すき、きらい、すき、 | ナノ





「これで生徒会からの報告は以上だ。なにか質問は?」



資料を片手に、黒板の前に立つ姿はなにも変わらない。
俺との関係がなかった時から―――俺との関係があった時も。






らいなんだと






終わりを告げられた会議の資料を片付けつつ、掛けられる声に適当に応えてやる。
週に一度の報告会は、毎回ほぼうちと生徒会の話で終わる。他の委員会はなにか行事がない限り一週間では新しい報告内容などできないから、それは仕方のないことだった。



―――桐生は、見事だった。
あの電話があったその次の日から、俺たちの関係は、まったくなにもなかったかのように前のものへと戻っていた。連絡は途絶え、口をきかず、目も合わせず、見かけることさえ少なくなった。極稀に会話するときでさえ事務的なことしか話さず、不遜で傲慢な態度で必要事項だけ告げられて、終わり。
それは本当に、以前の関係と同じで。あいつとセフレだったなんて夢だったかのように完璧な戻り方に、その話を出すことさえ憚られた。



(相手の顔色を窺うなんていつぶりだ)



しかし、こうなって初めて気づかされる。
あの、濃すぎるほどに濃く、暇さえあれば顔を会わせていた時も、結局俺たちの間にはセックスしかなかったということを。あの時もセックスの話題を抜かせば結局今と同じなのだ。今のこの、限りなく必要最低限しか接触しない関係となんら違わない。

あいつが持ってきていた書類は、前と同様補佐が持ってくるようになった。俺が書類を届けにいったところで、とっくに仕事を終わらせた有能な会長様が放課後まで残っていることはなくなった。電話さえ繋がらなくなり、あいつの番号を知らなかったときと同様、仕事の電話は副会長にするしかなくなった。
あの期間、いかにあいつが俺に合わせていてくれてたかがよくわかる。始まりは電話。俺が電話をし、約束を取り付け、あいつは俺に会いに来るか、もしくは待っていてくれた。すべて俺から持ち掛け、あいつはそれを承諾していただけだ。
あいつから、ということは一度もなかった。
しかし同時に、断られるということも、一度もなかった。



「会長、さっきのなんですが」
「あ?ああ、ここか。確かに俺もここはどうにかしなきゃと思ってたんだよな」
「はい。それでですね…」



会議が終わったあとも、すぐに帰るというやつはあまりいない。全団体のトップたちが集まってるわけで、これを活用しない手はないからな。だから会議終了後しばらくは、全体に告知するほどではない情報のやり取りでざわざわと騒がしい。そんな中でも、あの声だけやたらに拾ってしまう自分に苦笑する。


バカみたいだ。結局は俺ががっついていただけで、それを許容してくれていた桐生にそっぽを向かれれば、こんなにも簡単に呆気なく、俺たちの間にはなにもなくなる。
セフレだから、それでいいはずなんだ。そうでない、それ以上の関係なんて、面倒くさくて鬱陶しくて嫌いなはずなんだ。

それなのに、本当に体の関係しかなかったのだと突きつけられて。
あいつが本当にセフレとしての俺しか興味がなかったのだと実感して。
―――予想以上のショックを受けている、自分がいた。



「久谷委員長、今大丈夫ですか?」
「ん?ああ」
「あの、これなのですが…」
「あー、それなら資料はうちの部屋だな…ついてこい」



ぼーっと見ていた桐生との間に入ってきた体。求められた資料は今持ってきていないことを確認し、重たい腰を持ち上げる。これ以上ここにいたところで、やることなんてぼんやりとあいつを見てることしかないから。
がたりと立ち上がった俺を一瞬桐生が見た気がしたが、気のせいだったかもしれない。






***






「久谷様、お待ちしておりました」
「…はっ、準備万端じゃねぇか。胸くそわりぃ」
「はい、ありがとうございます」



掛けた電話は、ワンコールで繋がった。久しく触ってもいなかった方のスマホは、しかし相変わらず掛けるだけでセフレが足を開く便利な機械のままで。開いた電話帳の中からこいつを選んだのは、他のやつらと違って最近ちょいちょい見ることが多いせいで、顔と名前が一致したからだった。
電話してから十分も経っていないのにも関わらず、指定した部屋が見事に整えられてるのに嫌味を言ってやる。しかしそれにさえも嬉しそうに返事をされるのがまた、胸くそ悪い。



「これは随分とまた、セフレ用にしてはあっまい演出だな」
「ええ、いつお呼びがあっても大丈夫なよう色々用意してたので」
「ははっ、悪趣味だな」



綺麗にベッドメイクされたベッドの上に無遠慮に腰を下ろす。ベッドヘッドに置かれたキャンドル、凝った間接照明、部屋に充満する甘く焚かれたお香の匂い。
よくもまあ、ヤるためだけにここまでやるもんだと感心していると、こちらも準備万端という風に甘い匂いを漂わせてバスローブを纏っているチワワが、俺の足の間に膝まづいた。なにも言っていないのにスラックスを寛げるのを止めずに眺めつつ、なんだか笑いたくなった。



「ああ、久谷様…いただきます」



かわいい系の顔に下品な笑みを浮かべ、そいつはなんの躊躇もなく俺のモノをぱくりと口内へと咥え込む。旨そうに舐められ、手を使って根元から隠曩から刺激されれば、なんの反応もしていなかったのが少しずつ勃ち始めた。



「んっ、んんむ」
「…もっと舌使え」
「あんっ、んうっ…」



一番セフレ歴が長いだけあって、俺のポイントを抑えている愛撫の仕方。しかし刺激されれば否応なしに反応してしまうモノと違って、思考の方は冷めきっていた。
懸命に奉仕してくる男の髪を撫でながら、こんな時でも考えるのは、考えてしまうのは、あいつのことで。



(―――もしこれが、桐生だったら)



いただきますなんて、萎えるような悪趣味な言葉は言わない。旨そうにしゃぶるわけがない。奉仕になんて慣れていないあいつは、きっと最初は戸惑い躊躇するに違いない。
それでもきっと、嫌だとは言わないのだ。思い切りのいい男だから、最初は戸惑いながらも恐る恐る口を付け、そして覚悟したように一気に咥えるんだろう。拙い動きで必死に刺激しようとし、けれど上手くできなくて噎せるのだ。
手伝うという名目で頭を捕まえて、イラマチオをしてやってもいい。驚き逃げようともがき、しかし逃げられずにえずいて涙目になる様は、きっとなにより、そそられる。

しかしそこまで考えたと同時に、ぐわっと下半身に熱が集まるのがわかって。



(サイアクだ―――…!)



当然それに気づいたように激しくなる口の動き。
下半身から鋭く広がる快感に歯を食い縛り、一心不乱に俺を咥え込んでいるそいつの頭を掴んで引き剥がした。



「チッ、もういい…!」
「ん、んむあっ…」



がっと無理矢理引きずり出すと、名残惜しそうに追いかけようとする口から完全に勃ち上がったモノがずるりと出てきた。愚かすぎる思考と正直すぎる体に苛立ちを隠せない俺を、しゃぶってるだけで勝手に興奮していたらしい濡れた瞳が熱っぽく見つめる。



「はあっ、飲ませて、くださらないのですか…っ」
「るせぇな」
「で、でも、あとちょっとだったのにっ」



なんでそんなに必死になって俺の精液なんか飲みたがるのか、皆目検討もつかない。完勃ちだったモノもその姿に僅かに萎えた。
慌てたように、でも気持ちよかったのでしょうと必死に言われるが、残念ながらあれはお前のフェラのせいじゃねぇ。しかしまさか、桐生の痴態を想像して完勃ちしましたなんて情けねぇことは言えるわけもなく、俺の精液を欲しがってキャンキャン喚く口を抑えた。




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