すき、きらい、すき、 | ナノ





「桐生様を泣かせたら、許しませんから」



すれ違い様に殺気と共に告げられた一言。
その言葉の重みを受け止めながら、俺はわかっていると頷いた。






すき、らい、すき、






(つっても、これはさすがにノーカンだろ…)



柔らかくベッドへと押し倒し、桐生の顔を濡らす涙をちゅっと吸い取った。顔に優しく、労るようにキスを降らして少し塩辛い水分を吸い上げる度にひくっと過敏に震える体がどうしようもなくいとおしくて、もっともっととキスの雨を降らす。



もっとこいつが弱いやつだったら。もっとこいつが女々しいやつだったら。そしたらもしかしたら、泣かせない方法はあったかもしれない。きっと泣き止ませる方法はいくらでもあったんだろう。
だけどこいつは、そんなやつじゃなかったから。女々しいどころか―――悔しいくらいに、男前なやつだったから。



『結局俺は、自分がかわいかっただけなんだよ…!』



そう苦しそうに吐き出して、歯を食い縛って涙を流す桐生を止めることなんて、俺にはできなかった。
深く傷つき喘いでいるこいつに、浅はかな言葉を掛けられるわけがなかった。こいつは懺悔を聞いてほしいだけだとか、違うよお前は悪くないよなんて言葉を求めているんだと思えるほど、俺は能天気じゃなかったから。
桐生は俺に許しを求めていたわけじゃない。慰めてほしかったわけじゃない。こいつはただ、本当に、心の底から悔いているのだと。自分のしたことを嘆くその姿は、見ていられないほどに痛々しくて。

そして同時に俺は、こいつがここまで深く傷ついていることにようやく気づいて―――どうしようもなく、後悔した。どうして気づいてやれなかったのかと。どうしてここまで追い詰めてしまったのかと。
だけど、俺にはなにも言えなかった。言う権利などないと思った。今さら何をしたって過去のことはなかったことにはならない。なにもしてやれなかった事実は、変えることなんてできないから。


知らなかったでは済まされない。けれど、だからといって、俺のせいだと謝るなんてこいつの苦悩を侮辱するようなことできるわけがなかった。
ならばせめて―――その傷を、分かち合いたい。
共に背負い、苦しみ、悩み、癒していきたい。



『幸せにする…絶対に、幸せにするから』



その傷を癒してやれるくらい、愛すから。お前が前を向けるようになるくらい、愛すから。
だから二人で、幸せになりたいと思った。
今俺にできるのは、きっと、これくらいしかないのだと―――…






「…はっ、ん…」
「んっ、な、ここで、良かったのか?」



シャツのボタンを外してその滑らかな肌に唇を滑らせる。しかしここにきてようやくこの部屋がどこかを思い出して、思わず顔を上げた。すると恥ずかしいのか腕で覆われていた顔がそろりと現れて。微かに朱に染まった顔が、恨めしげに俺を見上げながら口を開いた。



「いい、から…っ!どこだっていい、お前なら、なんだって…っ」
「っ、きりゅ」
「…くっそ、言わせんなこんなこと!」
「―――っ!」



バッと再び腕の下へと消えてしまった顔。その一瞬前に見えてしまった羞恥に駆られた真っ赤な顔と悔しそうな言葉に、煽られないわけがなくて。
自分が着ていたシャツをジャケット共々引きちぎるように脱ぎ捨てる。がっと高ぶった熱に任せてぎゅうっと上半身を抱き締め、ちょうど目の前にある乳首に舌を這わした。



「っちょ、や、そこ…っ」



驚いたように跳ねた体。舌で一方の乳首を転がしながら、もう片方の乳首も優しく擦ってやる。すると面白いようにびくびくと跳ねる腰を、諌めるように優しく撫でた。そのまま乳首を優しく刺激しながら引き締まった綺麗な腰の撫で心地を堪能していると、桐生は耐えられないとでもいうように身を捩り、俺の頭を押さえつけた。



「はあっ、はっ、や、も…っ」
「んっ…どした?」
「そこ、もうやめろっ」
「んー…今日は優しくするって、決めてっから」
「ちょ、くた、ひぅっ…!」



頭を押さえつけての妨害に仕方なくちゅっと乳首から唇を離して顔を上げる。すると食い縛った歯の間から熱い息を溢す桐生と目があった。
けれど、目尻を朱に染めて上気した顔を見てやめてやれるわけもなく―――つ、とヘソまで腹筋をなぞるように舌を這わせれば、俺の髪を掴む手にぎちりと力が入った。



「や、あ……くっ」
「っは、ちょー敏感」
「るせっ、てめぇがんな触り方すっから…っ」



スラックスとパンツを脱がしにかかりながら、暇さえあれば腰回りと背中を弄る手は止めない。ひくひくと跳ねて逃げを打つ腰を捕まえて、すっかり勃ち上がっているモノにニヤリと笑いながら見上げれば、蕩けきった顔が俺を睨んでいて。
ずしっと重くなる正直な下半身。俺はチッと舌打ちをして桐生のソレに舌を這わした。くそっ、せめて最初はじっくり優しようと思っていたのに。



「や、んんっ、なにして…っ」
「てめ、んな煽んな…っ!」
「やめ、はああっ…」



だらだらと汁を溢すモノを喉の奥までガポッとくわえる。ビクッと大きく跳ねて逃げようとする腰を片手で捕らえてカリから裏筋から丁寧に愛撫してやれば、上擦ったような甘い声が溢れた。
このまま本当は一度イカせるつもりだったのだけれど、正直自分の方もかなり限界で。桐生の一挙一動に煽られ続けられて今にもはち切れんばかりの自身。欲望には勝てず、桐生のモノから溢れた汁と自分の唾液で十分濡れた入り口へぐちりと指を挿入させた。




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