香りに眠くなる。
俺好みの選曲に俺好みの香り、俺好みのメニュー。そして極めつけは俺好みの部屋の内装。いったいどうやって同室者を説得したんだか、個人部屋は愚か共有スペースまでもが俺好み。
俺の趣味にあわせようとしてるのバレバレな残念なチョイス。ベクトルの方向は間違っているけれど、その努力の絶対値に免じて、スルーするつもりらしいさっきの質問は追求はしないでやるよ。



「…あ、この曲俺好き」
「まじ?俺もコレ試聴して良いなって思ったからアルバム買ったんだよね」
「お前が?ふーん……趣味良いな」



キラキラ輝く笑顔でこっちを向くのに、片頬だけ上げて応えてやる。
あーもう、嬉しそうな顔しちゃって。ほんっと俺に関しては安い男だよな、お前。どうしてそれで満足しちゃうんだか。

だけどさ、俺は一体、どう反応すれば良い?
音楽も、香りも、部屋さえも俺の趣向にあわせて。
それで告白もせずに、俺にどうしてもらいたいわけ?
お前って、そういう奴だったっけ。
俺の気を引こうとして、お前がお前らしくなくなっていくのが、気に食わない。



どうして言わない?
どうしてお前自身を好きになってもらう努力をしない?
お前は本当にこれで満足なのか―――…?

俺のノンケ発言がお前の足をすくませてるのはわかってるよ。でも―――怖いかもしれないけど、覚悟がいるかもしれないけど。
だけど、お前が好きになった男は、好きになられたからって離れていくような、そんな男じゃないだろう?



「よっし、出来た!食おうぜー」
「おう、運ぶくらいは俺がやる」
「じゃあお願いしよっかな」



ここまで待ってやったけど、だけどもう、時間切れ。
これでも短気な俺的にはかなり待ったんだ。

テーブルの上に皿を置く。次いでいつもと違ってあいつの横に座り、何かと振り向いた頬にキスを送った。驚愕で目を見開くのを極上の笑みで迎え撃つ。



もうお前は十分、悩んだだろう?
だから今度は俺の番。
なぁ、そろそろ俺にも、真剣に悩んでも良いって確証をくれないか?



「な、なにいきなりっ……!」
「はは、ビックリした?」



俺のことを想いすぎて永遠と二の足を踏んでいるお前のために、俺がきっかけを作ってやるよ。



「なぁ、好きだって言ったら、どうする?」



この後どうなるかは、お前次第。








*end*
シオミチ様お誕生日おめでとうございました!
遅くなって申し訳ありません(′・ω・`)
ノンケ受けになりきれなかった感は満載ですが、こんな駄文でよければ貰ってやって下さい…!




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