すき、きらい、すき、 | ナノ





『ならよ、俺としてみねぇか?』
『仁科、俺を抱け』



フラッシュバックする、自分が口にした言葉。
自ら男を誘い、悦ぶ自分の姿。


―――これは、罰か。






であるがゆえに






「っやめろ!俺に触んじゃねぇ!!」
「ちょっとほら、落ち着いてくださいよ会長」
「おい、お前そっち押さえてろ」
「ざけんな!触んなっつってんだろ!」



四方八方から伸びてくる手。
渾身の力で抵抗しようとするも、多勢に無勢であっという間に制服は剥ぎ取られていく。暴れる手は後ろで一纏めに、足もそれぞれ折り畳むように縛られた。喚く口にはタオルの猿轡を噛まされる。そのまま無様にベッドに横向きに転がされ、下衆な目で見下ろしてくる糞野郎共を睨み上げれば、静かな部屋にごくりと唾を飲む音だけが響いた。



見知らぬ生徒二人に声をかけられた時は、まさかこんなことになろうとは思ってもいなかった。いつものようにあしらってやれば済むだろうと。いつものように、こちらが拒否すれば強行手段にでるような奴らはいないだろうと。
しかしそんな俺の甘い予想は容赦なく裏切られる。油断して舐めきっていたせいで、雲行きが怪しくなるのはあっという間だった。



『てめぇらに付き合ってる暇はねぇよ。俺抜きで勝手にヤってろ』



俺のことを真性の色欲魔だと思っているらしい奴らは、お前らなんか願い下げだと伝えればすぐに引き下がっていく。複数でくるような奴らは特に、俺を見下し蔑みながらも、しかし俺に逆らったり強気にでることのできないような男共ばかりだったから。
そう、だからいつものように断りの文句を口にしていなくなろうとした俺は―――しかしあまりにも簡単に、そいつらに捕まった。腕と腰、口と腰に絡んでくる腕は、丁寧にエスコートしているようで、その実見事に俺の抵抗を阻む拘束具で。逃げ出そうとしていくら暴れようと、二人がかりで押さえられてしまえばどうしようもなく。
無理矢理連れてこられたすぐそこの部屋で待っていたのは、新たな二人の生徒だった。






「っはは、ほんと、うちの会長様はえろいなー」
「んな睨まないでくださいよ、あんたが悪いんだから」
「あんたが最近えろすぎんのが悪いんだっつーの」
「どうせこうして欲しくてあんな顔してたんでしょ?ビッチ会長さん」



好き勝手なことを宣う奴らを怒鳴り付けようとしても、口から出てくるのは間抜けなくぐもった音だけで。奴らは着衣しているのに自分だけ全裸で拘束されているという状況に、信じられないほどの屈辱と怒りが止めどなく沸いてくる。



(なんで、どうしてこうなったんだ―――…)



頭を回るのはこの状況に対する憤りと疑問。
こいつらの性欲が異常なせい。こいつらの策が周到だったせい。俺が油断していたせい。
それともまさか本当に―――俺が、久谷を誘った時や仁科を呼び出した時のように、男を誘っていたのか。



「しかしまさか会長があんなとこで座ってるなんてね」
「無防備すぎて思わず作戦忘れちゃいましたよ、一応シナリオ作ってあったのに」
「あげく直球でいって断られるっていう」
「でももう喜んで受け入れてくれますもんね、桐生会長?」



興奮しているせいか早口でどこかぎこちない笑顔の下、欲望をたぎらせながら迫りくる手に舌に、ざっと血の気が引いていく。
いやだ、くそ、ふざけんな、触んな、死ね、死んじまえ…!
言いたいことは山ほどある。それなのに、なに一つ言えないまま、欠片も抵抗さえできないままに、奴らが体に触れるのを許してしまう。嫌なのに、気持ち悪いのに、嫌悪感と生理的な反射で触れられた瞬間びくりと体が跳ねて、奴らの望む反応をしてしまった。



「あはは、びくってした、かーわい」
「どうですか、気持ちいい?」
「んぐう、んん"ーっ!」



口から出るはずの罵詈雑言はすべて轡に吸い込まれていく。必死に抵抗しようとしてもできるのは体を捩ることだけで。芋虫のように這いつくばって身を震わすことしかできないのがどうしようもなく屈辱的で、恥辱的で。

ぎりぎりと睨み上げたその時、目に飛び込んできた光景に―――俺は愕然と、硬直した。



「やばい超興奮してきた、あんたえろすぎ」
「そんな顔して男誘いやがって…まじクるわー」
「ははっ、そんな怯えた顔しないでくださいよ…めっちゃ興奮するから」
「……っ!」



欲情してギラつき血走った目。興奮して熱く荒い息。
そして、取り出された猛った逸物。

逃げだそうと動こうとした瞬間、手が腕が伸びてきて、無理矢理足を開かされる。



「つーわけで、あんたが煽ってくれたモノ…自分で始末、してください、よっ!」
「―――んぎ…ッ!!」



ぶちり、皮膚が切れる音。
痙攣する体。霞む視界。はくっと喘ぐ口。



(―――…!)



無意識のうちに叫んだ名は、しかし音にならずに消えていった。






***






「あっ、あーでる、イクっ」
「ふぐっ、う、んぐうっううっ…!」



がちゅがちゅと口の中を出入りしていたモノから突然吐き出された白濁。顔を引こうにもしかし押さえつけられた頭は逃げることも許されず、窒息しないために喉を動かすという選択肢しかなく。目の眩むような屈辱の中で飲み下しながらも、ねっとりと喉に絡まる液体の感触に吐き気を覚えて喉が震える。するとまた、その震えが気持ちいいとでもいうように目の前の腰も小刻みに揺れた。



「げほっ、んぐっ、は、かはっ…」
「おーおー、いーい顔」
「そんなに旨かったか?俺の精液」
「だま、れっ…!」



ずるりと俺の口から抜け出ていったモノは今度は体に擦り付けられる。後ろに挿れられたモノはまだ出し入れされているし、萎えたモノも俺の体に擦り付けて昂りを取り戻していく。そして空いた口の前にはまた、別の逸物が翳される。



「ははっ、まだそんなこと言うんだ?」
「も、やめろっ…!」
「生意気な顔、してんじゃねぇよっ」
「ぐあっ、あ"あ"あああッ」



ぎりっと睨みあげると、後ろで好き勝手腰を動かしていた男がぐりぐりと裂けた傷口を拡げるようにモノを押し付けてきて痛みに視界が霞む。あまりの激痛に体が痙攣し、悲鳴が口から迸った。


いつまで経っても終わらない、いくら処理しても終わりの見えない狂宴。 いったいどのくらい時間が経ったのか。散々弄ばれ、好き勝手に蹂躙され続けた体はもうとっくに限界を越えていた。四つん這いになった手足はもう拘束されていなかったが、抵抗なんて、逃げ出すことなんてできなくて。
できることはもう、ただただこの狂った時間が過ぎるのを願うことだけで。



(嫌だ、もう嫌だ、早く終われ、早く終われ、もう終わってくれ)



なすがままに乱暴に体を揺さぶられながら、もう麻痺してもいいはずの状況なのに、しかしプライドと体力がそれを許してくれず。信じられないほどの痛みと、吐き気を催すほどの屈辱しか感じない。
けれどそれでも今、助けを求められるような相手は―――俺には、いなくて。
こんな時に名前を呼べる相手がいないことに、気づいてしまって。



これが俺がしてきたことに対する罰だって言うんなら構わない。
もうなんだっていいから、とにかく早く終わればいい。誰に気づかれなくたって、助けられなくたっていい。助けが来ようが来まいが結局は終わるのだから、だったら寧ろ、誰にも気づかれないで終わってほしい。

副会長にも、会計にも、書記にも、仁科にも。
それになにより久谷だけには―――こんなことになっている自分を、絶対に知られるわけにはいかないから。



「おら、休んでんじゃねぇよっ」
「まっ、んぐう、んん"っ」
「ははっ、本当に下のお口も上のお口も絶品だな淫乱会長様」



痛みばかりを与えられ、消耗しきった体は、一度たりとも昂ることなどなかった。ただ、もしもこいつらに与えられたのが痛みではなく快楽だったとしたら―――…

久谷に組み敷かれた時のように。
仁科の上に跨がった時のように。

感じ、善がり、喘ぎ、乱れないとは言い切れない自分が。
その可能性を否定できない、簡単に意思を裏切るこの体が、どうしようもなく、恐ろしくて。


今の自分のこの状況よりも、そんな自分の体を久谷に知られることが、俺にとっては一番の恐怖だった。






*end*




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